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誓う

「ねぇ、ウリセス。例えば、信じている人に裏切られたとしたら、あなたどうする?」


リオです。異世界に来てからこうやってベットのお世話になることが多いような気がします。

何も言わずにこんなことを聞くのは、卑怯だと思うけれど。


「リオ?」ウリセスは私の傍らに座り、仕事をそこで済ませてるみたいです。部屋に戻っていいって言ったんだけどね。


「私。ずっと人が信じられないと思っていた。少なくとも、一人でも十分生きて行けると思っていたし、私が住んでいた所は、それでも十分な所だったから。」


こんな風に突然、胸に穴が開くような気持ちにはならなかった。


「信じているかどうかは、自分の基準であって、人に押し付けるものではない。…リオが相手に裏切られたと感じるのは、早計かもしれない。」うん。そんなのわかってるのよ。わかってるんだけどね。


「思ったより、簡単に信じてしまうんだなって思って。」私が。


ほら、こうやって、こんな近い距離に居る事を許すくらいには、あなたのことを信じてしまっている。


いずれ世界を渡るのに、いずれこの場から去るだろうなのに、あなたのことを知りたいとも思ってしまっている。きっと今だけ、縋りたいと思ってしまった。それが、私の弱さ。


私は、こんなにも弱い。


「それはリオの美徳だろう。恥ずべきことではない。リオが不安に思うのなら、私が『誓う』が?」


「何を?」ウリセスは私の傍らに膝をついて、私の手を取る。


何だろう、すごく嫌な予感が。この騎士的ポーズは。


「ウリセス・バルリエントス—XXXXXXXXX・XXXXXXXXX—主杯に誓いリオ—六代目『黒の術師』に…」


「待った!!」いやもう、やめよう、何か嫌な予感しかしないからそれ。


「遥かなる時に誠を尽すことを宣言する。」無情にも、ウリセスは低く言葉を放つ。いや、だんだんわかってきたよ。意外と頑固でしょ。譲らないもの。


突如、ウリセスの目の色が深い青色に代わり、彼から吹き出す流水がものすごい勢いで襲いかかって—


「うわああっ!!…………あれ?」濡れていません。その代わり、何だかすごく身体は楽になったような。


「何をしました?」


「誓いを。リオを裏切らないという、誓いだ。」いや、何か絶対それ嘘臭くないですか?後でアリッサに問いつめよう。


「………とりあえず、私、仮眠に入りたいので、出て行ってもらえますか。」何だかぐったりして先ほどまでの落ち込みがどこかへ飛んで行きました。






「ねーアリッサ。寝る前に聞きたいんだけど。」寝る後の方がいいだろうかでも何だかすっごく気になって仕方が無い。他の妃候補との会談は明日になった。ハードだ。


「何でしょう?リオ様、何か食べられた方がよろしいですよ。」アリッサは軽食を持ってきてくれた。ありがとう、確かに、お腹は空いていた。今日は一体何をやっているのかしら、私。


「精霊が、『誓い』っていうと何のこと?」ビクリ、とアリッサの手が止まりました。あ、そのサンドイッチ食べたいんだけど。


「『誓い』ですか?」アリッサの脳内が激しく動いているようなのが見て取れます。その隙にサンドイッチを食べる。うん。美味しい。


「ま、まさかまさかまさか。」ああ、またこのパターン?もういいよ、何でも来い。今更何が来ても動じない。


「ン。ウリセスが『誓い』とやらをやってくれ…」


「えええええぇっっ。」いや、何であんたがそこで赤くなる。


「普通に話してくれない?これ食べたらすぐに寝るから。」私が動じてないのを確認すると、そうですよね、そう、そうなんですよね、とよくわからない台詞をぶつぶつ呟いて、アリッサは私を見た。


「リオ様。『誓い』には色々あるのですが、主が言っていた言葉はわかりますか?」あ、そうなの?


「えーと、名前言って、よくわからない言葉でしゃべって、誠を尽すとかなんとか。何あれ、騎士道精神みたいなやつ?」ぐらり、とアリッサが傾いた。けど、持ち直した。


「リオ様。我等『精霊』の血が混じった者は一般的に『混じり物』と蔑まれることもあるのはご存知でしょうか。」

「何それ。」知らないわよそんな差別。

「はい。私たちは人に使われる立場に有ります。よほどの高位の精霊で無い限り、人に使われる立場に。…けれど、そんな私たちにも、人と契約を結ぶことでより結びつきを強くする方法があって。それが、『誓い』です。」

「よくわからないなぁ、結局ウリセスは何をやったわけ?」

「はい。リオ様に誠を尽すというのは、たとえどのような者であってもリオ様が至上の存在となり、主の中ではリオ様は裏切れない存在となりました。」


うわ、何それ、重いんだけども。


「例え、一国の王であっても、主はリオ様を優先するでしょう。それが、真名を伴う『誓い』ならなおさら、あの、リオ様怒らないでくださいね?」いや、何その前置き?アリッサ、私が怒ったことあった?

