第20話 武器訓練ダンジョン2
槍の試練場は、今までより縦に長かった。
台座には長い槍。
手に取ると、想像以上に扱いにくい。
長い。
長すぎる。
剣や短剣と違い、手元から先端まで距離がある。
少し動かすだけで、先端が大きく揺れる。
「これ、狭いところだと無理だな」
だが、広い場所では強そうだった。
敵に近づかせない。
自分の間合いだけで戦える。
目の前に現れた木人形は、短い棒を持っていた。
【槍試練を開始します】
木人形が走ってくる。
蒼真は槍を突き出した。
外れた。
先端が横に流れる。
人形が懐に入ってくる。
「近い近い」
慌てて下がるが、槍が邪魔で動きにくい。
木人形の棒が肩に当たる。
痛い。
槍は、近づかれたら一気に苦しくなる。
だから、近づけない。
蒼真は距離を取った。
今度は突き出すのではなく、構える。
相手の進行方向に、先端を置く。
木人形が踏み込んでくる。
そこへ、短く突く。
当たる。
深くはない。
だが、止まる。
「なるほど、置くのか」
槍は振り回すものではない。
少なくとも今の蒼真には、振り回せない。
先端を置く。
距離を支配する。
相手を入れない。
踏み込んできた瞬間に刺す。
少しずつ、槍の感覚が分かってくる。
剣より遠い。
短剣より安全。
盾より攻撃的。
ただし、懐に入られると弱い。
木人形の動きに合わせ、蒼真は足を動かす。
歩法が効いている。
下がりすぎない。
詰められすぎない。
距離を保つ。
最後は、踏み込んできた木人形の胸へ、槍の穂先をまっすぐ突き入れた。
【槍試練を達成しました】
【初級槍術を習得しました】
蒼真は槍を台座へ戻しながら、肩を回した。
「槍、強いけど疲れるな」
武器ごとに全然違う。
当たり前のことだが、体験すると重みが違った。
中央に戻る。
四つの紋様が光っている。
最後は弓。
弓の扉を開けると、試練場は横に広かった。
奥には的がいくつも並んでいる。
台座には弓と矢筒。
蒼真は弓を手に取った。
「弓か……」
これは特に経験がない。
ゲームではクリックすれば当たる。
現実ではそうはいかない。
弦を引くだけで腕がきつい。
狙う。
止める。
放す。
最初の一射は、的のかなり横へ飛んだ。
「うわ、下手」
自分で笑ってしまった。
二射目。
今度は手前に落ちる。
三射目。
かろうじて的の端に当たった。
【弓試練を開始します】
的が動き始めた。
「動くのかよ」
蒼真は文句を言いながら、矢をつがえる。
弓は、他の武器とまったく違った。
近づかない。
触れない。
離れた場所から当てる。
魔法に近いようで、違う。
魔法は自分の魔力を形にして飛ばす。
弓は、矢という物を飛ばす。
体の向き。
腕の力。
呼吸。
視線。
全部がずれると、矢もずれる。
蒼真は何度も外した。
さすがに少し苛立つ。
火球なら当てられる距離でも、矢は外れる。
風魔法で補助したくなったが、たぶんそれは違う。
弓の試練なのだから、弓で当てる。
蒼真は息を整えた。
的を見る。
動きを追う。
今いる場所ではなく、動いた先を見る。
少し先。
そこへ矢を置く。
放つ。
矢が飛ぶ。
的に当たった。
「よし」
それから、少しずつ当たるようになった。
動く的。
遠い的。
小さい的。
全部完璧とはいかない。
だが、弓を扱う最低限の感覚が体に入ってくる。
最後の的は、左右に揺れながら奥へ下がっていった。
蒼真は弦を引き、呼吸を止める。
狙う。
放つ。
矢が的の中央近くに刺さった。
【弓試練を達成しました】
【初級弓術を習得しました】
蒼真はその場に座り込みそうになった。
戦闘とは違う疲れ方だった。
集中しすぎて、目の奥が重い。
「弓、めちゃくちゃ神経使うな」
中央の訓練場に戻ると、五つの紋様すべてが光っていた。
剣。
盾。
短剣。
槍。
弓。
その光が中央へ集まり、床に大きな魔法陣のようなものが浮かぶ。
蒼真は身構えた。
「まだ何かあるのか」
魔法陣の中央に、一本の棒が現れた。
見た目は、何の変哲もない木の棒だった。
長さは一メートルほど。
特別な装飾もない。
強そうにも見えない。
《真鑑定》
【練習用初級万能武器】
【武具試練の間 踏破報酬】
【使用者の意思に応じて習得済みの訓練武器へ変化する】
【重量も各武器に応じて変化する】
【訓練用のため攻撃力は極めて低い】
