第46話 武技受技の正体
ボスが霧となって消える。静まり返った草原に、風だけが吹き抜けた。
「終わった……」
結依がようやく息を吐く。蒼真はその場へ座り込んだ。
「疲れたぁ……」
「今の最後の技、何?」
「最後?」
「途中から全部」
蒼真は笑う。
「ああ、【武技受技】か」
結依も隣へ座った。
「結局、何してたの?」
蒼真は右手を見つめる。
「実は、さっき初めて使った」
「え?」
「やり方は分かってたんだけどな」
結依は目を丸くする。
「試し撃ちだったの?」
「まぁ、そうなる」
「怖いこと言わないでよ」
蒼真は苦笑する。
「でも成功した」
右手を軽く握る。
「【武技受技】は、一つの武技じゃない」
「違うの?」
「連携技だ」
結依は首を傾げる。蒼真は説明を始めた。
「最初に使ったのは【シールドカウンター】だった」
「あれは分かる」
「あの瞬間、盾が一瞬光っただろ」
「うん」
「あれが始まり」
「【武技受技】は、武技で有効打を与えた瞬間に始まる連携技なんだ」
「連携?」
「別の武術の武技へ繋げて、それも有効打なら次へ繋がる。今回は盾、戦棍、短剣、剣、体術って繋げた。でも順番は決まってない。どの武術から始めてもいいし、どの武術へ繋いでもいい」
「じゃあ何が強くなるの?」
「連携が続くたびに次の武技の威力が上がる」
「一段目は普通」
「二段目で一・二倍」
「三段目で一・五倍」
「四段目で一・八倍」
「五段目で二倍」
「だから最後の【ヘヴィストライク】があんな威力だったんだ」
「なるほど……」
「ただし条件は厳しい。通常攻撃じゃ始まらない。武技だけ。しかも全部、有効打じゃないと駄目。途中で防がれたり、避けられたり、浅かったり、中断されたり、誰かが攻撃した時点で全部消える」
「同じ武術を続けても駄目?」
「駄目。同じ系統じゃ繋がらない」
「だから毎回、違う武術を使ってるんだ」
「……普通の人じゃ無理じゃない?」
「称号報酬だからな」
結依は納得したように頷いた。
「なるほどねぇ」
少し考え、
「でも、あれ弱点もあるよね?」
「ある」
蒼真は即答した。
「武器を持ち替える時間がある」
「うん」
「途中で邪魔されたら終わる」
「だよね」
「相手が複数でも使いにくい」
「確かに」
「だから誰にでも使える技じゃない」
結依は少し笑った。
「でも、ボス相手なら強そう」
「そのために作られた気がしてる。今回は、前から考えてた流れだった。盾で弾いて、棍で崩して……上手くいって良かったよ」
二人でクリムゾンバイソンが消えた場所を見る。あの筋肉、あの硬さ。普通なら長期戦になっていただろう。それを一連の武技だけで押し切った。
「これ、もっと武器が増えたらどうなるの?」
「連携パターンが無数に増えることになるな。どんな攻撃でも、状況に合った武技で反撃できれば、そこから連携を始められる」
「すごいね」
「理屈はね。実際は最大五連までだから、どの武器で始めて、どこで何の武技を繋ぐかがかなり難しい」
「私なら途中で何使うか分からなくなりそう」
「そこは訓練だな」
結依はじっと蒼真を見る。
「……そんな真面目だったっけ?」
「楽しいからね。好きなことなら続けられる」
「ふーん」
蒼真は少し考え込む。
「本当はもっと攻撃で隙を作れたら強いんだけどな。今は盾で弾いて、足を払って崩す流れが一番綺麗に決まる」
「あっ」
結依が広場の中央を指差した。
「宝箱」
「あ」
蒼真も思い出したように立ち上がる。
「忘れてた」
二人は宝箱の前へ向かった。
《真鑑定》
【D級宝箱】
中には四つの報酬が入っていた。
【クリムゾンバイソンの皮】
【怒りの角兜】
【猛牛の戦斧】
【スキル玉】
「おー。当たりだ」
「相変わらず報酬がおかしい……」
《真鑑定》
【猛牛の戦斧】
【Dランク 戦斧】
【荒々しい牛を象った戦斧】
【攻撃力小上昇】
【速度中低下】
「斧は微妙だな。攻撃力は上がるけど、速度がかなり落ちる」
続いて兜を鑑定する。
《真鑑定》
【怒りの角兜】
【Dランク 頭防具】
【両側から伸びる角が特徴】
【牛の真似をして叫ぶと威圧の効果を発揮する】
【特定条件時 威圧】
「……何これ」
蒼真が吹き出す。
「牛の真似限定か」
「絶対やらない」
結依は即答した。最後の素材。
《真鑑定》
【クリムゾンバイソンの皮】
【素材】
そして最後。
《真鑑定》
【スキル玉】
【内容 剛体】
「剛体だって。いる?」
「いらないよ?」
「兜も?」
「使うわけないでしょ」
蒼真は笑う。
「結依、よく『もーもー』言ってるし丁度いいじゃん」
「蒼真が言わせてるんでしょ!」
頬を膨らませながら皮を手に取る。
「皮はどうするの? 加工屋さんに持っていけば防具にしてもらえるよ?」
「いや、今の装備が強いからな」
「Eランクだって言ってなかった?」
「セット装備なんだよ。攻撃力小上昇、速度微上昇、防御力微上昇、耐性微上昇が付いてる」
結依は言葉を失った。
「また……何それ」
呆れたように笑う。
「そもそも武器や防具にスキルが付いてるだけでも珍しいの。普通は一つ付いてるだけで奪い合いなんだから」
「そう言われてもな。防具は頑張って集めたし」
「なんか……『まぁ蒼真だもんね』って納得し始めてる自分がいる。怖い」
蒼真は戦斧を持ち上げる。
「斧とスキル玉は俺がもらっていい?」
「いいよ。皮と兜は私がもらう」
「売るの?」
結依は首を振る。
「皮は防具に加工してもらおうかな。今の装備じゃDランクだと心許ないし」
「兜は?」
「使えば?」
「もー!」
結依は顔を真っ赤にした。
「使うわけないでしょ!」
「被らないと威圧出ないぞ?」
「怒った!」
結依が蒼真を指差す。
「帰りにケーキ奢りね!」
「はいはい」
笑いながら荷物をまとめる。二人は並んでダンジョンを後にした。




