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第43話 話は聞こう


結依とダンジョンを巡るようになって、一か月ほど経った。週末になると、一緒にダンジョンへ潜る。


最初は国管理のダンジョンだけだったが、蒼真の強さと秘密を知ってからは、管理外のダンジョンへ入ることにも抵抗がなくなった。


もちろん、危険だと判断した場所には入らない。それでも活動範囲は以前より広がっていた。プライベートダンジョンでの訓練もすっかり日課になっている。


休日の片方はダンジョン。

もう片方はプライベートダンジョン。


魔力を気にせず魔法を撃ち続けられる環境は、結依にとって夢のような場所だった。


時折、結依が夕食を作ってくれることもある。


「スキル玉のお礼」


本人はそう言う。最初は遠慮していた。


「こんなの受け取れないよ」


何度もそう言われた。けれど、二人でダンジョンを回ると、不思議と回復魔法や結界魔法に関係するスキル玉が見つかる。


蒼真には必要ない。結依には必要だ。その繰り返しだった。


「いくらすると思ってるの?」


ある日、結依が本気で聞いてきた。蒼真は無言でスマートフォンを差し出した。口座残高を見た結依は、しばらく固まる。遠い目をしたまま、小さく呟いた。


「……アリガトウ」


それ以来、素直に受け取るようになった。そんな週末が続いていた。そして今日は、久しぶりに一人だった。


結依はダンジョン課から依頼を受けている。負傷者支援を兼ねた探索補助。今日はそちらへ向かっているらしい。


「さて」


蒼真は地図を開く。


「どこ行こうかな」


少し考え、未踏破のダンジョンへ向かった。


一つ目。


踏破。


二つ目。


踏破。


目的の気絶耐性・小も手に入った。


「今日は当たりだな」


機嫌良く三つ目のダンジョンへ入る。しばらく進むと、人の話し声が聞こえた。蒼真は足を止める。通路の角からそっと様子を窺う。


四人組のパーティだった。前衛に立つのは、一人の女性。長い髪を後ろで束ね、長剣を肩へ担いでいる。敵へ向かって真っ直ぐ踏み込み、連撃。今まで見たことのある探索者の中で一、二を争う早さと力強さだ。耐え切れずに魔物がすぐ霧散した。


「倒したわ!」


その女性は後ろを振り返る。

後方では三人が少し離れた位置に立っていた。


「お、おう。お疲れ様」


「助かった」


「……」


どこかぎこちない。

女性は何か言いたそうだったが、そのまま前を向く。残る三人も微妙な距離を保ったまま歩き始めた。


(……上手くいってないな。)


戦い方ではない。空気だった。誰も女性を責めてはいない。女性も怒ってはいない。

それでも噛み合っていないことだけは、離れた場所から見ていても分かった。

触らぬ神になんとやら。

蒼真は気付かれないよう、別の通路へ進む。


こちらが正解だった。ボス部屋へ到着。

何事もなく踏破し、報酬を受け取る。


「おっ!刺突耐性・小のスキルだ」


もうE級やF級のボスは、本格的な攻撃前に倒してしまう。どうやら突き攻撃をしてくるタイプのボスだったようだ。狙ってはいなかったが今日の成果は十分だ。


「結依迎えに行くか」


依頼が終わる頃だろう。せっかくだ。今日は少し豪華な夕食でも食べよう。そう思い、結依が向かったダンジョンへ足を向けた。


入口へ着くと、いつもより人が多い。

探索者、職員、救護班。慌ただしい。周りを見渡しても結依の姿は無い。


「何かあったんですか」


近くにいた探索者へ声を掛ける。


「中で負傷者――」


そこまで聞いた瞬間だった。蒼真は走り出していた。説明を最後まで聞いていない。聞くより先に身体が動いていた。


身体強化、歩法。最短距離。最速。


頭の中にある地図を辿りながら駆け抜ける。

魔物は必要最低限だけ倒す。

止まらない。探す。結依だけを。


ボス部屋の前。見慣れた後ろ姿が見えた。蒼真は駆け寄り、その肩を掴む。


「大丈夫か!? 怪我は!? 敵は!? 不審な奴は!?」


結依は目を丸くした。


「……え?」


完全に状況が飲み込めていない顔だった。


「急にどうしたの?」


蒼真も固まる。


「……あれ?」


周囲を見る。負傷者はいる。結依はその手当てをしていた。本人には傷一つない。


「なんか分からないけど……落ち着いて?」


蒼真は一度深呼吸した。事情を聞く。ボス部屋の前まではなんとか到達。だが負傷者が多く出た。結依は回復役として残り、応急処置を担当。先発隊が状況を報告するため、外へ向かった。だから入口は騒がしくなっていた。


「そういうことか……」


蒼真は大きく息を吐いた。肩の力が一気に抜ける。その様子を見て、結依は少しだけ笑った。


「そんなに心配してくれたんだ」


蒼真は少し照れくさそうに頭を掻く。


「当然だろ」


結依はくすっと笑う。


「そんなに私が心配なら、もうパーティでも組む?」


蒼真は少しだけ考えた。最近は役割分担も自然にできるようになっていた。回復と結界。その連携。秘密も知っている。今さら隠すこともない。


「……そうだな」


蒼真は結依へ手を差し出した。


「よろしく頼む」


結依もその手を握り返す。


「じゃぁ……よろしくね」


この日。

二人は正式にパーティを組んだ。

読んで頂きありがとうございます。

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