蝶々たち。
だるい。
私の目の前には蝶々がいます。
赤青黄色な具合に、ああ、こういうのがお姫様~って言うんだな、と納得。
ラトワイユ候第一息女のシンシアは、第一印象は悪くないです。
どうしてあのメタボからこんな可愛らしい娘が、と思うほど可愛らしいです。御歳12歳だそうです。うわぁ、犯罪。いろんな意味で。
ただ、やっぱり世間知らずのお姫様って感じ。
オージェ候第二息女のテレサはもっと筋肉マッチョが来るかと思っていたら、そうではなく、背も高く、プロポーションも抜群に良さそうだったが、親―メガネ美人に似て、とてつもなくキツかった。
その眼光や、まるで私を敵かのごとく見ています。
イングベルグ候第一息女、シルヴィアは、一番落ち着いていて、私よりは確実に年下だと思うが、英才教育受けてます~って感じはします。
まぁ、とりあえずそのものめずらしそうに見るのやめてくれませんか。
「『黒の術師』が何用ですの?私たち、殿下からの命でここへ来ましたのよ。」この中で一番落ち着いているシルヴィアが聞いた。
だるい身体とだるい目の前の現状から逃避したくなるのをこらえて、あらましとお願いをしてみた。
「…そういうことでしたら。私はあの日、控えの間から一歩も出ていませんわ。私の屋敷の者も。」シンシアがそう言って私にその日に居た者のタイムスケジュールを書いた紙を渡す。
そうそう、これが欲しかったの。
三人には、同じ紙を渡して、タイムスケジュールのほか、アンケートのように書き込んでもらっていた。
「…あの日は私はキアニスの砦でジェルラ達の動きがあったため、参上できていない。これがその時の報告だ。」テレサはそう言うとキアニスの砦での報告書の写しも一緒に渡してくれた。
「…なるほど、私たちは疑われているのですね。そして、この中では私が一番怪しいと。」シルヴィアはあの好々爺の娘だけあって、何を考えているのかよくわからない。
「形式的なものですから。」どこかの刑事が言う台詞のように私は言う。
三人にお決まりの質問をして、その最中にアンケートに目を通す。
「そういえば、皆様随分少ない従者で入城されたのですね?」不審に思い聞いてみる。
「余計な者を連れていけばそれだけ王城の仕事を増やす。それに…」テレサが言うとその後を理解したようにシルヴィアが言う。
「あら、あなたもお気づき?」
「何ですか?」シンシアが聞く。
「あの…三人は、面識が?」あまりにくだけた様子に、少し驚くと、シルヴィアが言う。
「もちろんですわ。候である父上と共に昔からよく交流がありますもの。成人してからは自由に会えないのでこうして同じ立場でお会いできるのは良かったですわ。」
「その…妃は複数持つものなのですか?私はこちらの規則に疎くて…」
「『黒の術師』様は、私たちと同じく女性ですものね。私どもの仲を不思議に思われても仕方ありませんわ。けれど、私たちは生まれた時より道を決められております。そして、私はそれを不満に思ったことはございませんし、この者たちもそうでしょう。私たちの努力してきた結果が今でございます。…妃は一人、他は側室というのが一般的ではございますが、今の陛下は妃殿下唯一人をご寵愛されております。私たちは、これから誰が選ばれても誰が殿下のお子を授かっても、この国のために生きると決めております。それは『黒の術師』様にはかかわりのない事。」シルヴィアはそう言うとしっかりと私を見た。
その眼光はとても強く、輝いていて、私にはない強さがそこに存在した。それが、覚悟だというものだとわかるのはまだ先の話しで。
要約すれば、皆で協力し合うということらしい。
「ですから、殿下が例えば私どもを見張らせたとしても、それはこの国のためなのでございます。」
は?思わず、口を開けてしまった。
「どういう、ことですか?」
「私の部下にパラッツェという者がおります。その者は今年の始まりの月からわが屋敷へ来たのです。他に…皆様にも同じような者がいるのではなくて?」シルヴィアが言うと、二人は頷いて、
「はい、ベルタがそうです。ちょうど、始まりの月の終わりくらいに。」シンシアが言う。
「うちは、ミルヤですね。同じ時期です。」テレサが言う。
「つまり、同じ時期に殿下は―私たちを監視させるため、手の者を送り込んだのですわ。」
「えっ!」シンシアが驚く。
「証拠は何一つございませんが、幼い頃から大勢の人間を見ていると、その人の立ち居振る舞いでほぼ人柄もわかります。よほど訓練しないかぎり、間諜などはわかります。…それに、決定的なのは彼女が王宮へ来た時の態度です。あまりにも、動揺が少なすぎる。」シルヴィアはそう言うとお茶を一口含む。
「恐らく、殿下は何らかの理由で私もしくはわが家を監視させていたのでしょう。最も、彼女一人だけとは限りませんが。」
「何のために?」
「さぁ。結婚相手を探るにしては少々無粋な気もいたしますわね。」
「護衛なんじゃないかと思っていたが。」テレサはそう言う。
あの鬼畜どSがそんなことをするだろうか?
