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第39話 質問攻め

「ところで天城さん」


素材の買取手続きが終わり、帰ろうとした蒼真を三崎が呼び止めた。


「まだお時間、大丈夫ですか?」


「はい?」


「少しだけ、お会いしていただきたい方がいるんです」


蒼真は首を傾げる。


「俺にですか?」


「はい」


何だろう。少し考えた後、蒼真は首を横に振った。


「今日はちょっと」


「そうおっしゃると思っていました」


三崎は苦笑する。


「実は、もうずいぶん前から『一度でいいから会わせてほしい』と頼まれていまして」


「俺に?」


「ええ」


ますます意味が分からない。


「素材を持ち込まれる度に言われるんです」


「……」


「『この量を一人で?』『どうやって?』『本人に聞きたい』と」


蒼真は少しだけ嫌な予感がした。


「研究員なんですが」


その一言で、嫌な予感が確信へ変わる。


「そういう人、苦手なんですよね」


「分かっています」


三崎は苦笑したまま頷いた。


「ですが、今日も『絶対に会わせて』と言われてしまいまして」


「いやぁ……」


「五分だけでも」


「……」


「お願いします」


そこまで言われると断りづらい。蒼真は小さくため息を吐いた。


「……五分だけですよ」


「ありがとうございます」


三崎は嬉しそうに立ち上がった。


「こちらです」


受付の奥。職員しか入れない通路を進む。


「その研究員は、久遠といいます。魔物素材やアイテム、魔石など、ダンジョンについて幅広く研究されている方です。国の機関から第一支部に派遣されまして。天城さんが持ち込まれる素材の量が、他の探索者と比べて異常ということで、話題になったんです。天城さんの存在を知ってから『会わせて欲しい』と何度も言われまして。天城さんは騒ぎになるのを嫌がる方なので、私の方で『本人の許可がない』と断っていたんですが、あまりの熱意に負けてしまいました。」


一つの部屋の前で止まる。


「お手数をおかけしてしまい、申し訳ありません」


「まあ、会うだけ会いますよ」


「ありがとうございます」


コンコン。


「久遠さん。お連れしました」


「入ってー」


軽い返事が返ってきた。


部屋へ入る。棚には魔石や素材、魔道具がぎっしり並んでいる。


机の上にも見慣れない器具がいくつも置かれていた。その中央で、一人の女性が勢いよく立ち上がる。


「君が、天城くんか!」


蒼真を見るなり、目を輝かせた。


「は、はい」


「初めまして!久遠環!第一支部へ派遣されてる研究員!」


勢いがすごい。


嫌な予感しかしない。


「聞きたいことが山ほどあるんだ!」


やっぱり。


環は机を回り込むと、蒼真の目の前まで歩いてきた。


「まず素材!」


「はい?」


「あの量をどうやって集めてるの!?」


「普通に」


「普通って何!?」


「普通です」


「普通じゃない!」


間髪入れず次が飛んでくる。


「アイテムボックスどうなってるの!?」


「えっと……」


「容量どれくらい!?魔石だけ別管理!?時間停止!?収納条件は!?」


「いや、えっと……」


「一日に何体ぐらい倒してるの!?」


「ちょっとわか」


「ダンジョンは一日に何ヶ所行くの!?」


「日によってちが」


「報酬!報酬は!?一度目と二度目で違う?量や種類は!?魔道具も何個か納品してるよね!?持ってる魔道具はどんなものがあるの!?」


「ちょっと待ってく」


「武器や防具もあるよね!?見せて欲しいな!大丈夫、見るだけだよ!」


「だから、待ってく」


「持ってるスキルは!?」


「そこまでです」


三崎が苦笑しながら口を挟んだ。


「久遠さん」


「あっ」


「本来、探索者のスキルを聞くのはマナー違反です」


「そうだった」


全く反省している様子はない。だが三崎は、そのまま蒼真へ視線を向けた。


「……とはいえ」


「?」


「正直、天城さんのスキル構成は気になります」


「三崎さんまで……」


「もちろん無理にとは言いません。ですが……天城さんが持ってくる量は明らかに他の方より多いです。ダンジョンを見つけ次第入ってしまうということは承知していますが、それにしても異常です」


蒼真は少し考える。全部話す気はない。ユニークスキルなんてもってのほか。アイテムボックスの詳細も真鑑定も明かす気はない。


「じゃあ」


二人を見る。


「少しだけ」


「おぉ!」


環の目が輝く。


「国のスキルリストに載っていない武術系の補助スキルを二つ」


「うんうん!……ん!?」


「魔術系の補助スキルを二つです」


「ちょっと待って欲しい。その言い方だと、とりあえず四つに聞こえる。公になっていないスキルをまだまだ習得しているってことかい!?」


「秘密です」


「わかった。じゃあ、まずその四つは聞こう。他のスキルに関しては名前だけでも教えてもらえないだろうか」


「四つだけです」


環は口を尖らせた。


「もっと!」


「ダメです」


即答だった。


「今回はこれで勘弁してください」


環はしばらく唸っていたが、やがて肩を落とした。


「……仕方ない」


そう言いながらも、どこか嬉しそうにメモを書き始める。


「でも今日は会えたから満足」


蒼真は心の中で思った。


(また来たら捕まりそうだな……。)


「また何かありましたら、ご協力をお願いするかもしれません」


「分かりました」


「もう行ってしまうのかい?もう少しいいじゃないか」


「いえ、今日はこの辺で」


「では、今度珍しいものをドロップしたら是非持ってきて欲しい。天城くんのことは話しておくから、ここへ入れるようにしておこう」


「結構です」


「私の研究を手伝ってほ」


「結構です。五分って話でしたよね?失礼しますね」


「あぁ、もっと話を聞かせて欲しい」


蒼真は軽く頭を下げ、研究室を後にした。廊下を歩き、受付を抜ける。外へ出ると、夕暮れの街が赤く染まっていた。


帰り道。人混みの中を歩いていると、黒い服の男が目に入る。ふと、黒いマントの男が浮かんだ。思い出すだけで、肩の傷が疼く気がした。


あんな探索者とは、もう二度と会いたくない。できることなら、どこかで警備課が捕まえてくれればいい。それが無理なら、誰かもっと強い探索者が倒してくれればいい。蒼真は心の底からそう思った。


あれは、自分が一人でどうこうできる相手ではなかった。だからこそ。今の自分にできることは一つしかない。地道に強くなること。


今日も低級ダンジョンへ潜り、スキルを集める。武練の間で訓練する。魔法を磨く。そうやって、昨日の自分より少しだけ強くなる。


それだけだった。

読んで頂きありがとうございます。

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