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第4話 火と風と

第4話 火と風と


駅前のベンチでしばらく休んだあと、天城蒼真はコンビニで昼飯を買った。


おにぎり二つと、唐揚げと、スポーツドリンク。


普段なら家に帰って食べるところだが、今日は違う。駅前の端に座り、買ったばかりの昼飯を雑に胃へ入れながら、蒼真はスマホの地図を眺めていた。


探す場所は、なんとなく分かってきた。


人目の少ない場所、使われていない建物、古い地下道、閉じたシャッター、不自然に暗いところ。


「水があったなら、他もあるよな」


魔本を手に入れた。


【初級 水魔法】


たったそれだけで、蒼真の中の何かが完全に壊れた。


昨日までは、スキルとレベルで十分におかしいと思っていた。だが魔法は別だった。手のひらから水球を生み出した瞬間、もう後戻りできないと分かった。


これは楽しい。


危ないとか、常識外れとか、誰かに相談すべきとか、そういうまともな考えが全部後ろへ下がっていく。


蒼真は残ったスポーツドリンクを飲み干し、立ち上がった。


「次」


そう呟いて、歩き出した。


二つ目のダンジョンは、駅から少し離れた廃ビルの裏手にあった。


古い非常階段を上る。


赤黒い影のような入口が、踊り場の壁にへばりついている。


《真鑑定》


【ダンジョン名 燻る小穴】


【ランク F】


【階層 一階層】


【テーマ 火】


【状態 未踏破】


「当たり」


蒼真は思わず笑った。


ただ、すぐに表情を引き締める。


火。


水の洞穴より危ない気がする。


昨日のスライムの酸ですら服が焦げたのだ。


火属性の魔物なら、下手をすれば火傷では済まない。


それでも、足は止まらなかった。


入口を抜けると、熱気が肌に触れた。


洞窟の中は赤く、壁のひび割れから火の粉のような光が漏れている。


足元の石は乾いていて、ところどころ黒く焦げていた。


「暑っ」


蒼真は上着の前を開け、木製ハンマーを握った。


水魔法の魔本を取り出す。


所持しているだけで使える。そう鑑定には出ていた。


なら、火のダンジョンでは水魔法が役に立つはずだ。


最初に現れたのは、小さな赤い蜥蜴だった。


火蜥蜴。


見た目そのままの魔物が、床を這うように走ってくる。


口元に火が灯った。


「いきなりそれかよ」


蒼真は手を前に出す。


「湧き出よ!《ウォーター》!」


水球が生まれる。


まだ小さい。けれど、火蜥蜴が吐き出した小さな火の玉にぶつかり、じゅっと音を立てて消えた。


「おお」


感心している暇はなかった。


火蜥蜴はもう次の火を吐こうとしている。


蒼真は距離を詰め、ハンマーを振り下ろした。


一撃目は外れた。


二撃目で尻尾を叩く。


三撃目で頭を潰した。


【ファイアリザードを討伐しました】


【レベルが上がりました】


「水、使えるな」


ただし、魔力が減る感覚があった。


魔法を使うたびに、体の奥から何かが抜けていく。


疲労とは違う。


空腹とも違う。


だが、使いすぎれば危ないことは分かった。


蒼真はそれから、火蜥蜴を何匹か倒した。


火の玉は水魔法で相殺し、近づいたらハンマーで殴る。


戦い方は不格好だが、少しずつ形になっていく。


水球の精度も上がってきた。


これならいける。


最奥には、体の大きな火蜥蜴がいた。


《真鑑定》


【ボス バーンリザード】


【ランク F】


【火球を連続で吐く】


【水属性攻撃が有効】


「分かりやすくて助かる」


バーンリザードが口を開く。


火球が飛ぶ。


蒼真は水球をぶつけた。


一発目は相殺。


二発目は少しずれて、肩をかすめた。


熱い。


