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第47話 帰り道には夢がいっぱい


二人はダンジョンを出て、第一支部に向かっていた。


ダンジョン人気で湧く、各ダンジョン支部の周辺には多くの店が出店し、急速に発展していた。とりわけ第一支部は規模も大きく、探索者の多くが利用していた。


探索後の癒しを求めてカフェへ向かう者。

装備の補修のために武具店へ訪れる者。

ダンジョンアイテムを専門店に持ち込む者。


ダンジョン支部を中心とした街の発展が、探索者ではない一般市民にも大きな影響を与えていた。にぎわう街の中を、目的の店に向かって歩く二人。


「探索証提示で注文できる探索者専用のパフェがあるんだ」


甘いものは苦手ではないが、特段好きというわけではない。蒼真は、想像だけで口の中に甘ったるいものを感じた。


「なんでも、魔物素材を使った一品らしいよ」


「え?食べられる素材があるの?」


武器や防具として使えそうな素材は見たことがあるが、食べられる素材はまだ見たことがなかった。


「Eランクで見つかったらしいよ。普通の材料で作るより美味しくなるんだって」


「ってことは、そのうち肉とか野菜も見つかったら、ダンジョン産のすごい美味いご飯が食べられるかもしれないのか」


「全然調べてないけど、ランクの高い素材なら美味しくなりそうだよね!ダンジョンサラダ食べてみたいなぁ」


「でもダンジョン産って身体に害はないのかな」


「その辺は、研究所で調べたらしいよ。身体に害のある成分は見つかってないって。でも魔力を含むから、ステータスを持たない一般の人への影響がわからなくて探索者専用らしい」


「へー。世の中進んでるんだな」


カフェに向かう途中に、ダンジョン産らしきアイテムの販売をしている店があった。


現在、探索者は登録が推奨されている。しかし、未登録で探索している人も多い。


未登録では、国の公的支援は受けられない。支部での査定や買取も利用できない。


探索者免許の発行は、当初名前を書くだけだったが、今では試験と講習が行われるようになった。当然費用もかかる。


街に点在するダンジョン全てを見張ることが不可能な現在。未登録で入ったところで咎める法律もまだ制定されていない。木刀片手にダンジョンへ入る者も珍しくない。


そういった未登録の野良探索者が手に入れた、ダンジョン産のアイテムを買い取る店が現れた。二人がカフェに向かう途中で見かけた店も、その一つだった。


もっとも、すべてが怪しい店というわけではない。支部公認の信用のある店舗も存在している。


現状は、野良探索者が持ち帰る素材やアイテムで市場は賑わっている。

法整備が進めば、免許の提示が無いと売り買いできなくなる日も遠くないんじゃないか。


二人は目的の店へ到着した。


甘いものと聞いて、可愛い女の子向けのカフェを想像していた。実際に入ってみると、誰でも気軽に入れそうなシンプルで落ち着いた雰囲気のカフェだった。


案内された席に向かっていると、超特大のパフェが見えた。縦にも横にも大きい。パフェの向こうにいたのは、いつかの探索中に一人で前線に立って、剣を振るっていた長い髪の女性だった。


どうやら一人らしい。超特大パフェを頬張っていたかと思えば、ふいに大きなため息をついた。


その横を通り過ぎる。案内された席で、探索者用のパフェを注文した。


「おい、俺はあんなにデカいの無理だぞ。」


「……あぁ。さっきの人が食べてた大きいのは、探索者用のじゃなくて、普通のパフェのゴッドサイズだよ」


ゴッドサイズって何だよ。


「探索者用のパフェは、材料がダンジョン産だから普通サイズだけだよ。」


「なんだ……良かった」


「値段はゴッドサイズの2倍するけどね」


「……さすが、ダンジョン産」


食べられる素材の発見は大きい。今まで、ダンジョン内での食事は持ち込むしか方法がなった。アイテムボックスを持たない人達にとって、これからダンジョンのサイズが大きくなり探索にかかる日数が増えていくと、食べ物だけで荷物を圧迫してしまう。現地調達ができるなら、多少は荷物も軽くなるだろう。


