第7話:聖女の従軍と出会い
この世界では、貴族の娘が11歳になると、神聖魔法が使えるか資質検査を受けなければならないことになっている。
(11歳という年齢は、現代日本人から見ると異常だが、貴族社会では婚約が始まる直前になる。その前に神に選ばれた存在として選別する…なんとも教会に都合の良い制度だ)
神聖魔法に資質があるものは、癒しの魔法が使える。そのため、聖女として魔物との戦いに従軍する事になる。酷い人権無視だ。
もっとも、貴族の男子は、特殊な理由がないかぎりは戦場に出なければならない。
――― 三年前、俺は既に聖女として教会に所属し従軍していた。
「ステラちゃんは怖くはないの」
遠征中に、今回初めて従軍する年下の聖女ちゃんが話しかけてきた。
そのときの俺はもう両手で足りないほどの従軍を経験したベテランだった。
「怖くないわけじゃないけど、怪我人を放って置けないから」
「凄いね、私もステラちゃんを見習って頑張るよ」
「うん、一緒に頑張りましょう」
「ねえねえ、今回王子様が参加してるって知ってる?」
別の年上の聖女ちゃんが、そんな話題を出してきた。俺には興味のない話だが耳だけは傾けておく。
「何番目の王子様?」
同い年の聖女ちゃんが興味深々に聞き返す。ちなみに、この国の王様、子供が多すぎるから、こういう聞き方になってしまう。
「21番目。エドリック王子よ14歳。狙ってみる?」
「美形で有名な王子じゃない。正室になれば聖女も辞められるし素敵な話ね」
ガールズトーク?これは三十路直前のサラリーマンだった俺にとって関わりたくない会話だ。
「ステラはどうなの、その美貌なら一発かもよ」
(ははははは)
「遠慮しときます」俺は笑顔で逃げる。
「いつまで喋ってるの。聖女としての品位を持ちなさい!」
この遠征の最年長聖女が雷を落とした。
(あ、物理的じゃなく揶揄だよ、この世界だと本当に雷落せるからね)
この遠征には8人の聖女が参加している。
だいたい聖女一人につき30人の兵士という計算が出来るので、この遠征は240人の兵士で編成されていた。
***
夕方になって、やっと目的の街に到着できた。城塞都市のようで、グルリと壁に囲まれている。
今回の遠征は、この街の近くで魔物を見かけたという報告があったからだ。
この規模の遠征だと、聖女が炊事当番をすることになる。
(なんで聖女だけ戦場なんだよ。もっと聖女を労っても良いんじゃないか?)
***
「手伝いましょう」
兵士に賄った後、腕まくりして川で大きな鍋を洗っていると、声を掛けられた。
見れば、年若い少年だった。
「ありがとうございます」
俺は素直に手伝いを受け入れた。
「聖女様がこんなことをされるのですか?」
「そうですね、もっと大きい編成になれば、専門の人が付きますが、一個中隊規模だと今は専門の人は付きませんから」
長い戦いで、兵士が足りないのが原因だ。
「大変ですね」
「怪我をされた方を見るよりは気が楽ですよ」
「私よりずっとお若いのに大人なのですね?」
「そ、そうですか?」
(伊達に長く生きていないからな)
「この戦い…勇者を召喚し、勇者が扉を閉じてくださるまで続くのですね」
「王国では、星の巡りが三年後ですが、南方の連邦国は来年、東国の帝国は再来年召喚の儀式が行われます。
成功を祈りましょう」
「そうですね」
会話が途切れ、鍋をガシガシ洗っていると、突然少年がつぶやいた。
「綺麗だ…」
「え?」
「い、いえ月が綺麗だと」
既に日が沈みかけ、星は出始めていたが月は見当たらなかった。
「そうですね」
取り敢えず、同意しておくことにしよう。
相手に合わせるサラリーマンの気配りだ。
***
翌日街の周辺を調べることとなった。
中隊長が、昨夜この街の有権者と話し合った結果らしい。
一個の小隊に聖女が一人付き、森や山に向かう。
俺は南の森を担当する小隊に組み込まれた。昨日の鍋洗い少年も一緒だ。
「聖女様、どうされました?」
これから向かう森を見つめ、突然立ち止まった俺に、鍋洗い少年が話しかけてきた。
「いえ、なんでも…」
この時点で、俺はこの森に嫌な予感を覚えていた。
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