スーツの時と違い、厚手の上着が多少は防いでくれたが、それでも皮膚が焼けるような痛みが走る。


「っ、痛ぇな!」


痛みで逆に意識がはっきりした。


蒼真は連続で水球を作る。


「湧き出よ!《ウォーター》!湧き出よ!《ウォーター》!湧き出よ!《ウォーター》!」


一つ。


二つ。


三つ。


魔力が抜ける感覚が強くなる。


それでも撃つ。


火球を消し、距離を詰め、最後はハンマーを両手で握って叩きつけた。


バーンリザードが倒れる。


【ボスを討伐しました】


【ダンジョンを踏破しました】


宝箱。


中には赤い表紙の魔本があった。


【魔本 初級火魔法】


【所持中、条件を満たすことで初級火魔法を使用可能】


蒼真はその場に座り込み、荒く息を吐いた。


肩が痛い。


魔力もだいぶ減っている。


なのに、口元は緩んでいた。


「火、取った」


水に続いて、火。


魔本を手に取り開く。


やっぱり読めない。


でも水魔法のときと同じく意味は流れ込んできた。


右腕を突き出す。


「燃えよ!《ファイア》!」


プスッ。


ライターより小さな火が一瞬だけ灯る。


「燃えよ!《ファイア》!!」


プスッ。


「……燃えねぇじゃん!!」


蒼真は赤い魔本をリュックにしまい、立ち上がる。


この時点で、普通なら帰るべきだった。


だが、普通ならそもそも一日で二つもダンジョンを踏破しない。


いや、ダンジョンにすら入らない。


蒼真は外へ出て、近くの自販機で水を買った。


飲みながら、スマホを見る。


まだ午後三時前。


「……行けるな」


その判断は、かなり雑だった。


三つ目のダンジョンは、夕方前に見つかった。


場所は高架下の使われていない倉庫。


入口は、風に揺れる布のように薄く、触れると指先が吸い込まれそうになる。


《真鑑定》


【ダンジョン名 風鳴りの通路】


【ランク F】


【階層 一階層】


【テーマ 風】


【状態 未踏破】


「風か」


火と水の魔本を確認する。


使える魔法は二つ。


水球と、火種。


火の方は期待していない。まだライターの方が強い。


蒼真は入口を見つめた。


肩の痛みはある。


魔力の減りも感じる。


でも、風魔法が欲しかった。


理由は単純だ。


使えたら絶対に面白い。


風鳴りの通路は、名前通り風の音がうるさかった。


細い石の通路に、常に横風が吹いている。


足元には砂や小石が転がり、視界の端で細い風の刃のようなものが走る。


「これは、嫌な予感しかしないな」


予感は当たった。


最初に現れた魔物は、鳥だった。


小型の鳥型モンスターが、風に乗るように通路を飛び回る。


速い。


火蜥蜴より厄介だった。


ハンマーは当たらない。


水球も避けられる。


蒼真は何度も肩や腕をつつかれた。


「こいつ、うざいな!」


苛立ちながら、火の魔本を開く。


意味は流れ込んでくる。


火を生む感覚。


魔力を熱へ変える感覚。


「燃えよ!《ファイア》!」


手のひらに、小さな火球が浮か……ばない。


「出ない!」


鳥は様子を見ている。


「出るまで待ってくれるってか?よし待ってろ!」


魔本を持つ手に力が入る。


「燃えよ!《ファイア》!燃えろ!《ファイア》!燃えてくれ!《ファイア》!」


鳥が急降下してくる。


「いい加減……燃えやがれ!《ファイア》!」


手のひらに火の玉が浮かぶ。


「出た!出たぞ!」


それを鳥へ向かって投げつける。


しかし当たらない。


だが、鳥は火を嫌がるように進路を変えた。


「牽制にはなるか」


何度か火球を投げるうちに、少しずつ狙った場所へ飛ぶようになってきた。


蒼真は火球を投げ、鳥の動きを制限する。


そこへ水球。


外れる。


もう一発。


