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黒の過去。

夜風が薄いカーテンをはためかせている。


「不用心だな、これも風の性質か?」男は窓枠に腰掛けていた。


「口説きに来たなら無粋、殺しに来たには暢気すぎるわ、ヒロキ。」女はそう言うと蝋燭に火をつける。


「人恋しくなったんで、抱きに来た。ダメか?」ヒロキ・カキザキはそう言うと部屋に降り立った。


「子守りはどうしたの?次代の『黒の術師』がいるんでしょう?」女は薄い黄緑色の髪をたらしていた。就寝前だったのだろう、薄い下着姿で真白い肢体がほどよく肉づいて、魅惑的だ。けれども、どこか人間らしさを感じさせないのは、精霊だからか。


「次は無さそうだからな。」ヒロキはそう言うと女の手を取った。

「……そう。まぁ、あなた人間にしては長生きしすぎているから、いいんじゃない?それと…間違えないで。」女はぐっと手を引くと、そのまま寝台へ倒れ込んだ。ヒロキを乗せて。


「私があなたを抱くのよ。」そう言ってヒロキの腰に足を絡めた。

「風に抱かれる、というわけ?」

「未知のものを征したいと思うのは、人間も精霊も同じよ。ヒロキ。」女はそう言うとヒロキの服に手を忍ばせた。

「相変わらず、似た者同士って訳ネ…。じゃぁさ、俺の子供、生んでくれる?」

「……数パーセントに可能性があるなら、ね?」

「よく覚えているね。死に向かう生物はやはり己の証を残したいようだ。」ヒロキは自嘲ぎみに言う。

「死は常にそこに。そんなことも忘れてしまったの?」唇のはしで笑う女は、やはり自分と同じだと思う。セックスすら遊戯のように。

「いいや。……生を感じたいんだ。今だけでも…。」こぼれた台詞がとても弱かったから、女は一瞬言葉を失った。

「馬鹿ね。いつの時代も、女は男を生かすために存在するのよ。」そう言うと、ヒロキに優しいキスをした。


まるで、母のように。






**************

油断していたわけではない。


いつか、こんな日が来ると気づいていた。


だから。




「ヒロキ!!!」誰かが叫んだが。わかっている。俺の今やることは戦うことだ。


刺さった部位が熱を持つように熱い。そこから生命の源が流れ落ちていくような感覚。

(貧血)

目の前の男の顔もまともには見れなかったが。

きっと笑っているのだろう。

最強と言われたこの俺が、無様に刃物などで倒れていく様を。


焦らずに術を発動させる。一瞬だがあいつの顔が見えた。


焦った顔。甘いんだよ。俺が何の準備もせずにいたと思うか?


これで永遠にお前に俺のすべてを手に入れる術は無くなった。


(ユウスケ…)



************************


次に目が醒めたのは森の中だった。

おかしなことに肉体も修復をかけたからか特に変化はなく、だが身体を覆う違和感には身に覚えがあった。


(これはーーーーーー)



跳躍。


どの世界の、どの時代かは知らないが、どうやら俺は『跳んだ』らしい。

いや、何かの事故で『跳ばされた』らしい。

(術式に問題が……?)今は考えてもわからないのでその問題は後回しにする。

ひとまず上空に上がってみれば町が見える。

「行くか。」しかし、俺は事切れたのか、それとも未だ生きているのか。


町で俺を見える人間が多かったということは、つまり俺は未だ生きていることになる。

(おかしいな…)あれは致命傷だったはずだが。

だからこそ、『黒の総本』に自らを縛り付けたはず。

町はそこそこの大きさだった。アドナというらしい。新聞も読めたから、同じ世界で間違いないだろう。

その暦は俺が知らないものだ。

歴史書もあらかた読んだはずだが、それ以前のものなのかもしれない。

文明は中世ヨーロッパのさらに田舎を想像してもらえばいいだろう。ギルドは商業ギルド、討伐ギルド、製造ギルドに別れていた。

ひとまず金を稼がねばならないため討伐ギルドに登録し、適当な獣の狩りをしてその日の宿を得た。

(金はあるが貨幣が違いすぎる。)面倒なことになったと思いながら、俺は次の行動を考えた。

当然、元の世界へ戻り四代目を倒す事だ。だが、一口に跳躍といっても飛ばされた先の軸から元の軸へ戻るためには有る程度の道筋が必要であり、そのための準備も必要だった。

都と呼ばれる場所へ行くため、何日か討伐の依頼を受け、都までの護衛の依頼へ参加した。何しろ、こんな動物と畑しかないようなド田舎では、必要な材料すら揃わない。

(【魔法使い】が居れば簡単なんだがな。)彼等は大抵俺に攻撃をしてくるのだから、そのエネルギーを利用しない手は無い。


都へついた所で戦の噂を聞く。

(チャンスだな。)俺は都の徴兵に志願した。だがどいつもこいつも、妙に行動が遅いのが気にかかる。

「ああ、仕方ないさ、戦なんて、何十年ぶりだからな。しかも、国境のあちら側で、小さい小競り合いだろ?」この国の兵ですらこんな奴がいる。負けるんじゃないのか、これは。

