第93話:こんな姿見られたらお嫁にいけないわ。
ミアーナ枢機卿は、用件が終わったと踵を返そうとする。
「ああ…そうそう
大聖女は、魔族に殺された体でお願いします。検死はこちらで行いますので」
(………………………………………………)
そんなミアーナ枢機卿を、皇帝が手の甲で払う。さっさと帰れと。
大扉が開きミアーナ枢機卿が出て行くと、静寂が訪れた。
「はあ…」
皇帝にため息が漏れる。
(はあ…)俺もご相伴。
「大聖女。教会事は国があってだろうに…
ブリュリンはどれだけ持つ?」
皇帝はディシリス宮内庁官に視線を送る。
「1週間と見ています…」
ディシリス宮内庁官が応える。
「勝ち筋はないのか?」
「ミアーナ皇女、いえ枢機卿の案にステラフィール大聖女の弔い合戦というファクターを加え、各国から支援を得れば…
但し、時間が圧倒的に足りない。
当代の大聖女と勇者を動員したほうが勝ち目が見えるのですが…」とディシリス宮内庁官。
(ほう)
「いらん、俺が戦場に打って出れば問題ない。
勇者など魔界の扉を閉めるためのドアマンに過ぎない!」
クレディヴァン騎士団長が声を荒げる。
「呼び出した3名の勇者を見ろ!戦死、行方不明、怪我…
行方不明など死亡と同義、怪我した勇者はもう戦場に出れないぞ!」
(怪我の程度はきいていなかったな、そこまで酷いのか?)
「勇者は生きていれば扉は閉められます。それが重要なのです」
ディシリス宮内庁官が宥めようと静かにいう。
「不甲斐なさすぎる」クレディヴァン騎士団長は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ディシリス。大聖女生かすべきか処分すべきかお前が決めてくれ」
「陛下!禍根が残ります!」クレディヴァン騎士団長が慌てて皇帝を見る。
「宜しいのですか?ミアーナ枢機卿の意に背きますよ」ディシリス宮内庁官が皇帝の顔色をうかがう。
「噂に聞く能力があるなら、帝国の守りとなろう?」
「陛下、大聖女などいりません。全て私がこの剣で叩き斬り帝国を守ってみせます」
「クレディヴァン。勿論信頼している。が、一人で戦はできんぞ」
皇帝の言葉にクレディヴァン騎士団長が気色ばる。
「対応を間違えましたね…
思いっ切り恨むので覚悟しておいて下さいね…と言われています」
「それは、大聖女の言葉か?」
ディシリス宮内庁官は頷きを返す。
「そうか…帝国が守られればこの命差し出しても惜しくないがな。
会ってみたくなった」
「陛下!」
皇帝はクレディヴァン騎士団長を手で制する。
「ディシリス。実際大聖女をどう見る?」
「得体が知れません」
「賢者のお前がどういうことだ?」
「魔族ならまだ力の把握ができる。
ですが大聖女に対しては神か悪魔にでも会っている気分でした。神の力など推し量れません」
(ほう…)
「何だと!」クレディヴァン騎士団長がディシリス宮内庁官に詰め寄る。
「私は強がったものの手に汗を握っていましたよ」
「そこまでか…ラフィールの国王がホクホク顔で自慢するわけだな」
(ああ、なんか目に浮かぶ…)
「まあ、今に至っては仕方がないか。まあ、任せる」
「はっ」
皇帝の言葉にディシリス宮内庁官がお辞儀で返す。
「次の者を呼べ」
謁見が再開されるようだ。
俺は次の謁見者が入るタイミングで抜け出した。
***
謁見の間をでた俺は、勇者を探すことにした。
だが、どこにいるんだか?
先ほどから感じているのは想像以上に人が少ないことだった…
女官や女給はいるが、城務めの貴族や文官、衛兵や騎士をあまり見かけない。
伝令兵は頻繁に駆け回っていて、一階、二階ではぶつかりそうになった。
既に城内も戦時状態に入っているのかもしれない…
広い城の中を当てもなく、上に下に右に左に彷徨うがとてもじゃないが埒が明かない。
この城に居るかも怪しいしな…
致し方ない。
俺は、三階の窓を開けると外に躍り出た。
滑らかとはいえ石組みの外壁の隙間に指を差し入れる。
窓から中を覗き見る方法に切り替える。
よいしょよいしょ
豪華な部屋を覗くことになったが…
おおう!
オフィスラブ…みたいなことはなかった。
……
城にいるなら居住区は上かな?
ちなみに、認識阻害を掛けているから良いんだけど、見えてたらひどい絵面だったりする。
法衣を着た美少女が、ヤモリのように壁に張り付いているのだから…
こんな姿見られたらお嫁にいけないわ。
―行く気ないけど。スン
おおう…
屋上に到達すると、そこは空中庭園になっていた。
色とりどりの花々が見える。
贅を尽くしすぎだろ帝国!
庭園の縁から庭園に足を踏み入れる。
相当な広さだ。
ビックリしたことに、この庭園には噴水まである…
あまりのことに勝手に首を振ってしまったくらいだ。
「………」
話し声が聞こえる。
俺は声の方に行ってみることにした。
「何か欲しいものはございませんか?」
声の主は少女で、車椅子を押していた。
長いプラチナブロンドで、ライトグリーンの瞳。グレースに似ている気がする。
なんというかグレースを大人しく淑やかにした感じ?
これが、グレース曰くお姉様じゃね?
じゃあ…正面に回って車椅子に座った者を見る。
金髪に白い肌、蒼い瞳の男性だ。
勇者だった前世を含め、帝国の勇者には会ったことがない。
しかし、勇者は教会関係者でもあるため、詳細な情報が俺の下には集まっていた。
帝国で召喚された勇者は三人。
全てイギリス人で…名前は
レイバーン・ドミナンス 18歳 男性
アンジェラ・サウスフィールド 19歳 女性
シルヴァーナ・ディープフォレスト 16歳 女性
男性一人に女性二人。
シルヴァーナは既に戦死している。
連れ去られたのはたぶんアンジェラ。
なので、ここにいるのはレイバーン。
車椅子に座った彼には足がなかった。
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