第90話:うーーーー
翌朝になっても、ギリアム大使は帰ってこなかった。
「何があったんでしょうか」
執務室に居たマチルダさんも困惑顔を隠せない。
皇帝からの呼び出しとはいえ、一国の大使を一晩拘束するなど考えられない。
「私が城に行ってみます」
これ以上時間を何もせずに潰すわけにはいかない。
行方不明のマリアたち勇者一行に帝国の勇者の状況。魔族との戦線も心配だ。
「え?」サロメさんが驚きの声を漏らす。
「私一人で行くほうが、話を通しやすいと思います。
エルウィンさん、エーナもここで待っていて下さい」
「え」エルウィンさんも驚きの声を漏らす。
「嫌じゃー
この前も丸一日待たされたのじゃー
疎外感に苛まれたのじゃー
置いてかれた?
棄てられた?
色んなことが頭を過ぎったのじゃー」
エーナ……
ちょっと可哀想…いやいや
「大丈夫です見捨てないから、ちゃんと戻ったでしょ。
今回はサロメさんもエルウィンさんも一緒だから
…ね」
「うーーーー」
後ろめたい睨みかたをされる…
しょうがないじゃん、吸血鬼と幽霊連れてるのバレたらヤバいって。
大聖女の火炙りなんてヤダよ。
「美味しそうなのじゃ」エーナがポツリ。
(心読むな!)
「「「「早く帰ってきてくださいね」」」」
なんでマチルダさんまで声を揃える!
「はい…行って来ます…」
朝一で疲れた…
***
ノースランド大使館を出る。
城は街のどこからでも見えるような威容を誇る巨大建造物なので迷うことはないが…
一応馬車は出してもらった。
大聖女が一人テクテクとフレンドリーに手を振って歩いてきても信用されないだろ。
大聖女のプラチナ・カードがあっても。
本当は一回教会に寄りたいんだけど…
一人で行って、後でバレてサロメさんに悲しい目をされたら嫌だろ。
女の子を悲しませたくないじゃん。
なのでしかたない、まっすぐに城へ行く。
広い石畳の大通りを城へと向かう。程ない距離なので直ぐだ。
それなのに…やたらと小部隊の兵士を見かける。足早に南門に向かっている気がする。
…嫌な予感しかしないよ。
「大聖女様。城門です」
正装の職員も一人付けて貰っている。できるだけ髭のない人をチョイスした。
馬車が城門前で停止した。
「失礼します」
衛兵が馬車の扉を開けてくる。
失礼なことだがアポを取っていないのでまあ致し方ない。
「この馬車はノースランドの物とお見受けします。
現在、予定のない謁見は叶いません。
お引き返し願います」
「私はノースランドの参事官ジュゼイと申します。
大聖女ステラフィール・ローゼマイヤー様をお連れ致しました」
私は優雅な動作で衛兵を見ると、大聖女の証たるプラチナ・カードを見せる」
「大聖女?大聖女様…大聖女様なのですか!」
プラチナ・カードに刻印された教会と大聖女の紋章を見た瞬間―礼節ある者が選ばれる城門の衛兵が素っ頓狂な声を上げた。
「紋章官を呼べ!直ぐにカードの照会をさせるんだ!」
背後にいたもう一人の衛兵が城内に向かって声を上げる。
(な、何事?)
俺は笑顔を貼り付けたまま内心ビビっていた。
「城内にご案内しろ!応接室で待って頂け!」
城内に声を上げた衛兵が続ける。
「絶対に逃がすな!」
(んんん?)
遠くの城内から不穏な言葉が…
「あ、あの、何事ですか?」
俺は堪らずに聞いてみる。
「なんでもございません。
大聖女様。城内にご案内させていただきます。
「参事官様、馬車を城内に」
「あ、え、はい。
馬車を城内に」
参事官が御者に命令する。
動き出したところで、馬車の扉を開けた衛兵が離れていく。
「「……」」
見つめ合う俺と参事官。
「どういうことでしょうか?」
「え、あ、さあ…」
俺に問いかけに参事官は首を振った。
頬が紅潮してるんだがそこは気づかぬふりをしよう。
馬車は城内へのポータルに続く階段に横付けのように停められた。
そこには上質な黒いローブ姿の男と、ヘルムを外した綺羅びやかな甲冑を着た男と、数人の部下と思われる文官と騎士が後ろに控えていた。
前にでた黒いローブの男が馬車の扉を開けた。男は20代前半位で長い黒髪に切れ長の目をしている。
「ようこそおいで下さいました。大聖女様。
プロミネンス帝国、宮内庁官のティシリスです」
黒ローブの男が自己紹介する。
同じく前にでた甲冑の男が手を差し出してきた。
此方も20代だろう銀の短髪で、細いが意志の強そうな眉に蒼い瞳。無骨ではないが鍛えられた風情がある。
「近衛騎士団長の、クレディヴァンですお見知りおきください」
待っていたのは、なんと宮内庁官と近衛騎士団長であった…文と武の最高指揮官とも言える…
公の訪問でもないのに異例としか思えない。
なんで?
「ステラフィール・ローゼマイヤーです」
差し出された騎士団長の手に手を預け、馬車のタラップを降りる。
***
贅を尽くした応接室に通された私は、宮内庁官と近衛騎士団長を前に腰掛ける。
既に紋章官による、プラチナ・カードの確認も済んで、俺が大聖女本人だと証明されている。
「大聖女様。本日は遠路遥々ご訪問頂きまして嬉しい限りです。
しかし、ノースランドの馬車で来られるとは思いませんでした」宮内庁官ディシリスさんが席に着いたのを見計らって話し始める。
「昨日帝都に着きまして、逗留させて頂きました」
「教会やラフィール王国の大使館ではなく?御身であれば直接城にいらしても歓待いたしましたよ」
「それも考えましたが、ノースランドで仲間ができましたのでその関係で…」
俺、尋問されてる?
「そうそう、こちらには我が国の港町ダヴァンに着かれた勇者一行から、大聖女様がノースランドに誘拐されたと報告が上がっておりまして…」
(誘拐?勇者一行から?)
はて?
「誤解があるようですが、私は教会に加盟されることになる、ノースランドの危機に救援に向かっただけですよ」
「それは情報がおかしいな…」
宮内庁官と近衛騎士団長は顔を見合わせる。
「勇者一行に聞いていただければ直ぐにわかることです。勇者一行はどちらでしょうか?合流したいのですが…」
「勇者一行は港町ダヴァンの教会を通したその連絡以降、行方がわかっていません」
(行方がわからない?勇者の?マリアたちの?)
「どういうことですか?」
「大聖女の誘拐と、帝都に向かうという連絡が早馬によって帝都に伝わりました。
ですが、勇者一行は到着もせず、その経路となるであろう街や砦にも姿を現していません。行方不明です」
(何だって!)
「どうされました?」
立ち上がった俺に近衛騎士団長が声をかけてくる。
「私。直ぐに捜索に向かいます」
俺は会話するのももどかしく、踵を返そうとするが
「お待ちください」
直ぐに呼び止められた。
「すみません。急ぎますので」
「いえ、貴方には教会より権限剥奪と身柄拘束の命令が出ております」
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