第12話 ……きっつ
扉を押す。
中は円形の広間だった。
床は錆びた鉄板。
壁には歯車や配管が埋め込まれている。
中央に、巨大な金属の人形が座っていた。
蒼真が入った瞬間、その人形の目に赤い光が灯る。
《真鑑定》
【ボス ラストガーディアン】
【ランク F】
【高耐久】
【腕部打撃と体当たりに注意】
【胸部中心核が弱点】
「高耐久ね」
嫌な言葉だった。
ラストガーディアンが立ち上がる。
蒼真より二回りは大きい。
腕は太く、拳は鉄塊のようだった。
まともに受ければ、たぶん折れる。
蒼真は横へ動いた。
ラストガーディアンの拳が床を叩く。
金属音が広間に響き、床が震えた。
「当たったら終わりだな」
蒼真は火球を撃つ。
胸部へ当たる。
浅い。
水球。
効かない。
土魔法で足元を盛り上げる。
ラストガーディアンの足が少し止まる。
だが、力任せに踏み砕いてくる。
「力強すぎだろ」
蒼真は距離を取りながら、相手の動きを見る。
大振り。
遅い。
だが、一撃が重い。
隙はある。
問題は、蒼真の攻撃が通るかどうか。
胸部中心核。
弱点は分かっている。
そこをどう壊すか。
蒼真は火球を連続で撃った。
胸部の同じ場所に当てる。
赤く熱がこもる。
ラストガーディアンが腕を振る。
蒼真は身を低くして避け、横へ回る。
水球。
熱した胸部にぶつける。
蒸気が上がる。
金属が軋むような音がした。
「効いてる」
だが、決定打にはならない。
ラストガーディアンが突進してくる。
蒼真は風魔法で体を押し出すように横へ跳んだ。
完全には避けきれない。
肩に金属の腕がかすった。
衝撃で体が回り、床を転がる。
痛みで息が詰まった。
「っ、ぐ」
立て。
まだ立てる。
蒼真は戦槌を杖代わりに立ち上がった。
ラストガーディアンが迫る。
蒼真は土壁を出した。
一枚。
砕かれる。
もう一枚。
砕かれる。
時間稼ぎにしかならない。
それでいい。
蒼真は壁の陰で火球を作る。
今までより大きく。
魔力を込める。
アルカナが腕でわずかに熱を持った。
火球が揺れる。
制御が乱れそうになる。
蒼真は歯を食いしばった。
「安定しろ」
アルカナの補助を意識する。
火球の形が整う。
土壁が砕けた瞬間、蒼真は火球を撃った。
胸部中心。
命中。
ラストガーディアンの胸が赤く焼ける。
蒼真はすぐに水球を撃つ。
一発。
二発。
三発。
蒸気が視界を覆う。
金属がひび割れる音がした。
蒼真は走った。
戦槌を両手で握る。
ラストガーディアンが腕を振り上げる。
振り下ろされる前に、蒼真は踏み込んだ。
胸のひびへ、全力で戦槌を叩き込む。
一撃。
まだ足りない。
二撃。
胸部が砕け、中心核が姿を現す。
ラストガーディアンの腕が横から迫る。
避けられない。
土魔法で足元に小さな段差をつくる。
自分の体をわずかに押し上げた。
タイミングがずれる。
腕が腹をかすめる。
痛い。
だが、直撃ではない。
蒼真は三撃目を叩き込んだ。
中心核が砕けた。
ラストガーディアンの赤い目が消える。
巨大な体が、ゆっくりと後ろへ倒れた。
【ボスを討伐しました】
【ダンジョンを踏破しました】
蒼真は戦槌を握ったまま、その場に膝をついた。
しばらく動けなかった。
痛い。
疲れた。
魔力もかなり減っている。
だが、勝った。
「……二階層、きっつ」
声が震れていた。
それでも笑っていた。
広間の中央に宝箱が現れる。
蒼真はふらつきながら立ち上がり、箱を開けた。
中には魔石がいくつか。
金属素材
スキル玉
《真鑑定》
【スキル玉】
【内容 身体強化】
蒼真は目を見開いた。
「来た」
欲しかったものだった。
今の戦いで、嫌というほど分かった。
魔法は便利だ。
スキルも増えた。
だが、結局、避けるのも、踏み込むのも、耐えるのも、最後に叩き込むのも体だ。
身体能力が足りなければ、強い敵には届かない。
蒼真は迷わずスキル玉を使った。
玉が光り、手の中で消える。
【スキル 身体強化 を習得しました】
瞬間、体の奥に熱が走った。
筋肉が膨らむわけではない。
骨格が変わるわけでもない。
だが、力の通り道が増えたような感覚があった。
立ち上がる。
さっきまで重かった体が、少しだけ軽い。
疲労が消えたわけではない。
痛みもある。
それでも、体に芯が入ったようだった。
「これは、当たりだな」
蒼真は戦槌を握り直した。
さっきより、少し軽く感じる。
今の蒼真には何より欲しい基礎だった。
ダンジョンを出ると、地下通路は無人だった。
時刻は午後十時前。
思ったより時間が経っている。
蒼真は壁にもたれ、深く息を吐いた。
「明日も仕事なんだよな」
信じられない。
さっきまで巨大な金属人形と戦っていたのに、明日はまた会社で引き継ぎをする。
二重生活にもほどがある。
それでも、終わりは見えている。
あと少しで、会社員としての生活は終わる。
蒼真は家へ帰った。
風呂に入ると、肩と腹に青あざができていた。
回復魔法はない。
薬を塗るしかない。
「回復系、欲しいな」
痛む体を見ながら、蒼真は呟いた。
回復魔法。
治癒魔法。
そういうものがあるのかはまだ分からない。
だが、魔法が四属性あるなら、回復魔法があってもおかしくない。
探す理由がまた一つ増えた。
風呂から上がり、蒼真は床に今日の戦利品を並べた。
金属素材。
魔石。
錆鉄の戦槌。
身体強化。
斬撃耐性・小。
そして、ステータス。
レベルもまた上がっていた。
ステータスに表示された【身体強化】を見て、蒼真は満足そうに頷く。
これで、少しは無茶が効く。
いや、無茶をする前提なのがよくない。
そう自分でも思ったが、直す気はあまりなかった。
スマホが震える。
陽翠かと思ったが、違った。
上司からだった。
明日の引き継ぎ確認。
蒼真は短く返信する。
了解しました。
会社員の返事。
探索者の体。
ちぐはぐだった。
ベッドに倒れ込む。
全身が重い。
だが、昨日よりもずっと確かな手応えがあった。
一階層だけのダンジョンを荒らすのとは違う。
二階層を踏破した。
金属テーマに対応した。
【身体強化】を得た。
自分は、確実に強くなっている。
蒼真は腕のアルカナを見た。
黒銀の輪は静かに沈黙している。
「明日は……さすがに休むか」
そう呟いた。
数秒後、蒼真は目を閉じたまま付け足す。
「いや、見つけたら入るな」
自分で自分を理解してしまっていた。
眠気が一気に沈んでくる。
普通の仕事。
異常な夜。
その境目を行き来する日々は、もう少しだけ続く。
蒼真は、痛む体を抱えながら眠りに落ちた。




