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時を駆けるのは少女だから良いのです。

ちょいシリアスです。

1717年―享保2年。この時代の天皇は中御門天皇、桜町天皇。江戸幕府将軍は徳川吉宗。


なんて知識が私にあるわけはない。


『黒の総本』が目の前の半透明な男の素性を文字で丁寧に解説してくれているのである。



1717年、およそ今から300年近く前。男はこの世界に現れた。

4年間『黒の術師』としての名をほしいままにし、その後、消息不明。



『やっと同じ時代の子が来た。これで、本格的に戦うことになりそうだ。』


目の前で照れるように笑っているのは、間違いなく初代―ヒロキ・カキザキである。


男はしゃべらない。文字だけが本に記載されていく。何だこの変なタイムラグ。


そして私といえば監視されていはいるんだけど、部屋からは出てもらった。エリスさんには変な顔をされたが、意外にもあっさり退いてくれたことに驚いている。



『それはそうだろう、あれは【魔法使い】だぞ。』



はい?


『六代目は危機感が足りない。あれは魔法使いだからな、今もこの部屋を監視できている。何も近くにいる必要はないわけだ。ただ、六代目の気が緩んで何か情報が得られないかと傍にいるようにしていただけだ。』


ま、魔法使いって、エリスさんが?


そういえば、五大候と上層部と思える人たちしか居ない閲見の間に居た。それは魔法使いだから?


『そこで、だ。六代目。俺とさしで話し合いたいだろう?本を開け。』


言われた通り黒の総本を開く。ページは勝手に捲られてそのページが開かれる。


『チャットルームを作ろう


難易度★★★☆☆


この術は…』



は?いや、何だろうこれ。うん、意味はわかるんだけど。わかるんだけど。


『習うより慣れろ、だ。』初代は、言ってる内容ともかくわりとさわやかな青年だ。多分私より年下。


「杉崎璃桜が命ず。『箱庭』。」


契約を正式にしたことで、長い文章を読まなくても良くなったらしい。だけど名前も長いよね?もう少し短くできないものか。







「ようやくまともに話せるな。六代目ー璃桜と呼ぶかリオと呼ぶかどっちがいい?そうだな、リオにしよう。俺が本名を呼ぶのは色々不味い。」



真っ白い空間に現れた青年はそう言った。


この人が、初代『黒の術師』。普通の青年だ。どこにでもいそうな、少なくとも日本では。染めていない黒髪に、黒目。久しぶりに同胞を見たので何だか懐かしくなる。


私は今この白い空間に二人でいる。ここは、本の中の亜空間らしいが、細かいことは例によってよくわからない。


「久しぶりに見たなぁ、その茶髪。日本はまだ平和?」彼はそう言うと何もない空間に椅子を作り出して私に勧めた。


「はぁ…何なんです、あなた。」何だか拍子抜けして聞いてしまう。


「何って、初代『黒の術師』でしょ。まぁ俺が決めた名ではないんだけど、黒髪だからね安直だね。」


「聞きたいのですが、300年前に現れたっていうのは…」


「リオにもわかるように簡単に説明すると、俺ってば、トリップ体質なわけ。トリッパー?ああ、タイムトリッパー?まぁ何でもいいけど。たまたま300年前の異世界へ飛んだってわけ。」


「……」


「あ、信じてないな。まぁ、それで、『黒の術』を確立したのはいいとして、四代目に殺されちゃって。」


「は?」駄目です。そろそろついていけません。


「で、五代目と協力して君が来るのを待っていた、というわけ。」


「…………。『黒の術』を使ったのは誰かわかりますか?」とりあえず、彼の身上は良い。私の知りたいことはそれだ。


「見事にスルーしたなぁ。…まぁいい。わかるよ、四代目だ。ユウスケ。あいつは駄目だ。あいつは敵。」そこから、彼の雰囲気が静かに変わっていく。


「ちょ、ちょっと待ってください。二人共、平均日本人の寿命を軽く越えてます。」ヨシオカさんとやらが現れたのが、1916年大正16年だと言うから初代は一体何歳なんだ。


「ああ、そうだな、俺は享年28ってことになるかな。若くてぴちぴちなんだけどね。」


「それが何で…」殺されたりするのか。


「俺の体質、トリップ体質を利用した術をあいつが狙ってきたからさ。二代目も三代目もこの本通りにきちんとやる子だったのに、何であいつはねぇ…仕方ないけど。」



初代の話しによれば、四代目のユウスケさんとやらは、反政府活動に携わっていたかもしれないという。


「ご丁寧に斬奸状なんか書いてくれちゃって、俺は刺し殺された、というわけさ。まぁ、そんな気はしていたから本に逃げたんだけどね。あいつもそれはわかっただろう。」トリップ体質を利用した術で後輩を指導している最中に、殺されたらしい。何てこと。


「じゃあ、今の初代の状態というのは…」


「有体に言えば幽霊みたいなものだ。知っているかリオ、魂の強さは未練の強さに寄るものだ。俺はあいつを殺すまで消滅するわけにはいかないし、あいつだけには倒されてやらない。そこで、リオ。君の役割だが…」



いわく、四代目が同じような魂の状態で存在するから、それを鎮めるのが私の役目だという。


「いや、無理です。」


「大丈夫だ、今、正規の契約者はリオしか居ない。『黒の術』は犠牲を払えば使えるが、リオに敵うはずないんだ。」初代、それ全然安心できません。


「それに、オプションを付けただろう?」


「オプション?」


「精霊と魔法の間の子。キメラを作るのは心苦しかったけれどね。」



あんたがやったのか。



「何だその目。一応双方共に了承を得て協力しただけだぞ。」


「どういう事!?」


「いくら『黒の術』が使えてもリオとあいつじゃ天地の差がある。意識にな。暗殺が当たり前の時代を生きた男に、平和しか知らないお前じゃ勝ち目は無い。」


いや、だから私戦うって言ってません。


「【魔法使い】は敵だ。魔法の根源は律。世界を律すること。彼らはだから異物である俺らを邪魔だと思う。もうそれは本能みたいなもんでな。歴代の『黒の術師』たちは例外なく【魔法使い】と戦ってきた。」


ちょっと待ってください。それだと、【魔法使い】全員対『黒の術師』になりませんか。


「ああ。だから、二代目と三代目には苦労をかけたなぁ。まぁ、【魔法使い】は施政者ではないからなぁ。そう簡単に全員が対『黒の術師』というわけにはいかなかった。それぞれ国に属するならその国の意思が反映されるからな。」


「そんな中にも例外は居てな、俺に同情した馬鹿がいた。」


初代は寂しそうに笑うと言った。


「そいつが、フェルメール・ガラン。あのキメラの親にして、あの時代最強の【魔法使い】。」


「ウリセスは………」


「お前のサポートのために作られた。戦えないお前のためにな。」


ちょっと待て。


「待ってください。じゃあ…私がここへ来るってことは…」


「まぁ、諦めろ、最初から決まっていたことだ。」







何か色々大事なものが失われて行きました。





「何で…私なんですか。」そうだ、それならもっと好戦的で動ける子を連れてくれば良かったのに。


「お前、本当に普通で平凡。だからだよ。」


何て失礼な。


「リオ、もう少し歴史も勉強しておけ。あいつが狙っている術は俺のトリップ体質―タイムトリップの能力を得ようとしている。あいつが狙うのは何だと思う?」



いやだな。こういうの。何でこんなことになるんだ。



「日本という国をやり直すことだ。」

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