第19話 武器訓練ダンジョン1
短剣の扉を開けると、空気が変わった。
広い訓練場の中に、さらに小さな闘技場のような空間が広がっている。
床は硬い石。
壁には傷跡。
中央には、短剣が一本だけ置かれた台座があった。
蒼真は自分の腰に差した護身用ナイフを見てから、台座の短剣を見る。
《真鑑定》
【訓練用短剣】
【武具試練用】
【攻撃力は低い】
【試練中のみ使用可能】
「自前じゃなくて、これを使えってことか」
蒼真は護身用ナイフをしまい、訓練用短剣を手に取った。
軽い。
市販のナイフより、手に馴染む。
刃は潰れているように見えるが、不思議と武器としての存在感があった。
台座の向こう側に、木製の人形が現れる。
人形の手にも、同じような短剣。
次の瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。
【短剣試練を開始します】
「はいはい」
蒼真は短剣を構えた。
牙鼠の巣穴で覚えた初級短剣術が、体の中でうっすらと反応する。
短い武器。
近い間合い。
大きく振るより、速く差し込む。
相手の懐に入る。
分かる。
分かるが、怖い。
短剣は距離が近い。
魔法のように離れて撃てない。
戦槌のように重さで押し潰す感覚もない。
一歩間違えれば、相手の攻撃もすぐ届く。
木人形が踏み込んだ。
速い。
蒼真は咄嗟に横へ避け、短剣を振る。
空振り。
人形の短剣が腕をかすめる。
痛みは軽い。
だが、衝撃はある。
「いきなり当ててくるなよ」
文句を言いながら、蒼真は距離を取る。
魔法を使えば楽かもしれない。
だが、たぶんこの試練はそういうものではない。
短剣で戦え。
そういう部屋だ。
蒼真は短剣を握り直した。
木人形がまた来る。
今度は、下がらない。
相手の腕の動きを見る。
肩。
肘。
手首。
反応強化のおかげか、動き出しが少しだけ見える。
刃が来る。
蒼真は受けずに、半歩ずれる。
相手の腕の外側へ。
そこへ短剣を差し込む。
鈍い手応え。
木人形の胴に刃が入った。
浅い。
だが、当たった。
「なるほど」
短剣は、真正面から打ち合う武器ではない。
相手の攻撃を外し、その隙に入れる。
近い。
怖い。
だが、決まると速い。
蒼真は何度も木人形と打ち合った。
打ち合いというより、避け合いに近かった。
受ければ押される。
距離を間違えれば刺される。
だが、足運びと反応が噛み合うと、一瞬で懐に入れる。
牙鼠相手に必死で振っていた時とは違う。
今は、武器の使い方が体に刻まれていく感覚があった。
何度目かの差し込みで、木人形の胸に短剣が深く入った。
人形が動きを止める。
【短剣試練を達成しました】
蒼真は息を吐いた。
腕に細かい痛みがある。
だが、傷はない。
訓練場だからか、致命傷にならないようになっているらしい。
「便利だけど、普通に怖いな」
短剣の扉を出ると、中央の訓練場に戻っていた。
五つの扉のうち、短剣の紋様だけが淡く光っている。
「一個クリアってことか」
蒼真は次に、剣の扉を見た。
短剣の次なら、剣。
分かりやすい。
扉を開ける。
剣の試練場は、短剣より広かった。
台座には、片手剣が一本。
《真鑑定》
【訓練用片手剣】
【武具試練用】
蒼真はそれを手に取る。
短剣より長い。
錆鉄の戦槌より振りやすい。
だが、剣などまともに使ったことはない。
ゲームでは散々見た。
漫画でも見た。
でも、現実に持つと分かる。
どこをどう振ればいいのか、意外と分からない。
「剣って、なんか主人公っぽいけど」
蒼真は軽く振ってみた。
それっぽい音はする。
