第8話:魔族発見と王子の失策
森は鬱蒼としたけもの道だ、枝や木の根、石に岩が転がり足場が悪い。普通に考えて12歳の少女が兵士に付いて歩ける道ではない。
黙って歩いてはいるが、流石にキツイ。
年下の聖女ちゃんは大丈夫だろうか…
「ちょ、ちょっと待ってあげてください」
鍋洗い少年が声をあげた。一斉にみんなが少年を見る。
「聖女様にはこの道は厳しいと思います。ペースを下げるか休憩を入れた方が良くないですか?」
おお、この気配り、こいつもサラリーマンの転生か?
「殿下、わかりました、ペースを落としましょう」
「すまない助かる」
ん?今殿下とか言わなかったか?
「どうぞ、お手を」
差し出された手に手を乗せる。
こ、これは、断れば角が立つと思ったからだからな。勘違いするなよ。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「……」
「……」
なんだろう、この雰囲気…
鍋洗いの顔が赤くなって、俺をチラチラ見てくる…
ヤ、ヤバイ。俺がこのまま黙っていても、饒舌になっても、まるで意識してるみたいになってしまうぞ。
ど、どうすればいい?
そんなことを思ってたら
「あ!」
「どうされましたか」
俺は口元に人差し指を当てると、手を振りほどき、小隊長のところまで走る。
「聖女様。どうされました?」
俺は先程と同じように口元に人差し指を当て、みんなに姿勢を低くするようなジェスチャーをする。
即座にみんなはそれに従った。
「この先に強大な魔力を感じました」
「魔物ですか?」
「魔族っぽいです、しかも複数」
俺は魔力を感知した、聖女の能力というより勇者の能力によって。
「魔族が複数!」
俺は頷きで肯定する。
魔族は種族として強靭な肉体と、魔法を操る、魔神を奉る上位存在だ。
「このまま、引き返すことを進言します」
完全装備の騎士部隊と魔法部隊で魔族一人を倒せるかと言った連中だ。
聖女が一人いても、一個小隊で勝てる相手ではない。
「しかし…確認しないわけにはいかない…」
まあ、そうだよな。聖女とはいえ、まだ小娘の言うことだ。鵜呑みにして戻ったのでは報告すらままならないだろう。
「では、偵察は私と、小隊長だけで。
他のみなさんは、ここで待機し、一時間経っても戻らない場合は。街に報告に戻るでどうでしょうか」
小隊長は、一頻り考えると頷いた。
俺は、ホッとする。だが…
「私も、連れて行ってください」
一番来て欲しくない鍋洗い少年が手を上げた。
「では、私も」
「私も」
……
10人ほどが言い出した。
(ほらー)
この小隊には雰囲気の違うのが、三分の一紛れているのが分かっていた。
鍋洗い少年が、殿下=王子と分かった時点でそれが護衛だとピンときた。
鍋洗い少年には、金魚のフンがつくので、そんなフンまで面倒は見きれない。
「申し訳ありませんが、そんな人数では、早々に気付かれてしまいます」
「しかし…」
「私と、小隊長で行くのが、最も安全で効率的なのです。どうかご理解ください」
「くっ…分かりました」
鍋洗い少年は悔しそうにするが、俺は胸を撫で下ろした。
***
俺と小隊長は、気付かれないように注意を払って、魔族を感じている方向に向かう。
用心のために、小隊長には内緒で気配隠蔽の魔法も使用している。
そうでもしないと、こちらが目視する前に絶対に見つかる。奴らの感知能力は半端ないのだ。
「もう直ぐです」
三キロほど進んで俺は囁いた。小隊長は頷きで応える。
俺は魔力の形で把握できているが、こんな森の中での視認など、目と鼻の先まで接近しないと出来ない。
俺は小隊長に手で合図して、ソロリ、ソロリと近づく。
…少し開けた場所に魔族は居た。九つの陰が岩に腰掛けたりウロウロしたりしている。
人と見分けのつかない外見と、衣服を着用しているが、赤い目と、青黒い肌が魔族を象徴していた。
俺には、何かを待って、待機しているように見える。
俺は小隊長と目で会話すると、来た道を引き返す行動に移る。
その時、魔族が叫びだし、一方向へ向かい始めた。
その先を見ると、鍋洗い少年と10人の護衛の姿があった。
「あちゃー」
即座に小隊長へ俺を置いて戻るように、指示するが、「そんなことできるか!」と聞き分けてくれない。
致し方ない…
俺は小隊長の目を見て暗示魔法をかける。
目の光を失い無表情になった小隊長は、見つからないように来た道を引き返していった。
俺は、急いで魔族を追う。
九人の魔族に、十人の護衛では戦いにすらならない。
護衛は必死に鍋洗い少年を逃がそうと、決死の覚悟で戦っている。
俺が気配を消したまま、その戦場に近づくと、魔族と組み合っている護衛と目が合う。
護衛の目が王子を頼むと言っていた。
俺は護衛に頷くとその横をすり抜ける。
鍋洗い少年は、護衛一人に守られつつ逃げていた。
追っているのは魔族一人。
魔族が、護衛に襲いかかった。その瞬間に俺は、鍋洗い少年に飛びつき、茂みに飛び込む。
同時に、インビジブルを掛けて姿を隠す。
護衛には申し訳ないと思うが、このタイミング、方法しか無かった。
俺は、鍋洗い少年の口を手で抑え、静かにするように諭す。護衛を倒した魔族は辺りをキョロキョロし、見つからないと思うと四方八方に、狂ったように魔力球を投げ放つ。
辺り一面が穴だらけになるが、隠れた場所には被害がなかった。
魔族は鼻を鳴らして去っていった。
「殿下大丈夫ですか?」
ガチガチと歯を鳴らせ意識ここに非ずな状態だ。
致し方ない…
俺は不敬にも、ビンタを一発喰らわした。
張られた頬を押さえ俺を見る。
「あ」
やっと俺に気づいたようだ。
「大丈夫ですか?」
鍋洗い少年は二度頷いた。
「ここを離れます。いいですね」
俺は鍋洗い少年の手を取ると部隊とは反対方向に歩き始めた。
万が一、俺が追われても部隊を危険に晒さないためだ。
護衛は全滅。 たった二人で、魔族に囲まれた森を抜けなければならない。
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうか★をお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。




