風の谷の渦。
どんだけ酷い事があったとしても、朝は無情に来るわけで。
おはようございます。リオです。
「何ですか、これ。」
目の前には、酸素カプセルのような人が寝れるようになっている筒状のー楕円系のものが。
「RPGだと魔法陣で飛ぶんだが、面倒だろいちいち。人を飛ばすのは力も要るからな。以前から要望があったんで、作ってみた。」初代はその後、構造を話しはじめたがまったくわからなかったので割愛する。
宮殿の地下にあたる部分に居ます。旅の支度って、もっとオーソドックスな馬車かと思ったのだけど、違うみたい。今度は、直接『風の谷』に直通の路線があるそうな。
というか、それを作ったのが初代らしいのだけど。
ミゾは途中から地下に潜る形でその先は見えない。これは一人用になっていて、ポッドというらしい。寝て乗り込み、上からカバーがされる。カプセルの中に入っているようなものだと言えばわかるだろうか。
そして、弾丸よろしく、送り出されるらしい、仕組み。いくつかの術が組み込まれているが、細かく制御されているので、省エネ設計だとか。
「酔いそうですね…。」だからといって断れるわけではないのでそれに寝そべる。静かに天井が閉まる。
透明なそれはガラスのようだがアクリルに似た軽いものだそうだ。
『聞こえるか。』どうもこの機械には通信機の機能もつけてあるらしく、初代の声が聞こえる。
『リオから順番に送る。扉は自動で開くからそれまで横になっているように。では、あちらでな。』
がくん、という音と共にカプセルが滑り出した。
「これって………」某アミューズメントパークの乗り物みたいなものでしょう……か?
カプセルが丁度通れる穴を落ちて行く。行く…、行く…?
「前言撤回………は、早すぎるでしょーーーーーーーーーー!!!」
ものすごいスピードで天井らしきものが消えて行くのを見た瞬間、酔って目を閉じました。
「………さま!………リオ様!」声が聞こえる。
まぶしい光に目を開けると、見慣れた顔がこちらを見下ろしている。
アリッサ、ウリセス……。
「私…?」
どうやら気を失っていたらしい。カプセルの天井はすでに空いており、私はその中に横たわっている状態だった。心配そうなアリッサに大丈夫と言い、起き上がる。
「おかしいな。Gは調整したはずなんだが。」ぶつぶつと初代がポッドを観察しているのが見える。
小さいドームになっている終着点は、ポッドがそれぞれ並んでいた。アリッサたちの分だ。どうにかそこから抜け出すと同時に扉が勢いよく開く。
「アリッサ!」よく通る声が響く。
あ!久しぶりのイケメンです。キラキラです。
白金褐色の長髪が無駄に似合っている某洋画のエルフのように細面の、いかにも育ちの良さそうな男性がずかずかと歩み寄ってきます。瞳は鈍色です。珍しい。
「エフロン!」アリッサは驚いているようだった。
「君が来ると聞いてね…!ああ、あちらが『黒の術師』?2人要る?…おや、水のまでいるね。一体どういうことだい?」
「アリッサ、こちらは?」私の声にはっとしたようにアリッサは振り返り、
「ーーー風の王、第三子のエフロン様です。通常ですと門番がこちらに居るのですが…」
「我が君に会いに来たのだろ?なら、僕が案内した方が早いからね。初めまして、『黒の術師』殿。」イケメンーエフロンと握手をする。
「まさか一人で来たわけじゃないだろう?」初代が言う。そういえば、お付きの人らしき人が見当たりません。
「…エフロン様、まさか…」
「急いでいたからね。手紙がついてすぐに僕だけ飛んで来たんだ。後から兄上が来る予定になっているが、今は『渦』の時期だから、地に2日ほど滞在してもらわないといけない。」エフロンという人は随分奔放のようだ。いわゆる王族みたいな位置なんだろうに、ほんとうに風の精霊らしくー…いや、精霊なのか?彼の髪などはどう見ても精霊らしくない。
「僕は特異種でね。高位精霊が下りるには色々許可が五月蝿いんだ家は。家内工業で。水の所と違って、