それっぽいだけだった。
目の前に、剣を持った木人形が現れる。
【剣試練を開始します】
木人形が正面から斬りかかってきた。
蒼真は慌てて剣を合わせる。
金属音ではなく、鈍い訓練用の音が響いた。
重い。
短剣と違う。
剣は、受けることもできる。
払うこともできる。
距離もある。
ただし、その分、振りが大きい。
蒼真は押されながらも、何度か剣を合わせる。
短剣の感覚で踏み込むと近すぎる。
戦槌の感覚で振ると雑すぎる。
魔法の感覚で距離を取りすぎると届かない。
剣には剣の距離がある。
「間合い、むずいな」
そう呟いた瞬間、蒼真は気づいた。
間合い。
これは、今まで何となくでやっていた。
相手の攻撃が届く距離。
自分の攻撃が届く距離。
踏み込める距離。
下がれる距離。
それをちゃんと見ないと、剣は扱いにくい。
木人形の剣が振り下ろされる。
蒼真は一歩下がる。
刃が目の前を通る。
届かない。
そこで踏み込む。
自分の剣を横に振る。
当たる。
木人形の胴に一撃。
「そういうことか」
蒼真は笑った。
少しずつ分かってきた。
剣は、短剣より素直だ。
攻撃、防御、牽制。
全部できる。
だからこそ、雑にやると全部中途半端になる。
木人形との攻防を繰り返す。
受ける。
払う。
下がる。
踏み込む。
斬る。
最後は、相手の振り下ろしを横へずらし、空いた胴へ剣を叩き込んだ。
【剣試練を達成しました】
同時に、頭の中に別の文字が浮かぶ。
【初級剣術を習得しました】
「よし」
蒼真は思わず拳を握った。
魔法を覚えた時とは違う嬉しさだった。
自分の体が、武器の使い方を覚えていく。
その感覚が面白い。
中央に戻ると、剣の紋様も光っていた。
残りは盾、槍、弓。
蒼真は少し迷ってから、盾の扉へ向かった。
盾の試練場には、台座の上に丸盾が置かれていた。
武器ではない。
守る道具。
今までの蒼真は、基本的に避けるか、土壁を作るか、先に倒すかだった。
盾を持って受けるという発想は、あまりなかった。
「盾か」
丸盾を左腕に装着する。
思ったより重い。
だが、構えると安心感がある。
目の前に現れた木人形は、剣を持っていた。
【盾試練を開始します】
木人形が斬りかかってくる。
蒼真は盾を上げた。
衝撃。
腕が押される。
「っ、重」
受ける場所が悪い。
真正面で受けると、全部の衝撃が腕に来る。
二撃目。
今度は少し角度をつける。
剣が盾の表面を滑り、横へ流れる。
衝撃が減った。
「おお」
盾は、ただ耐えるだけではない。
流す。
逸らす。
隠す。
距離を作る。
木人形の攻撃を何度も受ける。
腕がしびれる。
肩が重い。
それでも、だんだん受け方が分かってくる。
盾を前に出しすぎると視界が消える。
引きすぎると間に合わない。
体の正面に置くのではなく、相手の攻撃線に置く。
そうすると、少ない動きで守れる。
蒼真は盾で剣を弾き、そのまま体を寄せた。
木人形の姿勢が崩れる。
そこへ盾を押し込む。
人形が後ろへ下がる。
「盾、攻めにも使えるのか」
ただ守るだけではない。
押す。
崩す。
間合いを潰す。
最後は、木人形の斬撃を盾で逸らし、そのまま体当たりのように押し倒した。
【盾試練を達成しました】
【初級盾術を習得しました】
蒼真は丸盾を外しながら、息を吐いた。
「地味だけど、これ大事だな」
防御手段が増える。
土壁が間に合わない時。
魔法を使う余裕がない時。
仲間ができた時にも使えるかもしれない。
今はまだ一人だが、ずっと一人とは限らない。
中央に戻る。
三つ目の紋様が光る。
残りは槍と弓。
蒼真は槍の扉へ入った。




