第10話:大聖女誕生
夜を迎え、遠征軍、衛兵、街の守備軍、有志の市民は半数が眠り半数が警戒に当たっていた。
魔族はああ言ったが、信じる訳にはいかない。魔族も魔物も夜の方が強い連中が多いのだから、嘘であっても不思議はないからだ。
うーむ、まさかこんなことになるとは思わなかった…
寝てるはずの者の中からは鳴き声が、起きて警戒してる者の中からは酔っぱらった怒声が聞こえてくる。
「聖女様。お菓子だ食べるか?」
「ありがとうございます」
小隊長が、お菓子を持って来てくれた。俺の横に座る。
「そっちのちっちゃい聖女様はお休み中か?」
年下聖女ちゃんは俺の膝で寝ていた。
「はい、泣きつかれたようです」
「無理もないな」
「初めての遠征だそうです」
「それは、辛いなー」
「王子様も参加の遠征だ、安全と思われて送り出されたろうに…」
「そうですね」
頭を優しくなでてやる。
「そうそう、ありがとうな、聖女様」
「なにがですか?」
「聖女様のお陰で、俺は生きて戻れて、報告も上げられたんだ…と思ってる。
いかんせん、記憶がないんだがな」
「…いえ、小隊長が報告してくださって、私も感謝しております」
「そうか、良い聖女様だな。もっと活躍出来ただろうに…勿体ない」
「なんですか?私は諦めてませんよ」
フッと鼻で笑われた。
「しかし、なんでここが狙われたんだか」
「魔族の女の物言いは、狩りを楽しむような言い方でした」
「そうだったな、胸糞悪い」
「もっと、大きな都市を襲うための練習かもしれませんね」
「練習だって。なんだよそれ」
「北に行った部隊だって、東も西も、気のいい連中がいたんだ。
俺、この遠征が終わったら結婚するんだって言いまわってたやつだっていたのに」
ああ、それ言っちゃた人がいたのか…
「聖女様に言う事じゃないが…明日で終わりかと思うと切ないなー」
「大丈夫です」
「え?」
「大丈夫です、終わりじゃありません」
「どうしたんだ、聖女様」
「安心して明日を迎えて下さい」
俺は、心が折れていた小隊長にそう言って笑顔を向けた。
***
もう直ぐ朝を迎える。
寝ていたものも、警戒していたものも、今は一様に森を見つめていた。
「来るぞー」
森からわらわらと魔物が飛び出してきた。
獣のような四つ足、頭だけ獣な二足の魔物、ムカデのような多足の魔物、様々な魔物が姿を現わし、こちらを目がけて駆けてくる。その足音は地鳴りのようで、城壁も街も揺らしている。
魔術師隊、撃てー
街の魔術師が戦術級の魔法を撃ち始める。
炎や、風の魔法が被害を与える。
「おおーやったー」
が、魔術師の数が圧倒的に少なく散発的な攻撃となってしまう。
大型弩砲部隊、撃てー
同じく巨大な丸太の矢を撃ち出し魔物を、突き刺し、押しつぶすが…点の攻撃にしかならない。
弓部隊、撃てー
最も人数が多く、面での掃討を開始する。
魔物もどんどん倒れていく姿が見える。
「おおー効いてるぞ」
「頑張れー」
押し戻せはしないが膠着状態を作り出しているが矢がそんなに有るわけではない。
時間稼ぎなのはみんな理解している。
だが、膠着でも敵が倒れていく姿は、士気を上げた。
「やれるぞ!撃てー撃てー」
だが…
「ぐわー」
「ギャーッ」
外壁が吹き飛ぶ。
空を見ると36人の魔族が魔力弾による攻撃を始めていた。
あちらこちらで爆発と煙が立ち上り、悲鳴があがる。
魔族は、膝をつき兵士を治療していた俺の近くにも降りてきた。
「聖女様!」
小隊長が俺と魔族の間に割って入る。
「早く、お逃げ下さい。貴方はこんなところで死んではいけない人だ」
ここまでか…
「致し方ない…」
俺は息を吐くと立ち上がった。
魔物の凶刃が、小隊長を襲う。
が…魔物は動きを止めた、いや動けなくなったようだ。
俺の周りに生まれた空に伸びる柱が、俺を中心に同心円状に広がって行く。
《セイクリッド・ピラー》
人や、動物には影響はないが、魔族や魔物、魔のつく者たちを寄せつけず滅する、聖なる柱である。
俺の勇者時代の名残。周囲に存在する無尽蔵の魔力を聖属性の回路により変換、人では作り出せない巨大な《セイクリッド・ピラー》を展開する。
広がる光の壁は魔族を蒼い炎で燃やし、魔物は粒子になって崩壊していく。
柱の中は、緑の光に包まれ怪我したもの、病の者は治していく。
神のなせる業と言われる、古の神聖魔法だ。
なんで使えるかって?勇者の技と記憶はこの世界に生まれ変わったとき、全て理解し継承しているからだ。チートと呼びたければ呼ぶがいいふははは。
森に至る外縁迄広がると、魔の付くもので動くものは無かった。
ただ、蹂躙宣言に来た女の魔族だけは逃げて行ったのを知っている。
柱が消えると、静寂が訪れていた。
誰も彼も何が起こったか分からない。
ただ、一瞬にして魔物が消えたという感覚だろう。
それでいい、俺は目立ちたくない。
「おおお、この聖女が、全ての魔を祓ってくれたぞーーー!」
俺は驚きに目を見開く。
「え、あ、あの」
小隊長だ。
「この聖女だー」
俺の手を上げてみんなに見えるように引っ張っていく。
「え、いや、あの、その、そんな、えと」俺は考えも纏まらない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「大聖女だーーーー」
「ありがとーーーー」
街中が割れんばかりの歓声に包まれた。
***
そんなことがあって...今に至る。
俺は廊下の壁に寄りかかりながら、心の中で回想を締めくくった。
あの日から三年。
俺は大聖女として、この王都で崇め奉られるようになった。
「ステラフィール様?」
振り向くと、エドリック王子が立っていた。
「あ、ごめんなさい、失礼しました。お話の途中でしたね」
王子が一歩近づく。
「あの日、私を慰めてくれたステラフィール様のことは忘れられません」
その目には、あの河原で、あの城壁で見せたのと同じ光が宿っていた。
(あ、あれで、惚れてたのー?)
「も、申し訳ありません!急用を思い出しました!」
俺は踵を返すと、廊下を全力で走り出した。
「お待ちください!ステラフィール様!」
背後から追いかけてくる足音。
(勘弁してくれー!) 三年前の恩人。
それは確かに事実だ。
だが、俺は中身おっさんなんだよ!
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