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第31話 セット装備

蒼真の装備は、一見するとそこまで派手ではなかった。腰に下げているのは、ダンジョン産のDランク剣。盾も短剣も、戦槌も、必要な道具のほとんどは、アイテムボックスの中にしまっている。


体を守っているのは、茶色の皮鎧だった。


胸部、篭手、脛当て、腰当て。


四点で一組の、Eランク防具。見た目だけなら、少し質のいい革製装備に見える。だが、その価値を知る者が見れば、目の色を変えるだろう。


攻撃力小上昇。速度微上昇。防御力微上昇。耐性微上昇。


四点揃って初めて効果を発揮するセット装備。現時点の探索者環境では、間違いなく最高峰と言っていい防具だった。今売りに出せば、三億や四億では済まない。


それでも蒼真は、売る気などまったくなかった。金には困っていない。それに何より、この装備は便利だった。


何十、何百とダンジョンを踏破し、幸運招来の補正まで乗ったからこそ揃った装備。単独で同じシリーズを四点揃えるだけでも不可能に近い。蒼真本人は、その異常さを半分くらいしか自覚していなかった。


「動きやすいし、硬いし、これでいいだろ」


その程度だった。


深緑の獣道に入った瞬間、蒼真は少しだけ眉を寄せた。森だった。ただの森ではない。湿った土。背の高い木々。視界を遮る葉。足元に絡む根。どこから聞こえているのか分からない獣の気配。Eランクの植物系ダンジョンとは、空気が違った。


一階層目から、すでに面倒くさい。


「これは……進みにくいな」


蒼真は剣の柄に手を添えたまま、ゆっくり歩き出した。真鑑定で大まかな危険は拾える。危機察知も反応している。魔力感知にも、ところどころ妙な揺らぎがある。だが、森そのものが情報を邪魔していた。


葉が視界を塞ぐ。枝が服に引っかかる。足元の根が歩法を乱す。遠くの気配が、木々に紛れて分かりにくい。


しばらく進んだところで、草むらが揺れた。蒼真は即座に剣を抜く。飛び出してきたのは、小型の獣だった。狼というより、痩せた山犬に近い。


《真鑑定》


【グリーンハウンド】


【ランク D】


【森の中での奇襲に優れる】


「やっぱりDか」


ダンジョン内にはそのランクより下のランクの魔物も出る。しかし最初に出会う魔物は毎回ダンジョンと同じランクだった。探索者をふるいにかけているのだろうか。


突如、グリーンハウンドが低く跳んだ。速い。蒼真は剣で受けようとして、直前で盾を出す。

アイテムボックスから盾を取り出し、左腕に構える。


衝撃。


盾で受け止める。微防御力上昇が働いているのか、腕への負担は思ったより軽い。


だが、相手はすぐに横へ跳んだ。木の陰に消える。


「うわ、嫌な動きするな」


正面から来ない。距離を取る。草木に隠れる。こちらの死角から狙う。蒼真は風魔法で周囲の葉を揺らし、気配を探る。


右。振り向く。遅い。グリーンハウンドの牙が篭手に当たる。Eランク皮鎧がなければ、腕に食い込まれていた。


「装備さまさまだな」


剣を振る。浅い。相手が引く。火魔法を撃とうとして、蒼真は一瞬ためらった。


森だ。火は通るだろう。だが、燃え広がれば自分の視界も足場も悪くなる。水魔法で牽制する。外れる。土魔法で足元を盛り上げる。根と土が邪魔で、狙った形にならない。風で動きを乱そうにも、木々が多すぎて通りが悪い。


「手が足りないな、これ」


思わず声が漏れた。剣を持つ。盾を構える。魔法を使う。周囲を警戒する。足元を見る。毒草らしき植物を避ける。隠れた敵を探す。全部を一人でやらなければならない。できなくはない。戦える。勝てない相手ではない。だが、進まない。一匹倒すのに時間がかかる。倒したと思ったら、奥からまた別の気配がする。魔石を拾う。周囲を警戒する。また進む。その繰り返し。


蒼真はグリーンハウンドの二匹目を倒したところで、深く息を吐いた。


「……これ、パーティ推奨ってそういうことか」


火力が足りないわけではない。防御もできる。回復も盾の微回復で多少は補える。だが回復役の代わりになるほどではない。役割が足りない。前を見ながら後ろも見る。敵を抑えながら罠も見る。地形を確認しながら魔法も撃つ。その全部を一人でやると、どうしても遅い。


もどかしい。


行けるのに、進めない。勝てるのに、時間がかかる。


「後ろを任せられる相手がいればな」


言ってから、蒼真は少しだけ思い出した。入口で会った白瀬結依。回復魔法。結界魔法。回復と防御。もし彼女がいれば、この森はかなり違う。そう思った直後、蒼真は首を振った。


「いや、いきなり頼るのも違うか」


今は一人で入っている。なら、一人でやれるところまでやる。危なければ戻る。その判断だけは間違えないようにする。


蒼真は盾を構え直した。森の奥から、また獣の気配がする。


深緑の獣道。Dランク三階層。


初めての森林ダンジョンは、思った以上に手間がかかった。だが、それでも蒼真の足は止まらなかった。


未踏破。


その言葉が、まだ奥へ進めと言っている気がした。

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