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第28話 三ヶ月

三ヶ月が経った。たった三ヶ月。けれど、その三ヶ月で世界は大きく変わった。


最初は、黒い入口と呼ばれていた。次に、空間異常と呼ばれた。そして今では、誰もがそれをダンジョンと呼んでいる。


ダンジョンから得られる魔石が新たなエネルギー源として利用できると判明してから、国の動きは早かった。


ダンジョン課が設立され、各地の入口には管理施設が建てられた。


危険度の低いダンジョンは調査と管理のもとで開放され、探索者免許の発行も始まった。


魔石や素材、武器、防具、魔道具の買取制度が整えられ、政府公認の買取所には毎日のように探索者が列を作るようになった。


街には武器屋ができた。防具を扱う店も増えた。ダンジョン産の希少品を扱うオークションまで始まり、金を持つ企業や資産家が、まだ誰も価値を測りきれていない品々に大金を注ぎ込んだ。


ダンジョン探索で生計を立てる者も現れ始めた。


会社を辞める者。副業として潜る者。一攫千金を狙う者。動画配信を始める者。恐怖よりも利益を見た者たちが、次々とダンジョンへ足を踏み入れていく。


そして、多くの者がステータスを得た。ステータスを得れば、体は変わる。魔物を倒せばレベルが上がる。運が良ければスキルも手に入る。

中には、ステータスを得た瞬間にユニークスキルを獲得した者がいる、という噂まで流れ始めていた。


本当かどうかは分からない。ただ、世界はもうダンジョンを無視できなくなっていた。


いや。


世界は、ダンジョンを中心に回り始めていた。


そんな中、天城蒼真は何をしていたか。答えは簡単だった。ダンジョンに潜っていた。真鑑定で未踏破のダンジョンを見つければ潜る。踏破済みのダンジョンが再稼働していれば潜る。有用そうなテーマなら潜る。微妙そうなテーマでも、未踏破なら結局潜る。


最初は未知への興味だった。次に、成長する自分が楽しかった。スキルが増える。レベルが上がる。できることが増える。見たことのない場所へ行ける。それが面白くて、気づけば生活の中心が完全にダンジョンになっていた。


三ヶ月。


蒼真はその間、探索と訓練を繰り返した。


プライベートダンジョンで魔法を練習し、武器を振り、魔力操作を磨く。外ではダンジョンを探し、踏破し、魔石や素材を回収する。得たものを売り、必要なものを買い、また潜る。


その繰り返し。


世間では、ようやく探索者という職業が形になり始めた頃。蒼真はすでに、探索者として生活していた。


レベルは四十七。称号数は十六。


アイテムボックスは小から中へ上がり、持ち運べる物の量が増えた。収納できるサイズも大きくなっていた。


武術スキルは八つに増えた。武術補助スキルは六つ。ほかにも、耐性スキルは着実に増えている。魔法スキルは七つ。新たに氷魔法と雷魔法を習得した。寒くて眠くなるダンジョンとバチバチ痛くて目が覚めるダンジョンだった。


「もう耐性取るまでは行きたくない」


魔法補助スキルも六つまで増えた。魔力操作を基礎に、魔力感知、魔力循環、魔法維持など、魔法を扱うための土台が少しずつ整っている。


通常スキルは数えるのも大変なほど増えた。有用な物だと【鑑定阻害】だ。【真鑑定】があるってことは、似たスキルもあるだろう。スキル玉は発見されてきているが、蒼真のスキル数は異常だ。バレなければ騒ぎになることもない。


人類初の称号を狙って、思いつく限り色々試した。ダンジョンでブリッジをした。こっそり全裸にもなった。何も無かった。


一日で何ヶ所の迷宮を踏破できるか。十ヶ所を超えたときに称号とユニークスキルが手に入った。


称号【人類初迷宮十踏破者】


ユニークスキル【替玉休止】


踏破後のクールタイムを別のダンジョンに肩代わりさせる有能スキルだ。


この三ヶ月で得た称号やユニークスキルは、まだ他にもある。中には、強すぎてFランクやEランクでは使う機会すらない、必殺技のようなスキルもある。


一番嬉しかったのは、特殊ダンジョンに出会いやすくなる【番外巡縁】のユニークスキルだ。

本当は、見つけるとか感知するってスキルが欲しかった。だが出会いやすくなるだけでもありがたい。特殊ダンジョンの報酬は、とても探索に役立っている。発見次第、優先して踏破したい。


最初はスライム相手に石を握っていた男が、三ヶ月後には、単独で複数のダンジョンを余裕で回り続ける探索者になっていた。もちろん、本人にその自覚は薄い。


「さて、今日はどこ行くか」


蒼真は部屋の床に座り、地図を広げていた。赤い印は、すでに踏破したダンジョン。青い印は、再稼働待ち。黒い印は、真鑑定で入口の気配だけ確認した場所。その数は、ぱっと見ただけでも多い。


普通の探索者なら、一つ一つ慎重に準備して挑む。パーティを組み、装備を整え、情報を集め、申請を出す。だが、蒼真は違った。


未踏破。


その文字を見るだけで、胸が少し弾む。何があるのか。何が出るのか。何を得られるのか。それを知りたくなる。蒼真は地図の端にある印を指で叩いた。


「ここ、まだ見てないな」


真鑑定では、Eランク。テーマは機械。階層は三階層。


今の蒼真なら、行ける。そう判断した。危険はある。当然だ。だが、危険だからこそ得られるものもある。準備はできている。


「よし」


蒼真は軽く笑った。アイテムボックスから剣を取り出し装備する。世界はダンジョンを中心に動き始めた。国も、企業も、探索者たちも、その変化に追いつこうとしている。だが、天城蒼真はその少し先で、今日もまた黒い入口を探していた。


見つけたら入る。


その癖は、もう完全に染みついていた。

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