「何よ。」二つ目のサンドイッチに手を伸ばす。

「それって、いわゆるプロポーズですよ。私たち側から見れば。」



卵とレタスもどきを吹き出したのは、私の所為じゃないと思うの。






悶々として眠れなかったじゃないか。ウリセスの馬鹿。

黒の衣装を纏って、気合いを入れて鏡の前へ。『黒の総本』を開く。


『よぉ、リオ。どうした、そんなに水の気配をまとわりつかせて。』初代。何でわかるんですか。


『俺がグレートだからだろう。何だ、ついにヤっちまったか…アイツと』そこで一度本を投げました。

「そんなわけないでしょう。」


『なるほどねぇ。まぁ、あれだ、今のお前ははっきり言って蜜月の精霊と変わらんからな。気配が。せいぜい気をつけろ。』初代の話しによると、水の精霊の加護を受けまくった私は結婚後の新婚さんのような妙なオーラがあるらしい。


そんなオーラ嫌だ。


「何に気をつけるのだか。」怒りません。だってきっと、ウリセスのことだから、


ほんとに純粋に私を不安にさせないようただ、『誓って』みただけだろうし。そんなオチですよ。期待に添えなくてすみませんね。この歳でもう恋愛とか結婚とか、随分諦めてきたから、今更そんなフラグ来ても受け取れるわけがない。


とりあえず、強いアミュレットみたいなものだと思えばどうにかなる。


「リオ様……お似合いです。私の凄さに感動します。」恒例のアリッサの涙目とご対面。


「じゃ、行くわよ。」何だかとっても疲れたので、先に進むこととした。ゲームで会話をスキップする機能が今欲しい。





はい。ただいまの時刻、丑三つ時です。何か出て来そうですけど、あいにく洋風な街並は例えばロンドン風の霧で覆われていたり、濡れたアスファルトがじめじめしていたり、はしていなかったので、とても正常に見えました。ちぇっ。


店の前には立ち入り禁止のロープが貼ってあり、いくつか精霊術もかけてあるようだった。


『やっかいだな。【魔法使い】が絡んでやがる。キメラに中に入れないか聞いてみろ。』どうやら【魔法使い】の術もかけてあるようだった。


「リオ、指輪はしているか?」ええ。外れないからね。

ウリセスは私を後ろから抱えて、目の前で指で何度か空中に文字を書いたようだった。

「そのままで。」耳元でそんな声がしたと思ったら。




店内でした。


暗い店内に『黒の総本』の白い文字から出た光がぼんやりと照らす。


文字、光るんです。初代が作りましたから。


私はめぼしいものはすべてかっさらわれた店先をざっと見て、奥の部屋へ移動する。

「こっち。」ウリセスはどうやら闇の中でもほとんど見えるようで、さっきも何をしたのかと聞いたら魔法を使ったのだという。そういや、少しだけ魔力もあるようなこと言っていたような。それにしても能力のわりに性格がアレなのは問題だな。だから、嫁が来なかったんだろう。


そんなことを考えていると奥の部屋に着く。

あの映像通り、敷物をひっぺがす。



『『黒の術』』なるほど。こればかりは、他の人にはわからない。私にしか見えないものだ。床には人一人が入れる円と、それにいくつかの文様が重なっていた。

『リオ、乗るなよ?』わかってます。まだ命は惜しい。

『これを証拠にできれば良いんだが。』そうですね。でもどうやって?

『何、お前以外の誰かをこれを使って送ればいい。』いや、でもそれって非人道的っていうか。

『どうせこれは描いた奴がここへ来ない限り、消せはしない。明日、王子あたりに相談してみたらどうだ。』

「………そうね。刑部に話を持って行くわ。エセルだけでは証人として弱いもの。」


『リオ、準備しろ。』初代の言葉。いや、私、もういろんな意味で打ち止めっていうか、あと1度くらいしか。


何が来るの!?


「ウリセス、何か来る。」それは足元から。



黒の円がぼうと光る。


突如、黒の固まりが円から飛び出し部屋を飛び回った。


「!」何これ。


『『黒の術』の媒介に入れる前の型だ。リオ、『吸収』しろ。』


「杉崎璃桜が命ず。『吸収』!」まるで流星のように飛び回る黒の欠片。欠片は光りをまとわせて『黒の総本』へ吸い込まれる。


『キメラに結界を張れと言え。この陣の場所だけでいい。』ウリセスはそれに頷くと、


「エレ・アーク」涼やかな水の気配がしたかと思うと—今の私には何故かその気配はわかる—『黒の術』の円を囲むように結界が張られた。


寝不足と、ストレスと、MPの0状態で、とにかくこれでひとまず帰れると思い、安心した。


その安心はとてもつかの間でしかなかったけれど。


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