俺はため息をつきたくなりながら、問題の前線へ先行した。


現場は右往左往する兵士たちが大勢いた。

(?何に気を…)敵陣は離れてはいるが俺に見えない距離ではない。数十キロ先の崖の上を見た。


【魔法使い】馴染んだその気配に自然と笑みがこぼれる。


(ちょっと遊んでやるか。)


「と、その前に、こっちの『魔法使い』はどこにいる?」周りの奴らに聞いた。

「?何だそれ。」

「だから、【魔法使い】だ。居るんだろう?敵にも居るじゃないか。」まぁ、『絶対領域』ではなく通常戦域なら、制限はかかるだろうが。敵にいるのなら、味方にも居る。それがセオリー。


「だから、何だそのまほうつかい、ってぇのは…!」気が立っているのか小太りの男が答える。


「?だから、あそこにいる奴…」俺が敵陣を指差すと男は顔を赤くさせ、


「何だ、あの化物は…!あいつが来てから戦がおかしくなった…突然光ったと思ったら皆倒れてやがる…!正気じゃねぇ…正気じゃねぇよ…!」


(【魔法使い】を知らない…?いや、)


「来るぞ…!」誰かが叫ぶ。空が光る。


どうやら、光の矢が天から降ってくるようだが。


「めんどくさい。」ひとまず陣すべてに結界を張った。矢はすべてはじかれた。俺は違和感を感じた。


「何が起こった…!? 」場は混乱している。酷い怯え様だ。知らず舌打ちをしていた。


「頭を穫ればいいんだな?」すぐ近くに居た上官に確認するとそのまま敵陣へーーー


『転移』



「!? 」突然現れた俺に周囲は驚き、呆然となった。俺はそいつを探した。


「いた、お前!そこの大男!」男は大きいが真っ白い髪をしていた。俺に気づくと一瞬目を見開き、それから吠えた。

「い〜い反応だ。」それこそ【魔法使い】らしい。俺は瞬時に間合いを詰めて、男の前に立つ。


「一つ聞こう。お前は、【魔法使い】か?」

「貴様は敵だな!」男が魔法を使うよりも早く俺の手が男の手を押さえ込む。ついでに魔法も禁止っと。


「ぐぁあっ!!」あ、少し骨が折れたかも。

「質問に答えろ。お前は、【魔法使い】かと聞いている。」加減って難しいな。早くしないと首が折れるぞ。俺は男の首に手をかけ聞く。

「っが…は…し…ら…な……」そこで敵が襲って来る。面倒なので全部崖から落としておく。

「お前のその力は、いつからだ?」手に力を入れると男はもがきながら答える。あ、まずいな紫色になってきた。

「…ーーか…ら…」俺は手を離し、ついでに男を放り投げる。



「なるほど…?」とりあえず、敵将だけ討っておくか。



男の力が発動したのは、俺がこの世界に来た時からだった。



**************


「……すがすがしい顔しちゃって…。」女の声が聞こえる。

「まぁ、すっきりはしたし。電池切れだ。」


女はしどけなくシーツにくるまりながらヒロキを見ていた。

「ここに、いるわ。新しい命が。」女がいとおしそうに腹を撫でた。

「!」ヒロキは振り返る。

「ふふ、賭ける?」

「……やめとく。」

「…どうしてそんな顔をしているの?」

「?どんな顔?」

「綺麗な、顔。何も、未練が無いくらいの…。」女は泣き出しそうな目をしている。

「…未来が、来たからな。俺の見えない先まで生き抜く、奴が。」ヒロキは嬉しそうに笑う。

「あなたは、そこに居ないのに?」

「……、ああ、そうか。お前、精霊だったな。教えてやる。」ヒロキは悪巧みを思いついたような顔で女に歯を見せる。

「人間はな、続いていくことができるんだ。ーーー俺も、俺の続き方ができると。まぁ、グレートすぎる自分の発想に感動すら覚えるが。」空が白く変わっていく。

まるで、歴史を塗り替えるかのように。


ヒロキは窓枠に足をかけた。

「どんな子であっても、愛してやって欲しい。それ意外は望まない。…まぁ、お前も、達者でな。」


ひょいと、窓枠を越えて行った。


女はただ笑っただけだった。まるで彼と出会った時のような別れ。

自分にも希望をもたらしてくれたのだろうか。

だとしても、馬鹿げている。


「馬鹿ね、ヒロキ。精霊は、愛を望むものよ。人間と違って、ね。」だからあなたの心配など無用なのだと。私は一人でも大丈夫なのだと。


そしてきっと、これからも彼をーーーーーー。


初代の過去編。これから出て来ます。伏線全部回収できるかしら(汗)

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