出払ってる奴らが多くてね。僕みたいなのが居る方が何かと都合がいいんで、大抵僕が最初に動くんだよ。」私の視線に答えたのか、人好きのする笑顔で答える。
「風は伝令の使命がある故、忙しい。」ウリセスは静かに答える。
「水の所と違って偏見も無いしね。自由なのさ。…気に障ったかい?」
「いいや。風の気質だ。」精霊同士っていうのはよくわからないが、彼等は彼等で世界があるみたいだ。
彼の上の兄とやらが来るまで地ー彼等が言うところの地上で待つこととなった。
ドームを出た世界は宿舎が広がる街だった。外との玄関先となるこの街はルテラ。ここで『渦』が止むのを待つのだそうだ。
「『渦』って何?」宿に落ち着いたところで聞いた。
宿は上級で、いくつかの部屋が繋がっていて、今はサロンのような所に居る。カウチやソファーも水の宮殿などにあったものとはまた違う細工の、繊細だがどこかしら懐かしいアンティークの匂いがした。
「『渦』というのは伝達の『渦』のことです。」アリッサが言う。彼女は前にも風の世界に来たことがあるのだという。
『渦』は精霊が伝達を主とする風の精霊たちの力で、時折この世界に発声する。その間は、正しい路線ーつまり風の通り道が滞り、その場に停滞するしか無いのだという。
世界をかけめぐる『伝達』は一週間に一度の割合で、『渦』となり、力の余波がこちらで発生するのだという。
「その『渦』が収まるのが二日後というわけです。」エフロンが言う。
「『渦』を湾曲させる方法はあるが、時間も力も必要でな。外とここを繋ぐ通路のようにはいかない。」今度は初代が言う。そうか、初代もこの地ははじめてではないのだ。
「まぁそれまでこちらの観光でも楽しんでください。」エフロンが陽気に言った。
そしてエフロンがアリッサを連れて出て行くと、初代がちろり、と私を見た。
(嫌な予感)
「あ〜、俺も羽根を伸ばしてくる。リオ、お前は少しこの世界に馴染むよう休んでいろ。身体がまだ拒否しているからな。」
「え、あ、はい。」
そう言って、出て行く初代。
残されたのは。
「リオ…。」
うーーーーわーーーーー、何これ。初代、何ですこの無茶振り。
ちょこん、と座っていたソファーの隣にウリセスが腰掛ける。
(『いいか。方法はある。だから諦めるな。目を逸らすな。おまえがあいつを見なければ、あれは何のために生まれたのだと思う?…せめて、まともに会話くらいしてやれ。』)そう初代は言ったけれど。
何を言えばいいの!
「リオ、すまなかった…。私の気持ちばかりを押しつけてしまった。」
「!そ、そんなこと、ない!」私は顔を上げる。しょぼん、としたような顔ー美形がしょぼくれても絵にはなるーをしたウリセスが目に入る。
「あのっ…、なんて言うか…あの…」ああ、どうしたらいいんだろう、何を言ったらいいのかわからない。
そっと、頭をなでられる。
「私は、リオを困らせているか。」
首を横に振る。
「私が、リオを好きでいてもかまわないか?」
首を縦に振る。
「……では、今はそれでいい。」
「!」
気がついたら、抱きしめていた。大きな背中を。
何も言えない。何も言ってあげられないけど。
今は。
拒絶はしない。本当は、誰より近くに居たいから。
「私とて、リオに隠していることはある。」
「!」
顔を上げると、ウリセスが微笑んでいた。
「いつか、わかり合える日が来ると、思っている。」
涙が、こぼれた。
「…っ。」嬉しくて、涙が出た。
「リオは、存外泣き虫だな。」支える手がやさしくて、どこまでも大きくて。
嬉しくて、涙が出た。
「おーおー、大合唱だなぁ、オイ。」やはり宿に結界をはったのは正解だった。
水の大精霊と周りの風の精霊の喜びの大合唱だ。こりゃ年の暮れの合掌にぴったりだと思いながらヒロキは街を歩く。
「制御方法教えないとな…これじゃお偉い方から苦情が来る。」苦笑して、『渦』の上を見上げた。
※『渦』は竜巻のような状態で、一カ所にとどまっています。街の描写が少なくてすみません。