【実戦使用時、全ての機能は失われ木製の棒となる】
蒼真は数秒、表示を見つめた。
それから棒を手に取る。
「地味」
正直な感想だった。
だが、意思を向けると、棒が形を変えた。
片手剣。
次に盾。
短剣。
槍。
弓。
それぞれ、先ほど使った訓練武器とよく似た形になる。
攻撃力はない。
実戦向きではない。
だが、訓練には使える。
プライベートダンジョンの魔力無限部屋で、魔法だけでなく武器訓練もできる。
そう考えると、かなり便利だった。
「いや、これ当たりだわ」
派手な武器ではない。
強敵を倒す必殺装備でもない。
だが、今の蒼真に必要なのは、こういうものだった。
基礎を作る道具。
訓練武器をひとつにまとめた道具。
五つの試練を終えたことで、ステータスには新しいスキルが並んでいた。
【初級 剣術】
【初級 盾術】
【初級 槍術】
【初級 弓術】
すでに持っていた【初級 短剣術】も、感覚が前より明らかに馴染んでいる。
初級槌術とは別に、武器の幅が一気に広がった。
蒼真は万能武器を肩に担ぐ。
「武器、面白いな」
魔法とは違う。
スキル玉とも違う。
使うほど、体に入ってくる。
武器の形に合わせて、体の動かし方が変わる。
それが面白い。
ダンジョンを出ると、可愛い女性向けの店の裏手に戻ってきた。
パステルカラーの看板。
花柄のポスター。
その裏で、蒼真は剣や盾や槍や弓の試練を受けていた。
改めて見ると、やはり意味が分からない。
「場所のクセが強いんだよ」
蒼真は小さく笑った。
そして、万能武器を見下ろす。
今はただの棒に戻っている。
外から見れば、少し怪しい棒を持った男だ。
かなり怪しい。
蒼真は慌ててそれをリュックに入れようとして、入らないことに気づいた。
「……あ、こういう時にアイテムボックス欲しいな」
荷物が増えてきている。
魔石。
素材。
スキル玉。
武器。
魔本は習得すれば消えるからまだいいが、それでも持ち運びはそろそろ限界だった。
今まではリュックでなんとかしていた。
だが、これからダンジョンを本格的に回るなら、収納手段が必要になる。
「収納系のダンジョンとか、ないかね」
口に出してから、蒼真は少しだけ笑った。
欲しいと思ったものが、すぐ見つかるとは限らない。
武具試練の間だって、四日探してようやくだった。
しかも、女性向けの可愛い店の裏。
ダンジョンの出現場所は、本当に読めない。
蒼真はリュックから万能武器を少しはみ出させたまま、帰路についた。
通行人に見られないよう気をつけながら歩く。
かなり不便だった。
「次は収納だな」
そう呟いた声は、もう次の目的を見つけた時のものだった。
家に帰ると、まず洗浄で服の汚れを落とした。
生活魔法が便利すぎる。
それから、万能武器を持ってプライベートダンジョンへ入る。
魔力無限の訓練場。
魔法の練習ばかりしていた部屋に、今度は武器の音が響いた。
剣に変える。
振る。
盾に変える。
構える。
槍に変える。
突く。
弓に変える。
引く。
短剣に変える。
踏み込む。
全部、まだ初級だ。
動きもぎこちない。
だが、明らかに昨日までとは違う。
蒼真は息を切らしながら、床に座った。
「やること多すぎるな」
魔法。
武器。
身体強化。
補助スキル。
ダンジョン探索。
退職後の生活。
国とのやり取り。
荷物の問題。
考えることは増える一方だった。
だが、不思議と嫌ではない。
やることが多い。
それは、進める道が多いということだ。
蒼真は万能武器をただの棒に戻し、隣に置いた。
「明日は収納探すか」
また新しい目的ができた。
そうなると、もう止まらない。
見つけたら入る。
欲しいものがあるなら探す。
そして、探している途中で別のダンジョンを見つけたら。
「まあ、入るよな」
蒼真は自分で言って、自分で笑った。
この辺はまだまだ、AI先生に助けて貰っている部分が多いです。
ヒロイン登場はもっと後です。
話が進むにつれ、プロットを文章にしてもらうのではなく、執筆した物の誤字脱字や整合性の確認をしてもらうぐらいに減ってきています。
読み辛さが上がってしまうかもしれませんが、暖かい目で読んで頂けたら嬉しいです。
次回は、誰もが欲しいあのスキルの話です。
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