絶対何か意味があるはずだ。
どうしたもんだろうこれ。
「それから、あの日の私の行動ですが、一度部屋を出ましたわ。」シルヴィアが言う。
「それで?」
「式典が遅れるとのことでしたので、お父様にご挨拶に伺おうかと、その途中で殿下を見かけましたわ。」この日、あの好々爺は仕事で王宮へ詰めていたらしい。
「どこで?」
「図書館から出た中庭のところで、女性と一緒でしたわ。」
「!?どんな女性ですか。」
「あれは、ヒューザード様の者ではないかと。」シルヴィアが見たのは、ウリセスの家の規定の服装だったという。
「髪の色は?」
「よくある栗色でしたわ。」亡くなったミリィさんの髪の色だ。アリッサの髪の色でもある。でも、当日アリッサは王宮には居ない。とすると、ミリィさんだろうか。
そして、いくつか質問をして彼女たちの前から消える前に、
「一つ、『黒の術』をかけてもよろしいですか?今の証言を、しかるべき時に必要になったら発言していただきたいのです。」
「『黒の術』を…!?」三人の顔に動揺が走る。うん。普通そうよね。
「私が妃候補と会ったことで、皆様にご迷惑がかかるといけません。発言の公正さと、皆様の安全のためです。」
彼女たちに何かあれば証言が得られなくなる上、正しい証言を得られるかどうかわからない。その時になって、白が黒となる可能性だってあるのだ。
「それは、この国のためですの?」シルヴィアが聞いた。
「もちろんです。」そして、私は了承を得て、三人に『黒の術』をかけた。
「はーーーーーーーーーっ。」リオです。午前中で終わった面談でわかったのはわずかな当日の状況だけ。
三方には三日後までの自動防御障壁と、証言を取り消したり変更できないよう言葉の保存をさせてもらった。お陰で結構ぐったり。
どうしようか。
そんなことを考えてとぼとぼ歩いていたら、噴水のある中庭へ出た。まったくいくつ中庭があるんだ、もう。金持ちめ。
「あと…3日かぁ………」ちょっと整理してみよう。
まず、ヒューザード邸殺人事件。
被害者はミリィさん。シルヴィアの話が本当なら、彼女は王宮からのスパイってことになる。
でも何のために?何のためにエセルバードはそれをしたんだろう?
犯人は、誰?
初代は二人と言ったけれど、ミリィさんが王宮でアクセサリーを手に入れたのなら、あの商人が犯人―つまり四代目が後ろで糸を引いていることになる。
王宮連続通り魔事件。(なんとなくタイトルを考えてみた。)
被害者は前述を参照。
これはどの人もアクセサリーを手に入れていることから、それが原因。ただ、商人と鳥は元々オルパディル側の人間だということになる。
こちらは店の『黒の術』を見せればどうにかなるだろう。
それから、私を襲ったウリセスの部屋に給仕していた彼女。
名を、トリスという。
彼女は一体何だったのか。
全くわからない。
「はぁ………」思わず噴水の台のふちに座り込む。
「……今日はとても良い天候だというのに、あなたの心は曇っているのですね。」
突然、声をかけられた。
「!」誰。すごい美人。
しかも、豪華なドレスなのに、お付の人が見当たりません!ノー!
「ふふ、驚かせてしまったかしら。…『黒の術師』様?」あれ。何で私を知ってるのかしら。
「いえ、あの…失礼ですが…」美女は、私の横に来ると隣に腰掛ける。いいのか!?はしたなくは無いの!?思わず立ちそうになった私を止めて、くすりと笑う。
「そうね、通りすがりのおせっかいなおばさん、でどうかしら。」
「…はい。」有無を言わせないその芸術の域に達する笑みは何なんでしょうか。何か私またやらかしたんでしょうか。ああ、どうしよう。
「何か悩み事?」どうしようか。
「はぁ…」この人に話せる話でもないしなぁ。
「いいじゃないの。そうねぇ、じゃあ私が言うわね。ひとつおまけをあげる。」はい?
「王族は、『黒の術』が見えるわ。」
なんですと?
そう言うと、彼女はすっと立ち回廊へ歩いて行く。
「あっ…あのっ!!」ちょっと、待って。
彼女は一度こちらを見て唇に人差し指をあてた。
内緒って、こと?そして、そのまま消えました、美女。
「誰、あれ………」余計、混乱してるんですが。
私はばっと『黒の総本』を開く。
「ちょっと、どういうこと!?」初代、そんな重要なこと、聞いてない、聞いてないですよーーー!!
『あん?言ってなかったっけか。』聞いてないですよ。
『まぁ、理由はある。代々の王には『黒の総本』を守ってもらわなくちゃいけないからな。サービスだ。それに、狙われる確率も高いからなぁ。』
私は走り出す。これで、色々見えてきた。あとは、検証だけ。
最後に会った揚羽蝶は一体誰だったんだろう?




