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黒の帰還。

場に圧力がかかる。


「!今のは…」エセルバードがぴくり、と後ろを振り返る。ウリセスもそちらを見る。


空間に何かが起こった。


この世界に、何かとてつもなく大きな何かが『増えた』。それを感じた。



「いよぅ、お揃いで〜」


「!? 」


「ちょ、おろ…して…よっ、歩け、るっ…」


玉座の後ろから現れたのは、全身黒ずくめの男と、それに担ぎ上げられたー


「リオ!」ウリセスが駆け寄る。


「まぁ、まてワンコ。」男は一言でウリセスの足を止めた。文字通り、足が動かなくなったウリセスは男を睨みつける。



「…めずらしいのが来たな。」エセルバードはしばらく男を眺めていたが、椅子に座り直した。


「とりあえず、これ、借りるぞ。」そう言うと男はリオを担いだまま部屋を出て行った。男が出て行った瞬間、ウリセスの身体の硬直がなくなり、エセルバードに厳しい目を向ける。


「…ヒューザード。お前は初めてだったか?見てそうなものなのにな。あれが、『初代黒の術師』だ。」


「!あれが…しかし…」


「ああ、またデタラメな法則でも作ったんだろう。あれのやることにいちいち目くじらを立てるのは財政と胃を悪化させるだけだとウチの歴史書が語っている。まぁ、放っておけ。」エセルバードは珍しく苦笑しながらウリセスに言った。


「しかし、あの男が出て来たということは、戦が来るということだ。心せよ。」




「ちょっ、もーいーかげん離してくれてもいいでしょ!?」


リオです。

ただいま初代に担がれて、廊下移動中です。揺れるんですが!


「耳元でわめくな、璃桜。」



ぞくり。


初代に囁かれた瞬間、私の身体は熱を持ってすべての自由が奪われた。


(何これ…!?)


「そう。静かにしておけ。俺がお前の名を呼ぶということは、こういうことだ。」口調は軽く、特別なことをしているようには思えない。


(………温かい………)担がれたその部位が初代の体温を知らせてくれる。


生きているんだ。初代は。







「じゃーなくて!どういうこと!?」無理矢理、シャキッとさせました。『黒の術』で。

さしずめ、酔う前に飲む!というあのドリンクのイメージで。


場所は変わり、部屋は私にあてがわれた部屋。

そして、初代と向かい合う。


「お前、俺を何だと思ってる。」相変わらず初代は気だるそうにカウチにもたれかかっている。もう、寝そべっているような感じだ。また、悔しいことにそんな姿も絵になる。


マントは脱ぎ、黒の上下になっただけの簡素な姿で、特別美麗というわけでもないのに、その白い肌が目立ちしなやかさを伝える。


「初代って、足、長いんですね。」観察して気づく。そして失言だとも。

「ああ?…ああ、そうか。リオ。」そこで、私の身体が軽くなる。

「?」

「ああ、いちいち音声で伝えるのは面倒だな。本の方が楽だった…。お前は少し『魅了』されていただけだ。」

「は?」

「本来の名を呼ぶと相手を縛るからな。お前は俺に『魅了』されてただけだ。」

「え。ええええ!?」何です、この人でなし。ろくでなし。大魔王。そんな、人を声音だけで束縛してしまうってどんだけですか。

「あー…。とりあえずリオにも効き目はあるんだな。『黒の術師』同士でも力量の差によるのか…ちなみに、別に声で縛っているわけじゃないぞ?」初代はぶつぶつ言いながら空中に指先で何かを書く。

「え?」

「俺の存在すべてがグレートだからだ。」




ああ。何か今ようやく、目の前の人が初代だと、実感できました。色んな意味で残念すぎますが。


「だからつまり、諜報用としてな、催眠的な技はできんものかと。」初代の説明によると、力を込めて使うと『媚薬』の役割も果たすらしい。歩くわいせつ物め。女の敵め!

「いや、それが参ったことに、男にも効果あってなぁ…あやうく殺されかけた。」どんな痴情のもつれ。


何だか、ぐったりしたところで初代がこちらを見ていることに気づく。


「つまりだ、今の俺はクローンだ。来るべき時のために作っておいたものだ。そもそも召還術はな、力を使いすぎるから本のままでは使えんのだ。俺の身体でないとな。」


それでも全盛期に比べるとクローンだけに劣る部分があるのだというのだから、一体どれほどの強さだったのかは計り知れない。


「で、召還のために作っておいたものが余っていたからな。しばらく旅につき合ってやる。」


いやいやいや、何故か波乱しか想像できないのですが。むしろここでおとなしくしていらっしゃったらどうですか。


「何だ、あのワンコと2人きりがいいのか?」にやり、と笑う顔があまりに格好良くて泣けて来ます。使うところを間違っている。確かにちょっとほっとしてしまったけれど。


「恋せよ乙女ーああ、俺には惚れるなよ?何せ死人だ。」


もう、誰か止めてくださいこの人。


「ちなみに、食べることも排泄も問題なく、生殖機能も万全だ。」


「は?」


「ああだから、各地で恐らくだが俺の血の者がいるぞ。気配がするからな。最も、力は一切受け継がせていないし、髪も黒ではないだろうが。」


何ですか、そんなのあり得るんですか。


「ああ。俺はグレートだからな。可能だ。」


いわく、身体の実験の検証のためと趣味実益のため(絶対こちらが本性だ。)この身体になった時に各地の自分の血を引くだろう人間を観察しに行くのだという。今のところ何も問題はないそうだ。


なんて広範囲な実験なんでしょう、このマッドサイエンティスト。


「なぁリオ、俺はまだ聞いていないんだが?」

「何をですか?」

「家に帰って来た主人を迎える時は、なんて言うんだ?」にやり、とまた笑った。


ああ。そうか。


「おかえりなさい、初代ー」

「ヒロキでいい。」

「…ヒロキ、さん?」

「……なるほど。結構くるな。さんも要らない。最初からだ。リオ、六代目の『黒の術師』俺の所為でお前を巻き込んだ、とは言わん。謝罪はしない。だがお前のすべてを守ることをここに誓う。ヒロキ・カキザキの名に於いて。」


「!!」息苦しいほどの圧力が私を襲う。今、初代は何と言った。少し顔をしかめているのは、私が初代の名を呼んだから…?


「っ…はぁ…おかえりなさい初代…、ヒロキ・カキザキ。黒の術師初代の帰還をー」よろこび、と続けようとしたところで、抱き込まれる。


「っ結構、来るな。リオの癖に生意気だ。」初代の顔は見えないが、きっと私が感じた圧力と同様のものを感じているのだろうその身体で。


「師匠が師匠ですから。」そう言ってお互い向き合う。


「さて、では手始めに、復習してみようか?」

「お手柔らかに、お願いします?」




部屋の扉が吹き飛んで、窓ガラスがすべて割れたのはこの数十秒後の話し。





解説。

初代がしていたこと。術の確認。

お互いの名を呼び合うことによる作用の確認。

リオの生身での力の確認。

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