鳥が避ける。


蒼真は舌打ちしながら、あえて背を向けるふりをした。


鳥が突っ込んでくる。


羽音。


その瞬間、蒼真は体をひねり、ハンマーを横に振った。


鈍い手応え。


鳥型モンスターが壁に叩きつけられた。


【ウィンドバードを討伐しました】


「よし」


今のは悪くなかった。


相手の動きを読んだ。


誘った。


倒した。


レベルアップの時とは違う、自分の中の感覚が少しだけ変わる。


戦い方を覚えていく感覚。


蒼真は、その後も何匹かのウィンドバードを倒した。


火球も飛ぶようになった。


魔法だけでは当たらない。


ハンマーだけでも無理。


だから、火で追い、水で誘導し、最後は殴る。


不格好だが、だんだん楽しくなってきた。


ボスは、ひときわ大きな鳥型だった。


《真鑑定》


【ボス ゲイルホーク】


【ランク F】


【高速移動】


【風刃に注意】


「はいはい、注意ね」


蒼真は壁際に寄った。


広い場所で飛び回られると厄介だ。なら、相手の角度を減らす。


ゲイルホークが風を纏って突っ込んでくる。


蒼真は火球を撃つ。


外れる。


水球も撃つ。


これも外れる。


ただし、避けた方向は見えた。


壁際に追い込むように、もう一発火球。


ゲイルホークが進路を変えた瞬間、蒼真は身を低くした。


風刃が頭上をかすめる。


頬が切れた。


痛みが走る。


それでも、蒼真は前へ出た。


ハンマーを振る。


当たった。


浅い。


ゲイルホークが羽ばたき、風が爆ぜる。


蒼真は吹き飛ばされ、背中を壁に打ちつけた。


息が詰まる。


「っ、くそ」


立て。


立てる。


昨日の自分なら無理だった。


でも今は違う。


蒼真は立ち上がり、二冊の魔本を抱える。


水。


火。


二つの魔法を連続で撃つ。


ゲイルホークが避ける。


その先へ走る。


相手が降りてくる瞬間に、ハンマーを振り下ろした。


今度は、確かな手応えがあった。


【ボスを討伐しました】


【ダンジョンを踏破しました】


宝箱からは、緑の表紙の魔本が出た。


【魔本 初級風魔法】


蒼真はそれを見て、しばらく笑っていた。


疲れていた。


痛かった。


だが、それ以上に達成感があった。


「三つ目」


外に出ると、夕方の空が赤く染まっていた。


さすがに体が重い。


魔力もかなり減っている。


スマホを見る。


通知がさらに増えている。


会社。


友人。


家族。


特に妹の陽翠から、短いメッセージが来ていた。


「昨日帰り遅かったみたいだけど大丈夫?」


蒼真は少し迷い、返した。


「大丈夫。ちょっと面白いもの見つけた」


すぐに返事が来る。


「その言い方、絶対大丈夫じゃないやつ」


蒼真は笑った。


陽翠は昔から勘がいい。


だが、説明するにはまだ早い。


というより、自分でも説明できない。


蒼真はスマホをポケットにしまった。


帰るべきだ。


今日はもう十分すぎるほど潜った。


水、火、風。


三つも魔法の魔本を手に入れた。


体も痛い。


魔力も減っている。


腹も減った。


だから帰るべきだった。


「……土、探すだけ探すか」


探すだけ。


入るとは言っていない。


蒼真はそう自分に言い訳して、歩き出した。


スーマ「俺の文章力じゃ先生の伝える力に勝てない」

AI先生「ワレ知識ノ集合体ゾ。素人ガ勝テルカ」

スーマ「でも、このとき主人公がこうしてこうする」

AI先生「……イイジャン」

スーマ「話の主軸も展開も考えられるのに」

AI先生「文章力ハ文才ネ、伝エル力ハ表現力ネ」

スーマ「……ウッス」

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