第9話:河原の夜と街の包囲
「何故、付いていて来たのですか?」
「貴方が心配だったんだ」
下を俯きながらそう漏らす」
「ご心配は嬉しいですが、そのために貴方の護衛は命を失いました」
厳しい物言いだが、鍋洗い少年は王子だ。
将来的に部隊を指揮する可能性が高い。軽はずみな行動が、どう命に影響するかは早く理解する必要がある。
「ああ」
「……」
この先から川の音がします、川沿いに森を抜けようと思いますが宜しいですか?」
これ以上追い込んでも良くない、別の話題に切り替える。
「ああ」
俺は鍋洗い少年の手を引いて河原を下流に向かって歩いていった。
***
夕暮れまでに、森を出ることができなかった。
森にしても、川にしても夜は危険だ。
河原脇の洞窟とは言えない、深さ二メートルくらいの窪みで夜を明かすことにした。
河原なので、水は潤沢だ。食料は一応干し肉を携行している。
ただ、河原での夜は冷える。見つかる可能性があるため火は焚けない。
肩を寄せ合って過ごすしか無かった。
月明かりの中、川面に光が反射している。
森は真っ暗で、誰かに見られている気がしてしまう。
「私は、この遠征で手柄とは言わないけどなにか成果を上げる必要があったんだ」
鍋洗い少年が、空を見上げて語りかけてきた。
「成果ですか?
王族として、王子は凄いみたいな?」
小首を傾げる。
「そう、そんな感じ。期待を持たれないと…王子のくせにという落胆が待ってるんだ」
「王族に生まれると大変なんですね…」
なんとなく解らないでもない。
「だから、魔族を見つけた。聖女を守ったって言うのは凄い成果だろ」
「確かに、そうですね。」
「でも、私は間違っていた。
部下を死なせてしまった。
私の浅はかな考えのせいで…」
どうしようか。この話…
肯定しても否定しても間違いな気がする…
ってか、この人、12歳の小娘に何を言って欲しいんだろうか?
「護衛さんの役目は、殿下を護ることです。」
「?」
「殿下の役目はなんですか?」
「え?」
「失敗の経験を活かすことではないのですか?」
「でも」
「彼らは、死を前にして、殿下を私に頼むと託しました。殿下は生きて戻らなければなりません。彼らの死を活かしてください」
こんなもんでいっかな?
良くわからんよホント。
「分かった、ありがとう。君の言うとおりだ」
ええ?これで良いの?
良いなら良いけど…
とりあえず、笑顔だけ返しておこう。
ニコッ
なんだろう、俯いちゃったよ。
失礼だな。
***
翌日、俺たちは川沿いを伝い、なんとか昼前には、街に戻ることができた。
街に入ると何やら騒がしく、城壁に衛兵が立ち、街の男衆も土塁や、弓や槍を携え駆け回っていた。
部隊の宿営地に行くと、人数が半数になっていた。
部隊長、聖女は天幕で話し合いをしているということで、中に通された。
中では同い年の聖女ちゃんと年下の聖女ちゃんが泣いていた。
「どうしちゃったんですか?」
「ステラー生きてたのね!良かったー」
私は、年上の聖女ちゃんに尋ねると、抱きしめられた。
話を聞くと、北と、東西に向かった3小隊が帰らず、聖女含め生死不明。私の向かった南も護衛だった10名は帰還せずということだった。
「それで…」
私は、泣いている聖女ちゃんの背中を抱いてやる。
唯一、南の小隊長が持ち帰った情報で、敵が魔族で、北と、東西にもいることが推察され、街が囲まれていると判断したようだった。
王都に早馬を送ったが、四方を魔族に囲まれた状態では辿り着ける望みは薄い。
だから、援軍も期待できない。逃げるにしても囲まれていては逃げる方向がない状態だった。
なんか、詰んでるっぽい…かな?
***
この城塞都市は人口二万。この世界では大都市に当たる。
城壁の外は畑や畜産に適した平野で、その先は森になっている。
森を切り開いた典型的な開拓都市だった。
太陽が西に傾き城壁が茜に染まり始めたとき。
東西南北の森から、それぞれ九人の魔族が姿を見せた。
城壁上に恐怖と悲鳴が伝播していく。
聖女は私と年下聖女ちゃんが南、最年長聖女と年上聖女ちゃん、同い年聖女ちゃんは北に布陣している。
部隊は四つに分けられ東西南北だ。
俺のいた南探索の部隊は人数が減ったので遊撃部隊として南にいる。
鍋洗い少年。もとい王子は「私も戦う」と言ってここに詰めようとしたが、俺が「また同じ失敗をなさるおつもりですか?」と言ったら、大人しく街の権力者と一緒に城に非難してくれた。
「うわーーーーー」
城壁に更なる叫びが響き渡る。
何事かと、森を見るとそこかしこから、魔物が湧き出してきた。
「魔族だけじゃなかった?」
俺も驚きを隠せない。しがみついてきた年下聖女ちゃんを抱きしめる。
「どうすりゃ良いんだ」
小隊長の怒声が響く。
遠征軍の士気が落ちていく。
「どうなるの?」
年下聖女ちゃんが、嗚咽を漏らすのは当然だろう。
誰かが森を、いや、森の上を指さしている姿が目にとまる。
俺がその先を追うと、一人の女の魔族がこちらに飛んできていた。
その女魔族が俺たちを睥睨するように止まる。
『我が名は第一位階魔官ギャザリン』
女魔族が名乗りを上げた。
『魔族地を這う、小さき存在共よ。』
街に女魔族の声が響き渡る。
『我らは明日早朝よりお前らを蹂躙する。
逃げるものは最初に、
隠れるものは次に、
戦うものは最後に弄ってやろう。
精々最後の夜を味わい。明日は我らを楽しませて見せよ』
そう告げると、口の端をゆがめて背を向ける。
矢を放つものもいるが、全て矢は寸前で失速し魔族に当たることはなかった。
悠々と魔族は来た方向に戻って行く。
その時、女魔族が突然振り向くと俺の方を見る。
驚愕に目を見開き俺のことを伺う。
俺、魔族になんかしたっけ?
女魔族は大慌てで戻っていった。
(なんだ?)
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうか★をお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。




