第5話 魔環アルカナ
四つ目のダンジョンを見つけたのは、日が落ちてからだった。
場所は、商店街から少し外れた工事予定地。
仮囲いの隙間の奥に、土色の入口があった。
《真鑑定》
【ダンジョン名 土塊の穴蔵】
【ランク F】
【階層 一階層】
【テーマ 土】
【状態 未踏破】
蒼真は入口の前で立ち止まった。
「……見つけたら入るよな」
誰に確認するでもなく、そう言った。
土塊の穴蔵は、これまでの中で一番暗かった。
湿った土の匂い。
低い天井。
狭い通路。
壁は岩と土が混ざり、ところどころ崩れかけている。
魔物は、土を纏った小さな獣だった。
モグラに似ている。
地面に潜り、足元から飛び出してくる。
蒼真は何度も転びかけた。
水魔法は土に吸われる。
火魔法は通じるが、狭い通路では自分も怖い。
風魔法はまだ扱いが分からない。
結果、最初はかなり苦戦した。
「地味に一番きついな、ここ」
それでも、三つの魔法があるのは大きかった。
水で泥を作り、足場を悪くする。
火で牽制する。
風で砂埃を払う。
魔法はまだ弱い。
だが、使い方次第で戦いやすくなる。
ボスは、硬い岩を背負った大きなモグラだった。
《真鑑定》
【ボス ロックモール】
【ランク F】
【硬い外殻】
【腹部が弱点】
「腹か」
問題は、どうやってひっくり返すか。
蒼真は通路の段差を見た。
崩れかけた土壁。
転がっている石。
水魔法。
風魔法。
火魔法。
そして、ハンマー。
完璧な作戦ではない。
思いつきだった。
蒼真は水を撒いた。
地面が泥になる。
ロックモールが突っ込んでくる。
蒼真は横へ飛ぶ。
魔物の足元が滑る。
そこへ風魔法。
まだ威力はない。ただ、砂と風がロックモールの顔を叩く。
動きが一瞬鈍る。
蒼真はハンマーを両手で握り、横から殴った。
倒れない。
なら、もう一度。
肩に痛みが走る。
腕がしびれる。
それでも殴る。
ロックモールの体が傾いた。
蒼真は火球を腹側へ撃ち込む。
魔物が暴れる。
最後は、剥き出しになった腹へハンマーを叩き込んだ。
【ボスを討伐しました】
【ダンジョンを踏破しました】
蒼真はその場に仰向けに倒れた。
天井から土がぱらぱら落ちてくる。
「……疲れた」
さすがに、もう笑う元気も少なかった。
宝箱から出たのは、茶色の表紙の魔本。
【魔本 初級土魔法】
魔本を手に取る。
ついに四つ目だ。
【……四種の魔本所持を確認……魔法の適性を確認……特殊報酬が付与されます】
「え?……特殊報酬?」
部屋の中央が光り出す。複雑な模様の魔法陣が床一面に広がる。
魔法陣から光が溢れ、段々と強さを増し、視界を埋め尽くす。
蒼真は耐え切れず顔を伏せて目を瞑る。
光が収まると、中央に今にも壊れそうな木でできた小さな宝箱が現れた。
中に入っていたのは黒銀色の腕輪だった。
細身で、装飾は少ない。だが、どこか妙に目を引く。
《真鑑定》
【魔環アルカナ】
【腕に装備する魔法補助装具】
【詠唱速度微上昇】
【魔法威力微上昇】
【消費魔力微軽減】
【魔力制御微補助】
【魔法安定性微上昇】
【詳細不明の空き領域あり】
蒼真は腕輪を手に取った。軽い。冷たい。
だが、触れた瞬間、魔本とは違う感覚が手首から腕へ広がった。
「魔法補助装具……」
装備してみる。
腕にぴたりと馴染んだ。
大きさは合っていないはずなのに、まるで最初から自分の腕に合わせて作られたようだった。
蒼真は土魔法の魔本を持ち、試しに手を前へ出す。
「《アース》」
足元の土が、小さく盛り上がった。
弱い。
使い道はまだ分からない。
