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魔法使いと黒の術師。

王宮から馬車で1時間、王都の玄関口でもあるアルバスの街に着く。


王宮を囲むように議会の会議場があり、そのまた外側に軍部がある。アドイ・ナユは円形に作られた都市だった。


海はアルバスからさらに2時間以上かけないと見えない。地図では見たが、実際にアルバスへ来てみると、見事に平地だった。


アルバスを中心として東西南北の守護―五大候たちがそれぞれの土地を守っている。


天然の山であるとか海であるとかいう要塞は無く、その代わり、世界に八人しかいないという魔法使いが王都を守る結界を張っているのだそう。


で、その一人がこの人。


「リオ、何を買うつもりですか?」エリスさんは言う。


こうして見るとますます魔法使いらしくない。ちなみに魔法使いも大抵長生きするから、私より年上らしい。なんとなくほっとする。


「まずは、食材!朝市があると聞いたのでそちらへ。」


今日はがっつりお買物の日です。そのための『黒の術』も取得してきました!(単に本を暗記しただけともいう。)


必要なのはクーラーボックスないし、冷蔵庫、冷凍庫アイテム保管庫。とにかくそういうもの。


『箱庭』で亜空間を知った私、初代に聞いてみたところ、やっぱりありました。


どこでも荷物預かりボックス。略して、『ドコボックス』(略す意味がよくわからないが。)


ご丁寧に、初代は冷蔵庫と冷凍庫、それにチルドなんかも用意してくれてました。何て便利な。


そして旅先仕様の『黒の総本』は鍵をかけてあります。厳密に言えばパスワードを入力しないと解除できないというアレです。


ショルダーバックに入れておくとスリに合うかもしれないので、太いベルトをして、腰のすぐ後ろに固定するような皮バックに入っています。


その上から上着を着ているので、ちょっと太ったように見えるのはご愛嬌。


簡単な『黒の術』は初代の朝イチ特訓のおかげで本を触らずともできるようになりました。特訓は色んな意味で痛かったけれど。


日が昇っていないうちから特訓してアリッサもたたき起こしてベルト固定までの涙ぐましい努力が目に甦ります。


軍資金はウリセスが出してくれました。本人がついて来ようとしたところを、どうにか言いくるめて来ました。どうも、ウリセスの中で私は姫ポジションになっていそうで恐ろしいです。守る気満々なんですけど。いえ、ありがたいことですよ?うん。とっても。


でも、下着を買うのに男性付き合わせるのはちょっと。



というわけで、エリスさんで良かったと思う私です。



片っ端から買物をして、買ったものを亜空間に放り込むを繰り返す。


「リ、リオ、少し休んだら?」エリスさんが言う。


気がつくと、市のほとんどを巡ってしまっていた。


いけない。思ったより安かったから、食料意外のものの買込みが。


お金の単位は未だ微妙にわかっていないのですが、紙の印刷技術はそれほど発達していないため、やはり金、銀、銅を中心とした貨幣のよう。


ダグラス(金)、グリード(銀)、ドラディス(銅)。この三つを取って、『ダグド』市場と言うそう。


例えばダグラスの中にもレミ・ダグラスとロン・ダグラスという種類があって、レミの方が高価であるとか、少しややこしくなっている。


ので、とりあえず1ロン・ドラディスが18円程度、1レミ・ドラディスが43円程度という感じです。今朝なんとなく携帯の電卓で弾いてみたんだけど、よくわからなかったので、適当です。白いパン1個が、だいたい2レミ・ドラディスしました。そんな感じで。


ま、それはともかくエリスさんとお茶をすることに。


「『黒の術』は便利ね。」エリスさんはぽんぽん亜空間に入れていたのを見ていたのだろう、そんなことを言う。


「…腐りそうなものは持ち帰ると大変ですから。」美人を目の前に昼食というのもなんとなく緊張する。


街のカフェのような店に入ると、鼻腔を刺激する匂いがする。


「んーいいにおい。何を食べようかな。」何があるかわからないので、他のテーブルで人が食べているものを見る。


食堂というのはどこの世界でも共通している部分は多く、特別違和感は無かった。注文したものを待つ間、エリスさんと会話する。


「エリスさんも【魔法使い】なんですね。」


「ええ。シュベールもそうよ。」


「この国には二人も【魔法使い】がいるんですか。」全世界で八人しかいないと聞いたのに、そのうち二人もこの国にいる。


「【魔法使い】がいてもいなくても存続する国は続くし、滅びる国は滅びるわ。…現に、今のラクティアは貿易上手で魔法使いは一人も居ない。この国に二人いるのは、理由があるの。…あなたよ、リオ。」


「私?」


「『黒の総本』がアドイ・ナユにあることは周知の事実。それが他国に奪われないようにするため、また、『黒の術師』が現れた時のためにこの国には常時二人の【魔法使い】がいるの。」


「【魔法使い】が『黒の術師』を排除するのは本能だと聞きました。本当ですか?」


「……残念ながら、事実ね。ああでも、そんな顔しなくても別にいきなり殺したりはしないわ。ただ、抑制することはあるでしょうけど。」



こ、怖いんですけどーーーーー!いきなり殺さないって、いきなりじゃなきゃ有り得るってこと!?