「ねぇ、聞いてる?」


全然まったく一ミリも聞いていなかった。


「なんだっけ、あの、ふざけた楽しそうな技。あれ以外にもあるんだよね?」


ふざけた名前なのは認める。


「武技受技ね。あれが武術の連撃技だとしたら魔法版もあるぞ」


「どんな魔法なの?」


首をコテンッと倒す。この仕草は可愛くて好きだ。


「その首をコテンッと倒す仕草可愛いよな」


「なっ、なっ、……急になに?」


「魔法はその時まで内緒」


「なんか変に意識するからやめて。急に話し戻るのも怖いよ」


武技受技の対となる魔法のユニークスキルも持っている。どうやって覚えたんだったかな。最初に覚えたのは武技受技だったな。と、その時の光景が浮かんで来る。


結依とパーティを組む前。初めてD級ダンジョンに挑んで戦ったボス。強すぎた。当時の俺にはまだ早かった。ボスは無数の手下を連れたハイオーガだった。手下のオーガを全て倒す。ハイオーガを相手に苦戦していると、再びオーガが現れた。無限に湧き続けるのか、回数に決まりがあるのかはわからないが、このままだと体力も魔力も尽きて負けることは予想できた。


賭けだった。その一回に賭けた。この窮地を脱するには、それしか無いと思った。


オーガを全て倒す。ハイオーガとの一騎打ち。


全ての体力をそこに注ぎ込んだ。


短剣の素早い動きで翻弄し、背中に一撃を決めたところで盾に持ち替えた。ダメージにより大振りになった腕を盾で弾く。その隙に腹部に体術による一撃。ハイオーガがふらつく。戦鎚に持ち替えて追撃。胸部にクリティカルヒットした。同時に戦鎚が折れた。柄が手に残る。ダンジョンで最初に手に入れた武器だ。思い入れも強い。胸を押さえて苦しむ声に我に返る。剣に持ち替えてハイオーガに迫る。首を切り落とす。


