第45話 武技受技
扉がゆっくりと開く。
その先に広がっていたのは、果ての見えない平原だった。
風が草を揺らしていた。その奥。広大な草原の中央に、一頭だけ魔物が立っていた。
赤黒い毛並みに、左右へ大きく反り上がる角。レッドバイソンより、さらに二回りは大きい。まだ距離があったが、それでも分かる。
「あれ……筋肉やばくない?」
結依が思わず呟いた。
蒼真も同意する。
「ああ」
肩、首、脚。全身が鎧のような筋肉で覆われていた。
《真鑑定》
【ボス クリムゾンバイソン】
【ランク D】
【スキル】
【超突進】
【剛体】
【激昂】
蒼真は表示を読み上げる。
「【超突進】は、溜めるほど威力と速度が上がる突進」
「【剛体】は身体能力と硬さを上げる強化」
「【激昂】は一定回数攻撃を受けると発動。力を大幅に上げる代わりに冷静な判断を失う」
「……全部嫌なスキルだね」
「初見だからな。まずは様子を見る」
蒼真は動かなかった。牛も動かない。互いに距離を測っているようだった。その様子を見て結依が言う。
「いいよ?一緒に戦う?」
蒼真はしばらく黙り、
「……いや、一人で、やり、ます」
「……ちょっと怖くなってない?」
「なるだろ!見ろよ!あの筋肉量!」
結依は吹き出した。
「どうする?」
「まぁ……大丈夫だよ。本当に危なそうだと思ったら助けて」
「回復はまかせて」
「怪我する前に助けろよ」
「善処します」
「そこは任せろって言え」
二人で笑う。
蒼真は深呼吸すると、何度か屈伸を繰り返した。肩を回す。脚の感覚を確かめる。
「じゃあ、やりますか」
牛へ向かって走り出した。
ブモォォォッ!!
クリムゾンバイソンも前脚で地面を蹴る。
一直線。
互いの距離が一気に縮まる。ぶつかる直前。蒼真が右へ跳んだ。牛は止まらない。そのまま走り抜ける。交差する一瞬。
「《ストライク》」
右拳が光る。威力を増した拳が牛の脇腹へ突き刺さった。
ドンッ!!
ブモォォオオオ!!
牛はそのまま数十メートル走り抜ける。やがて速度を落とし、ゆっくりと振り返った。蒼真は拳を見つめる。確実に当たった。だが、効いていない。牛は傷一つ負っていなかった。
クリムゾンバイソンが何度も地面を蹴る。今にも飛び出したい身体を、無理やり押さえ込んでいるようだった。身体から白い蒸気が立ち上る。
「来る」
蒼真は腰を落とした。次の瞬間。牛の姿が弾けるように消えた。
《超突進》
速い。さっきとは比べものにならない。蒼真は両手で角を掴んだ。
ドゴォォン!!
衝撃が全身を貫く。腕が軋む。足が浮いた。身体ごと後方へ吹き飛ばされる。それでも離さない。牛の進行方向へ合わせて後方へ跳ぶ。着地した直後も勢いを殺し切れず、靴底で草原を何十メートルも削られた。
ようやく勢いが収まった。蒼真は角から手を離し、大きく距離を取る。
「……重っ」
牛はすぐに向き直る。鼻息はさらに荒くなっていた。今度は蒼真から動く。左右へ細かくステップを踏みながら距離を詰める。最後の一歩。大きく踏み込み、拳を振り抜く。
「《ストライク》」
牛が顔を振った。角で受けようとしたのだろう。しかし、拳の方が速かった。その一撃が届く直前。
ブモォ!!
牛の全身の筋肉が膨れ上がる。
《剛体》
ズンッ!!
拳は顔面へめり込む。だが、ほとんど効いていない。クリムゾンバイソンはゆっくり口角を上げた。笑っている。そう見えた。蒼真は再び距離を取る。牛は右前脚で地面を叩いた。
ドン。
ドン。
全身の筋肉を誇示するように膨らませる。
「筋肉自慢してるところ悪いが」
蒼真はアイテムボックスから盾を取り出した。
「そろそろ倒すぞ」
ブモォォォッ!!
牛の身体から蒸気が吹き上がる。蒼真は姿勢を低くした。盾を前へ。
「《プロテクト》」
盾が淡く光る。
《超突進》
また消えた。そう錯覚するほどの速度。
激突。
「《シールドカウンター》!!」
ガァァァン!!
盾が輝く。受け止めた衝撃が、そのまま牛へ返る。クリムゾンバイソンの巨体が大きく仰け反った。
「きた!」
盾が一瞬だけ輝く。
「ここだ!いくぞ、《武技受技》!」
盾をしまう。代わりに戦棍を握る。戦棍が淡く光を帯びた。
「《サークルスイープ》!」
身体ごと回転する。巨大な薙ぎ払い。
ドゴォン!!
牛の脚が払われた。巨体が傾く。
次。
戦棍をしまい、同時に短剣を取り出す。短剣の光はさらに強くなっていた。
「《ダブルスティング》!」
シュッ!!
シュッ!!
二連続の刺突。無防備な胴体へ深く突き刺さる。
ブモォ!!
ブモォォォオオ!!
「まだまだ!」
剣へ持ち替える。剣はさらに眩しく輝いた。
「《ダブルスラッシュ》!!」
二本の斬撃が交差する。深い十字傷が牛の身体へ刻まれた。
ブモォォォォォォォ!!
叫び声が響く。それでも倒れない。クリムゾンバイソンの全身が震え始めた。目が赤く染まる。身体から噴き出す蒸気。
《激昂》
理性を失った牛が咆哮する。
「次で終わりだ」
蒼真は剣をしまった。全身が淡く輝く。
【武技受技】で積み重ねた光が、右腕へ集まっていく。
眩しいほどの光。牛が突っ込む。溜めは短い。
「遅い」
蒼真は身をひねる。牛が横を通り抜ける。右拳を引き絞る。
「《ヘヴィストライク》!!」
ドォォォンッ!!
拳が腹部へめり込む。衝撃が身体を貫く。皮膚が波打つ。筋肉が震える。拳から伝わった衝撃が、クリムゾンバイソンの巨体を宙へ浮かせた。突き抜けた衝撃波が空気を揺らす。クリムゾンバイソンは何十メートルも吹き飛び、地面を転がった。
起き上がろうと前脚へ力を込めた。だが、その巨体は持ち上がらない。やがて静かに霧となって消えていった。
新スキル【武技受技】(ブギウギ)です。
強いです(笑)
読んでいただいてありがとうございました。