「仕方ないのよ。リオは魔力と精霊の力の違いがわかる?」


「いいえ。種類が違う、とか。」


「魔力と精霊の力は、水と油。本来なら同時に存在することはまず無いわ。」


「え?」


「人の魔力はもともと微量なものだったの。だから、精霊の力を生まれつき持っていてもそれほど害は無かった。」


エリスさんの話しが長くなったので要約すると、どうも、初代がトリップした頃から人の中に魔力で秀でたものが生まれてきたらしい。


「己の中の魔力を制御することができるのは一握り。できない人間は魔力に焼かれて死んでいくわ。今も昔もこれは変わらない。」


「リオ、魔力というのはね、魂の根源のことを言うの。魂の叫びと言っても過言ではないわ。人一人が耐えうる悲鳴ってどのくらいだと思う?」


「……わかりません。」なんだか怖い話しになってきました。


「私たちは世界を律する。世界の均衡を保つことが何より優先される。『黒の術師』は世界の異物であり排除する対象。そう位置づけたのは始まりの『黒の術師』だと聞くわ。」


初代、何やっちゃってるんですか。


「でも、そのおかげで私たちは魔力に焼かれずに済んでいる。これも事実。」


「え?」


「身体の奥底から上がる悲鳴をすべて『黒の術師』に向けることで私たちは狂わずに済んでいる。だから、【魔法使い】は『黒の術師』を追わずにはいられない。」


「ええと…」


「歴代の『黒の術師』はそれは上手に【魔法使い】をあしらったそうよ。リオ、あなたはどうかしらね?」エリスさんはそうくすりと笑いながら言う。


ええええ?


何でそんなに楽しそうなんですか!?


と、とりあえず、ランチに逃げていいですか。



何だかまた新事実が。どれだけ暴れてるんですか、初代。そして何気にいい人設定!?


わからないことが増えました。でも、【魔法使い】は襲ってくるんですね。



エリスさんは、美女秘書のポジションなのに酒豪でもあり。

ランチの後に老舗の酒屋さんを紹介していただき、試飲。試飲。試飲。


めぼしい酒をいくらか亜空間に放り投げ、残りの金銭確認。


ダグラス(金)は要らないって言ったのに、よこすから両替大変でした。グリード(銀)、ドラディス(銅)が未だ山ほどあります。特にグリード(銀)。


そこでお世話になっているウリセスとアリッサにお土産を買っていこうかと思う。あ、あとヨアキムと妹さんにも。


「じゃあ、こっちね。」エリスさんが案内してくれたのは、第四壁という街の外れにある商店街。


ここからは、もう街の城壁が見える。結界は見えないけど張ってあるらしい。


「リオ、しばらくここで居れる?」エリスさんは空を見上げていたと思ったら、私に言った。


「はい。どうかしたんですか?」


「ああ、少しね。―結界にぶち当たってる馬鹿がいるみたいなの。」



はい?


今の言葉はその麗しい唇が紡いだのでしょうか。何だか少し戦闘モードっぽくなってます。離れていましょう。


「様子を見てくるから、ここからあまり遠くへはいかないで。」


「わかりました。」そう言って、人ごみに消えていくエリスさんを見送ると、一人になりました。


めぼしいお店を見つけて、いくつかの買物をした後、日が暮れてきたのに時間を忘れていたことに気づく。


いけない。いくら何でも夕食に近くなってしまっている。腕時計は18時を指していた。


エリスさんが帰ってこない。あれから2時間近くかかっている。おかしい。

ちょっと見に行くというなら、往復でも1時間だろう。ここから城壁までの距離を考えるとそれくらいが妥当。


では1時間多くかかっている理由は?


小走りに駆け出す。


「杉崎璃桜が命ず。『追尾』―大地の色を宿した魔法使いを。」エリスさんの瞳は赤、髪は赤茶色をしている。炎の属性と、大地の属性。どちらも持っているが、大地の属性の方が強いのだという。


私の目に赤茶色の光の線が走る。この線をたどっていけばエリスさんの所まで行けるはず。


でもこの時の私の判断は、間違っていた。それを知るのは後のことになる。

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