D級ダンジョン初踏破の瞬間だった。


【称号 人類初五武術使用撃破者を獲得しました】


【称号報酬 ユニークスキル 武技受技を獲得しました】


武術を五つ使って倒したことで称号を得た。……これは魔法版もきっとあるぞ。


負けるかもしれない。そんな恐怖を感じて賭けに出ていたはずだが、新たなユニークスキルのことで頭はいっぱいだった。次はもっと戦いやすいボスで魔法を五つ試してみよう。


宝箱すら開ける前に、もうそんなことを考えていた。


「すごい、なんていうか、甘さの段階?段位?一つ上の味だったよね。すごい濃厚なクリームなのに後味が軽くて、美味しかった。」


結依の言葉で記憶の海から現実に戻る。


「フルーツもダンジョン産なのかな?」


正直、武技受技を覚えた時のことを思い出していて、味わっていない。甘かった気がする。美味しかったのは間違いない。ちょっと勿体なかったかな。と考えていた。


「次のダンジョンはどこにいく予定?」


「次か。結依にユニークスキルも見せたいし、またDランクかな」


蒼真は味あわなかったことを後悔して、器に残るクリームをスプーンでかき集める。


「魔法版のお披露目ね。見ておかないと連携も難しいもんね。見せるときが、もう本番ってところはおかしいんだけどね」


二人して笑い合った。


店をあとにして駅に向かう。夕焼けの綺麗な赤い空は、結依を懐かし気持ちにさせた。


「学生の頃、こうやって、よく一緒に帰ったよね」


「あー、帰ってたなぁ。いつからだっけ、一緒に帰らなくなったの」


「蒼真に彼女ができてからじゃない?」


「思い出した。彼女が出来たって言ったら、『もう、一緒に帰らない!』って言い出したんだよ。」


「そうだっけ?覚えてなーい」


「……あれから、もう10年も経ってるのか。怖いなぁ」


時間の流れの速さを感じながら、駅まであと少しの距離まできた頃。蒼真はいつもの癖で、小道を覗いていた。


「どうしたの?」


「こういうところに、いいダンジョンが隠れ……隠れ……てたぁああ!!」


「きゃっ!なに?」


急に叫び出した蒼真に驚く。何人かの通行人が顔を向けるが、足を止めることはなく駅へと流れていく。


「お!?お!!すごいぞ!結依!すごいぞ!やった!!ダメだ。急ごう。まだ大丈夫だ」


急に結依の手をとり、小道に入っていく。右側には室外機がならんでいるのが見える。その隣には、観葉植物のようなものや鍋類が積まれていた。店の裏口のような扉も見える。


「いいか、結依。静かに驚け。アイテムボックスが手に入るダンジョンだ」


「え!アイテムボックス!?」


小道の奥。古い建物の壁。もともとは白かったであろう壁が、雨風により汚れてしまったのかくすんだ色をしていた。その壁にまぎれるように白い渦があった。


《真鑑定》


【ダンジョン名 空っぽの大部屋】


【ランク 特殊】


【階層 一階層】


【テーマ 収納】


【状態 未踏破】


俺が【アイテムボックス・小】のスキル玉を入手したダンジョンとまったく同じ情報だ。

【アイテムボックス・中】にするダンジョンだと、【空っぽの大部屋】が【空っぽの中部屋】に変わる。小さくなっている。だがそのダンジョンは……いや、今はいい。そんなことよりも目の前のダンジョンだ。


「結依、このダンジョン、一人でいいか?」


「え?なんで?一緒に探してくれないの?」


アイテムボックスのダンジョンについては、前に話してある。広大で何も無いダンジョンをひたすら歩いて1匹のスライムを倒すだけ。

根気さえあれば、中学生でもクリアできるだろう。だから大した危険はない。俺は白い入口のさらに奥を指さした。


《真鑑定》


【ダンジョン名 灰色の書庫】


【ランク ー】


【特殊ダンジョン】


【階層 一階層】


【テーマ 無属性】


【状態 未踏破】


これは無属性魔法の魔本がでる。俺の勘がそう言っている。行かなければならない。


名前も。テーマも。無属性魔法だぞ。と言っている。踏破しないと。誰よりも早く。


「俺は、こっち。もう行くから。そっちも頑張」


言い切る前に、体はダンジョンに吸い込まれていった。


一人残された結依は、虚ろな目で蒼真の入って行った入口をしばらく見つめていた。ため息を吐くと、白い入口に入って行った。


蒼真は暗闇を通り抜けた。視界が晴れると、やわらかな明かりが木製の扉を照らしていた。『Archive』と書かれた看板がついている。大きく深呼吸をして、その扉を押し開けた。


室内を見渡せる一段高い中二階のような場所に出た。両端からは、フロアに下りる階段が伸びている。少し薄暗く感じる室内には、高さの終わりが見えない本棚が規則的に並んでいた。天井は高いのか存在しないのか、目を凝らしてみても暗闇しか見えなった。本棚には灰色の背表紙をした厚めの本が隙間なく並んでいた。


今までの特殊ダンジョンとは違った。街の図書館のような温かみのある本の部屋というよりも、知識の集約された保管庫。室内は荘厳な雰囲気に包まれていた。


蒼真はアイテムボックスから剣を取り出した。いつでも切り掛かることができるようにしながら、ゆっくりと階段を下りた。


フロアに足を踏み入れた。周りを警戒する。


一歩。


二歩。


しかし何かが起きる気配はしない。


一番近い本棚の前までたどり着いた。一冊手に取ってみる。背表紙も表紙も綺麗な装飾がされていてたが、文字はなに一つ書かれていなかった。開いてみても中は白紙だった。本を戻して奥へと進む。


天井は見えないほど高いが、部屋はそこまでの広さはなかった。壁一面が本棚で行き止まりになっていた。


「何も起きないし、特に気なるようなものもない。……どうすればいいんだ」


油断はしないようにしながら、緊張していた身体の力を抜いた。蒼真は剣をアイテムボックスにしまい腕を組んで考え始めた。


武器修練のダンジョンはわかりやすかった。しかしアイテムボックスの大部屋は、ただ広い部屋を歩き回って、スライムを探さなければいけない性格の悪いダンジョンだった。


……嫌な予感がする。あたりを見まわす。視線の先には無数の本。この中から当たりを探さなければならないのか。


「無理だろ!」


室内に声が響く。


「一日や二日の量じゃないぞ?全部見るのか?一冊づつ?……無理無理。そうだ。鑑定だ。俺には真鑑定がある。何も一冊づつ見ていく必要なんかないんだ。端からザーッと見ていけばいいなら……でも多いか」


迷っていても始まらない。手始めに本棚から一冊抜き、《真鑑定》を使った。


【魔本のレプリカ】


【無属性魔法の魔本と同一の見た目をしている】


嫌な予感が的中してしまった。ここから正しい一冊を探し出すことが、このダンジョンの攻略方法のようだった。


「……マジか」


自分で導き出した答えだが、信じたくない気持ちでいっぱいだった。



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