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事の顛末。

リオです。


ただいま逃避行中です。


嘘です、ひとまず、逃げています。


何から?


色んな人から。そして―ウリセスから。






事の顛末は簡単だった。


基本的には報告書を王様に提出するだけで良いのだ。裁くのは裁判官であって王様ではない。ただ、王様のお墨付きがあると無いとでは全然違うのだけど。


報告書にはこう書いた。


犯人は―オルパディルからの商人であったと。



犯行は王宮内で見つかった数多くのアクセサリーを使用したもの。証拠はあのお店にあった『黒の術』。現場保存していたおかげで、刑部の目撃証言を取れました。



あっけない結末。



そう、とても優しい結末。







「もう一杯!」がつん、とグラスをテーブルに叩きつける。


「……お嬢ちゃん、もうそろそろやめといた方がいいんじゃ…」いえ、マスター、飲ませてください。これが飲まずにいられようか。


「……。大丈夫れす。よっれません。」ちょっとマスターがいい男に見えるけど、それもフィルターマジックだから。きっとそう。


「早めに帰った方がいいよ。……ここは王都だからそんなに悪い奴らは居ないけど……」


「んー……帰るとこ……ないです。」


「えっ。」


「マスター。……ここ、住み込みとかやってません?」


「無理言うなよ……お嬢さんその手で働こうってのかい?」ああ、しっかり見られている。そうかさっきグラス渡した時に触ったからな。


すべすべとは言わないが、働いたことの無いような手に見えたんだろう。


「じゃーせめて、今晩泊めて~」ここは確か、宿泊も出来たはずだ。


「……仕方ないね……」ぐらぐらしている私をみかねたのか、マスターが上の階の部屋まで運んでくれた。くどくど説教されながら鍵を閉めると、ベットに横になる。



ちなみに、ここで襲われてもまだ『カウンター黒の術』は発動中です。あれは長期間使えるらしい。

そして初代はもちろんここにはなく。


置いてきちゃいました。城に。




「だってさ…泣きたくなってしまったから。」そう言うと、喉の奥がふるえてきます。


いいですね、このまま泣いちゃいましょうか。うん、思いっきり泣いてしまいましょう。





私の所為だった。



すべて、私の所為だった。




『黒の術』が見えるエセルバードはかねてから外部のスパイだと疑っていたトリスが、商人と接触があることに気づいた。

あの時私が『黒の術』で見たのは彼女だった。


そして、その後、エセルバードはミリィたちを妃候補につけ、彼女たちの安全と『黒の術』の真相を探るためにミリィとトリスを接触させる。


が、ミリィはトリスに騙され、セラフィナが『黒の術』にかかってしまう。


『黒の術師』が現れるとお告げがあるより前に商人は来ていた。お告げを信じるのならば、私は犯人ではないが、王宮に現れた時点で、私は未だ商人を操る『黒の術師』ではないかと疑われていたのだ。


ミリィとトリスが殺され、情報が得られなくなったエセルバードは商人を呼んだ。それとなく触れただけだが効果はあり、あの事件。


エセルバードによれば、『黒の総本』を守る約束を王家は交わしている。けれど、『黒の術師』を必ずしも守らなくてはならないわけではないらしい。つまり、気に食わなければ殺せばいいのだ。次の『黒の術師』を得るために。


私は、エセルバードが知っていながらセラフィナを見殺しにしようとした件などの文章の削除を条件に、私が何者であれ、報酬を確実にいただけるよう王への助言の『言質』を頂いた。


『黒の術』にまつわる殺人・殺傷は特例扱いなので、これはほとんど良心を頼る賭けだった。エセルバードには妃候補が何人もいるのだから、セラフィナ一人が死んだところで彼にとっては痛くも痒くもないのだ。


鳥が王宮を自由に飛びまわっていたのは、王宮の情報と『黒の術』がかかる人間の居場所の確認のためだった。


『黒の術』を使えるのは当代ただ一人。けれど現状はもう一人いる。四代目はどれほどの犠牲を出しているのだろう。きっとこうしている今も、奪われているものがあるに違いない。


私か、彼か。つまり、その判断が『黒の術』を見ただけではわからない。


だから、エセルバードも判断が遅くなる。



だから、私が敵である可能性も考慮しなくてはならない。歴代の『黒の術師』が王宮寄りであったとしても。



アクセサリーはすべて『黒の術』がかかっているわけではなかったので、エセルバードも気づくのが遅れたと言っていた。



茶番だとわかっているのに彼は楽しそうだった。


「それで、リオ、報酬は本当にそれで良いのかい?」エセルバードは全てお見通しだというような顔で私を見た。少しばつが悪かったのかもしれない。


「ええ。」



報告書の提出をウリセスにお願いし、私はその足でそのまま城を去った。




私の報酬。



それは、ウリセスの契約を解くこと。


王宮から自由になること。






最初から決めていた。少しだけ迷った。


でも私は初代が還してくれるのなら、望みはもう一つのことに使おうと思った。




どんな顔をすればいいのかわからなくて、逃げてきた。


指輪は外れないまま。きっとすぐに見つかってしまう。けれど、どうしても隠れたくて、『黒の術』を使った。今日はもうこれで打ち止め。





何で私だったんだろう。


何で私だったんだろう。


救えなかった。沢山の人たちを。



救うなんておこがましかった。けれど、出来たかもしれなかった。


力が足りなかった。配慮が足りなかった。


くやしくて、くやしくて。


だから今日だけは、今夜だけは私が私のために泣くことを許して欲しい。


『黒の術師』なんて要らない。


『黒の術師』なんかなりたくなかった。


「うっ………っうぁっ………っあぁああっ…」


大声を上げた。今なら酔っ払いで済む。


今なら。





そして、その夜は夢も見ずに眠った。

はい、ひとまずは。

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