第44話 平原ダンジョン
結依と正式にパーティを組んでから、初めての探索。
今日は新しく発見された平原型のD級ダンジョンへ来ていた。
空は青い。草原がどこまでも広がっている。風に揺れる草の音だけが静かに響いていた。
「久しぶりに新しいダンジョンだな」
「ちょっと緊張する」
杖を握り直す。
再会した頃は二つしか無かった結依のスキルは、驚くほどに増えていた。
【回復魔法】
【結界魔法】
【気配察知】
【回復量増加】
【回復範囲増加】
【棒術 初級】
【見切り】
【消費魔力低下】
【魔法構築】
【堅牢】
【跳躍】
一ヶ月前とは比べものにならないほど強くなっている。
「結依ならもうD級でも普通に戦えるよ」
「そう言われてもまだ慣れないよ」
二人は草原を歩き始めた。入ってすぐだった。蒼真が立ち止まる。
「お?」
「どうしたの?」
右側。少し離れた場所。草の中に、不自然な盛り上がりが見えた。
「当たりかな」
靴先で土を払う。
ザッ。
木箱の角が見えた。
「あった」
「えっ!?」
さらに土を払うと、完全に埋まっていた宝箱が姿を現した。結依が目を丸くする。
「……平原系って途中に宝箱なんて無いって言われてるけど」
「あるんだなー。これが」
蒼真は笑いながら蓋を開く。すると、宝箱の中から、長い柄がゆっくりと浮かび上がった。
まるで誰かが持ち上げているように。
するり。
するり。
一本の武器が姿を現す。
「お!もしかして……」
真鑑定。
【Dランク 戦棍】
【両端に金属がついた、戦うための棍】
「D級の戦棍だ!」
柄は黒。先端は銀色の金属が淡い光を放っている。さっそく軽く振ってみる。
ブォン、と重い風切り音が響く。
振るたびに空気を裂く感触が心地いい。
結依は宝箱の中を覗き込んでいた顔を上げた。
「……不思議」
「何が?」
「中、全然入らないよね」
確かにそうだ。長さだけでも一メートル以上ある。箱の高さは三十センチほどしかない。それなのに武器は抵抗もなく出てきた。
「宝箱ってアイテムボックスみたいなものなのかな」
「多分そうなんじゃないか」
「誰が作ってるんだろうね」
「ダンジョンだからな」
答えはない。そんな話をしていると。
ブモォォォォッ!!
低い咆哮が響いた。前方に、赤黒い毛並みの巨大な牛が一頭。鼻息を荒くしながら前脚で地面を掻いている。
《真鑑定》
【レッドバイソン】
【ランク D】
【突進】
【突進時の角に注意】
「角に注意らしい」
牛が地面を蹴った。一直線に突っ込んでくる。
「《障壁結界》!」
透明な壁が結依を包む。
ドォン!!
激突。
衝撃で草が揺れる。だが、結界は割れなかった。牛だけが足を止める。一ヶ月前なら、あの結界は割られていただろう。
「ちょっと怖かった」
結依が苦笑する。
「今の結依なら大丈夫だって言ったろ」
「言ってたっけ?」
「言ってないかも」
「もー!適当なんだから」
蒼真は戦棍を長く持ち替えた。
「《スイープ》」
戦棍が淡く光る。
ブォン。
戦棍が低く薙ぎ払われる。足を払われた牛は倒れた。
ブモォオ!!
「うるさいよ」
戦棍を振り下ろす。そのまま脳天に一撃。
レッドバイソンが霧散し、魔石だけが残る。
「D級にもなると、武技を使わないと楽に倒せないんだよな」
結依が呆れたように見る。
「みんなF級から武技使ってるよ?」
「F級なんてつついたら倒せるだろ」
「私も今はそう思う」
二人で笑う。
ダンジョンが世の中へ広がって数ヶ月。探索者という職業は急速に注目を集めていた。
会社員、主婦、フリーター。
そんな普通の人たちが探索者として才能を開花させることも珍しくない。
中でも有名なのは。
剣一本で戦う【剣聖田中】。
宝箱だけを求めて世界を巡る【宝箱マニア】。
派手な火魔法を配信する【爆熱姫】。
鉄筋を武器に戦う【鉄筋にくん】。
爆熱姫は美しい容姿も相まって、今ではアイドルのような人気らしい。スポンサーも付いているという噂まである。
どの探索者も間違いなく一流だった。
だが、もし今、蒼真と戦えば誰一人、勝つことはできないだろう。
それほどまでに、蒼真は成長していた。その後も魔物を倒しながら進む。
牛が群れで突進してくる。
「《反力結界》」
結依を包む透明な壁に突進した牛達が弾き返された。蒼真が新しく手に入れた戦棍を振るう。
重い一撃。四頭の牛が次々と霧散していく。
「やっぱりD級武器は違うな」
結依が感心したように頷いた。
「さて。実は結依にお願いがある」
「え?怖いんだけど……無理だよ?一人でボスは絶対無理だよ?」
「逆。今回のボスは俺一人にやらせてほしい」
蒼真は指を指した。草原の先。巨大な石造りの扉が見えた。ボス部屋だった。蒼真は戦棍を肩へ担ぐ。
「これで剣、短剣、盾、戦棍が揃った。体術も合わせて五種類。これで前から試したかったスキルを試せる」
結依は嫌な予感がしたように笑う。
「……もしかして」
蒼真も笑った。
「そう。そのもしかして」
二人はボス部屋の扉へ手を掛けた。




