第92話:それは俺のせいじゃなくない?
遥か昔、北東66諸国を征服した征服国家プロミネンス帝国。
その帝国の威光を示す巨大な城は大陸で最も堅牢豪華といわれている。
しかし、その城内は閑散としていた。
地下牢のあった通路から階段で太陽光の見える地上階にでた俺は、悠々と脚の沈む絨毯が敷かれた場内を歩いていた。
認識阻害魔法をかけてるからね。
でも、絨毯を踏んだ跡だけが残ってちょっとオカルトしてます。
城には見取り図が掲げられていない不親切設計。だけど、まあ大体造りは似てると思って移動している。
目指すは状況把握のために謁見の間。できれば帝国の勇者も見ておきたい。
朝の応接室に案内された時に通った大広間を抜け、宗教画や勝利、偉業の絵画、皇帝の肖像画が並べられた長い廊下を歩く。
おや、大聖女の絵画…
俺ではない、確か俺の前の大聖女が帝国出身だったか…
次代の大聖女候補だった聖女メリージェーンが亡くなったため、後継引き継ぎができぬまま戦死したと聞いている…
その後、俺が大聖女になるまで大聖女は一年間程空位だった。
そのため俺は引き継ぎを受けていないし、他の大聖女にも会ったことがない。勇者時代に会ったステラくらいという意味不明な話はあるが…
何か大聖女なりの歴代申し送りみたいなものも実はあったんじゃね?という気もしないでもない。
聞かなくてラッキー♡なのかも知れないけど…
更に先に進むと、衛兵の立つ大扉の前に到着する。
廊下の長さは威厳の長さだ、意味なく長いわけではない。
(おっと!)
謁見の間の手前の待機所の扉が開いた。俺は壁に吸い付くように張り付いて様子を窺う。
中からは衛兵に案内され枢機卿の聖衣の女に、二人の修道女が出てきた。
枢機卿にしてはとても若い女性だ、20歳くらいにしか見えない。膝まである長いプラチナブロンドの髪、深い碧の瞳が印象的だ。修道女は黒い修道服を着ているためわかり辛いが聖女のようだ。
謁見の大扉が開かれ、枢機卿たちが入っていく。
俺はそれに共連れさせて頂く。フッフッフ。
謁見の間は横に広い部屋で、一段高い玉座には最上級の豪華な衣装を纏った。プラチナブロンドの髪にヘイゼルの瞳を持つ人物。この帝国の皇帝が座っていた。
横には憎き宮内庁官と近衛騎士団長…
枢機卿は皇帝の前に進み出ると、申し訳程度に頭を下げる。
(ええ、皇帝に対してそれだけ?)
「相変わらず尊大だな、ミアーナ枢機卿」
「娘が父に会いに来ただけです」
「そうだな」
皇帝が手の甲を振ると、謁見室内の兵や文官の殆どが退去した。
「大聖女を捕らえたと連絡が入りました」
「うむ、帝国の双璧。クレディヴァンとディシリスが今朝捕らえ、地下牢に閉じ込めている」
「流石は、クレディヴァン様、ディシリス様。歴代最強の聖女といわれるステラフィールをよくぞ捕らえて下さいました」
「単なる美しいだけの小娘ではないのか、威しただけで無抵抗で捕らえられたぞ」
「おかしいですね。
かの大聖女は、魔族数十人を一瞬で消滅させたと聞き及んでいましたが…」
「聖魔法が強い魔族特化の聖女なのではないか?」
「しかし、魔族が近づいている今、魔族特化とはいえ戦力となるなら惜しくありませんか?」
ディシリス宮内庁官が拳を顎に当てて発言する。
「大聖女は帝国出身であるべきです」
ミアーナ枢機卿は力強く言い放つ。
「メリージェーンがいたために、帝国は大聖女を諦めねばならなかった。そのメリージェーンが殺害され先代大聖女も戦死。六大聖女から選出されるはずだった選考が遅れ1年の空位…その間隙にあのステラフィールが現れて奪い取っていった。六大聖女とは何だったのか」
「承認は王家も加わるが、選考は教会で行われるからな」
皇帝が唸る。
(それは俺のせいじゃなくない?)
「今代の六大聖女。次代の大聖女候補に、第二皇女であるミレーヌがいる今が千載一遇のチャンスです」
(勇者と同じで大聖女利権ってあるからな…)
「序列2位と6位についても手を回しています」
(…嫌な予感がピピピっとするんだが)
「連邦のマリア王女と、ラフィール王国のシャルロット王女ですか?」
ディシリス宮内庁官が諳んじる。
「だが、勇者や剣聖。グレース第三皇女も一緒じゃないのか?」
「ギル族に頼みました」
「グレースはどうするのだ?」皇帝が肘掛けを握り締める。
「帝国が疑われるわけにはいきません」
(んな!)
「お前の妹だぞ」
「帝国の利益のためです」
(んなんなんな!)
流石にクレディヴァン騎士団長とディシリス宮内庁官も顔を顰める。
なんなんだこの枢機卿は…
「魔族の状況はどんな感じですか?」
教会関係の話は終わりとでもいうようにミアーナ枢機卿は話題を変える。
「芳しくありません」
ディシリス宮内庁官は渋い顔をする。
「勇者二人を欠き、戦意が大きく落ちたところで戦線を崩されました」
(そこまでは知った状況だな)
「再編成を行うため撤退を始めましたが、四足獣型巨大魔獣、鳥型巨大魔獣の追撃を受け壊滅状態です。
南東の各都市は放棄。南東最後の要衝ブリュリンに現在各地から増援兵を送っている状態です」
(うわぁあ)俺は引いた。
「また、放棄された都市の避難民も押し寄せていますが、帝都まで来れないようブリュリンの指揮官に指示している状況です」
(……よくこんな状況で、俺や、マリア、シャル、勇者たちを排斥しようと考えるな……)
「……時間がありませんね。直ぐにでも大聖女を闇に葬って下さい。私の方でミレーヌを次代の大聖女にします。それを持って士気を上げ反抗に移りましょう、その時は白狼のクレディヴァン様、黒衣のディシリス様も出撃を」
「わかっている」
「理解しております」
クレディヴァン騎士団長とディシリス宮内庁官は声を揃えるようにそういった。
お読みいただき有難う御座います。
評価・ブックマーク・感想・レビューなどアクション頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




