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諧調使。

風の宮殿は、渦のてっぺんに存在した。


白亜の、という言葉が相応しい流麗な形態の建物の玄関先には広い庭があり、そこには何百にも連なる階段がーまさに大階段と呼べるものが存在した。その階段を登ると回廊が続き、回廊の先にさらに中庭が存在した。そして、回廊から真下を見下ろせば、そこはすべて吹き抜けになっており、まるで美しいペーパークラフトの城を見ているかのようだった。


「面倒だな。リオ、先に行くぞ。」そう言うと初代はひょい、と欄干を越え、


「ええっ!?」吹き抜けの真っ暗な穴に落ちて行った。

「あ。」アリッサが声を上げた。

「さすが『黒の術師』。でも困ったな。」エフロンは呟く。



けたたましいサイレンが鳴ったのは、次の瞬間でした。




おって、説明しましょう。

まず私たちは『渦』が消えるのを待ち、天空の城である風の宮殿からの使者を待った。

エフロンの兄でもある第二子のエウロパは濃い新緑の色彩を持っていた。

彼等と共に直通の何か、に乗って来たわけだけど。何か、というのも、よくわからなかったので。

円形の部屋に通されて、固定された椅子に座って、気づいたら別の入り口でした、というもの。

瞬時に移動したんだろうことはわかるのだけど、初代に聞けば、『物質転送ではない』とのことだったのでワープや魔法陣とは別のよう。


まぁ、それはともかくとして、物々しい兵士たちを押さえるべく向かったエウロパにはもう案内が頼めない。けれどエフロンはアリッサに私たちを任せて、どこかへ消えてしまったのだった。


何ですかこれ。


ていうか、初代何をした。




「ひとまず、休みましょう。用意された部屋はわかります。」アリッサはそう言うと、宮殿内に用意された私たち用の部屋へ案内した。


そして、その後判明したのは。


「は?」


「ですから、回廊にはいくつものセキュリティゾーンが結界を何十何百にして敷いてあるのです。恐らくさきほどのは…」


どうやら、初代がそのセキュリティゾーンとやらを全部ぶっちぎりで通過したので警報が鳴り、あわや戦闘態勢となった、らしいです。



何やってんですか、初代。もう嫌。私、あれと同じですか。


そして何やら外が騒がしい。

荒々しい扉を開く音と共に入ってきた人だかり。


「あなたが、『黒の術師』?」あ。これ、絶対私が何かやったと思われてますね。


長いグリニッシュブルーの髪をまとめあげた美女が登場しました。


とはいえ、詰め襟の制服は清廉さを感じさせます。ただ。


すっごい、プロポーションいいなってことはわかるんですけどね………。パンツスーツの方が体型ってわかりませんか。


「答えなさい。」


「六代目『黒の術師』リオです。さっきの警報壊したのは初代で私じゃありま…」


「そんなことはどうでもいいわ。急を要するの。 来て頂戴。」美女はいきなり私の手を掴み、私を連れて行こうとする。


「失礼だが。」そこで私の手をやんわりと解放してくれたのはウリセス。


「何用か?」ウリセスを確認した後女は一瞬目を見開いたが、


「水の管理者が居たとしても、緊急事態よ。修復しなけらばならないの。そのために『黒の術』が必要なのよ。」彼女はそう言うと今度こそ私を部屋から連れ出した。





「いやぁ、ごめんね、説明が行き届かなくて。ほら、ぼくらは普段から会話しているようなものだからね。音声に頼る発言を長いことしていない弊害というやつかな。」行った先にはエフロンが居た。


回廊の角にはいくつかの小さな1M四方の囲まれた場所があり、そこの床にはめ込まれた術式で各階を移動できるようになっているらしい。そのどこをどう通ったのか全くわからなかったけれど、私はここへ連れてこられた。


「これを見て。」四角い部屋の真ん中に公園の水飲み場のような石があり、その上に絵が浮かんだ。


「建物?この。」どうやらそれはこの建物のようだった。そして、それを取り囲み、埋め尽くす赤い糸状のものが存在した。


どうやらこれがセキュリティというわけだ。今いくつかの部分が断絶され、その影響か一部が少しずつ消えかかっている。


「調律するわ。そのために『黒の術』が必要なの。」って言われても。

「調律?」

「私は階を調節する諧調使。この城の護りの一つであるこれは『黒の術師』と歴代の風の精霊たちが築いてきたもの。」つまり、だから、私に協力をと。

「でも…」私、そんな術知らない。

「問題ないわ。『黒の術師』ならばわかる。」そう言うと、彼女は一歩下がり、




高音。



空間に反響する旋律。



(歌っている…!)彼女が歌っている。低く、高く。深く、太く、響く。


瞬間、頭の中に流れ込む残像。


過去の残像。


(歌が、見える…?)


音は形になり、旋律は言葉になり、


私の中へなだれ込んで来る。


『黒の、弦』


歌は黒の術の中に入り、細い糸となって建物に張り巡らされる。

巡らされた糸が複雑に絡み合い、音を奏で、音が跳ね返りこの建物を守っている。


見えない、音が。



なんて、美しいんだろう。



吐息すらもらすのを躊躇われる空間で、ようやく歌が終わった時には、その建物を覆う糸が見えた。


黒ではなく、黒の術ので殻を作ってそれが細い管になり、その中に旋律が閉じ込められている。


「……ふぅ………」歌い終えた彼女は呼吸を整えている。ものすごい声量だったし、当然だろう。

でも、五月蝿くはなくて心地よい感覚。


「驚いたな。こんなに簡単にできるなんて。」エフロンが感嘆の声をあげる。


「私はこれで失礼します。」

「え?」


たった今歌った彼女は私を見てから少しにらみつけ、部屋から出て行った。


一体、何だったんだろう…。


「気にしないでくれ。彼女も疲れたのだろうから。」エフロンは苦笑して言うが、私には納得がいかない。


「一体彼女は何なんですか?」


「調律使、だよ。僕らの仕事は主に『調整』することだ。何でもね。風に乗せた音を調律することが伝達のはじめだからね。まぁ、流れる水を留められないように、自由な風を掴むことは通常できない。精霊でなければね。それを君がいとも容易くやるものだから、悔しいのさ。だから、気にしない方がいい。」


よくわかりませんが、つまり仕事に対するプライドの問題?




そして帰ってきた客室に。


「初代!」思わず声を荒げてしまったのも仕方ないでしょう。

「おー。終わったか。予定通りだな。まぁまぁ上手くいったな。リオはセンスが良いな。」


「は?」まったく会話が通じません。


今日は説明が多いですね。

初代はわざと、落ちたらしいです。最初から私に新しい術を使わせるため、わざと、壊したんだそうです。信じられない。

その方が早いから、とのことでしたけど。聞けば、この術を解くには、同じ旋律を『黒の術師』も歌わなくてはならないため、面倒だったとか。

そして、こちらには歌を聞くという習慣が庶民はもちろん貴族すら満足に行き届いていないらしく、そのおかげでこの術を扱える者は少ないのだとか。

とりあえず現代日本で育った私は、唱歌から演歌、洋、邦楽、様々な音に触れて来た。そういうベースが無いとこの術は使えないのだそう。


「で、だな。リオここからが本題だが、お前と契約する風の精霊が無茶を言って来た。」

「え?」何です、もうそんな所まで話しが進みましたか?


どうやら、私が苦労している間、勝手知ったる何とかで初代はさっさとお偉いさんにアポを取って会って来たらしい。そこでの話し合いによれば。


「お前、歌を作れ。」




…………はい?




今度は戦いではなく、創作?













さくっと行きます。

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