だが、発動はこれまでより簡単で滑らかだった。
アルカナの効果かもしれない。
「……今日だけで、水、火、風、土」
言葉にすると、改めて異常だった。
一日で四つの魔法に触れた。
一日で四つのダンジョンを踏破した。
そして、魔環アルカナという装具まで手に入れた。
蒼真は立ち上がり、ダンジョンを出た。
外は完全に夜だった。
工事予定地の外に出ると、街灯の光がやけに現実的に見えた。
足は重い。
体は痛い。
腹は空いている。
スマホの通知は、さらに増えていた。
それでも、蒼真は腕のアルカナを見て笑った。
「明日も休みなんだよな」
その言葉は、ほとんど確認だった。
土曜は終わりかけている。だが、日曜がある。そして月曜には会社がある。
その事実を思い出した瞬間、蒼真の顔から少しだけ笑みが消えた。
月曜。
出社。
資料。
打ち合わせ。
残業。
昨日まで当たり前だったものが、急に遠く感じた。
蒼真は夜の道を歩きながら、腕のアルカナを指でなぞった。
水。
火。
風。
土。
レベル。
スキル。
ダンジョン。
宝箱。
魔石。
魔本。
自分専用のプライベートダンジョン。
「……仕事、辞めるか」
呟いてから、少しだけ笑った。
普通はそんな簡単に決めない。
貯金も大してない。
今後どうなるかも分からない。
けれど、不思議と不安はなかった。
なんとかなるだろう。
いや、なんとかできる気がした。
根拠はあるようで、ない。
でも昨日からずっと、蒼真の中にはあの万能感が戻ってきていた。
会社員としての明日より、探索者としての明日の方が、どう考えても面白い。
家に帰ると、蒼真はまず風呂に入った。
泥と汗と血と焦げ臭さを洗い流す。
鏡に映る体には、細かい傷が増えていた。
だが、目だけは妙に冴えている。
風呂から上がり、リビングの床に今日の戦利品を並べた。
魔石。
魔本四冊。
いくつかの素材。
魔環アルカナ。
《真鑑定》で一つずつ確認していく。
分からないものも多い。価値も不明。だが、全部が未来に繋がっている気がした。
蒼真はステータスを開いた。
レベルは大きく上がっている。
戦闘中に得た感覚のせいか、新しいスキルが増えていた。
【観察】
【危機察知】
蒼真は目を細めた。
「スキルって、自力でも増えるのか」
ますます面白い。
魔本を使い込めば、魔法も正式に習得できる。
戦えば、身体能力も伸びる。
ダンジョンを踏破すれば、報酬も手に入る。
それを補助するユニークスキルもある。
蒼真はスマホを手に取った。
会社の上司へのメッセージ画面を開く。
今すぐ退職します、と送るほど馬鹿ではない。
一応、引き継ぎは必要だ。
ただ、気持ちは決まっていた。月曜に話す。早ければ数日で辞める。
「会社員、向いてなかったしな」
言い訳のように呟く。
だが、それは本音でもあった。
蒼真は床に並べた魔本を見た。
そして、腕の【魔環アルカナ】を見る。
土曜だけで、人生が完全に別の方向へ曲がった。
日曜には、もっと曲がるかもしれない。
そう思うと、眠気よりも期待が勝った。
それでも、体は限界だった。
ベッドに倒れ込む。
意識が沈む直前、蒼真は明日の予定を考えていた。
ダンジョンを探す。魔法を試す。スキルを覚える。プライベートダンジョンも設定する。やることが多すぎる。
「忙しいな、探索者」
楽しそうに呟いて、蒼真は眠りに落ちた。
スーマ「もう45話までできてますからね」
AI先生「誤字脱字エグソウ」
スーマ「俺だって上手くなってますから!」
AI先生「ダマレ。マトモナ日本語覚エテ出直セ」
スーマ「辛辣すぎない?」




