第88話:大使館は治外法権です、国際法に則って…
プロミネンス帝国帝都フレア。
北方の国だけあって薄い雲に覆われ空が白い。
白亜の城を戴く大きな帝都は、話し声も少なく静かで重々しさを感じさせる。
そのためたまに通る兵士の軍靴の音が良く響いていた。
ノースランド事件の解決や世界樹への寄り道と、結構マリアたちから別れて時間が経ってしまった。
もう着いて待っててくれているだろうか?
マリアに怒られるだろうか?
怖いんだよ、話しかけても返してくれなくなるから…
「どうされました?」
サロメさんが、身を震わせた俺を心配して声をかけてくれる。
「いえ、何でもありません。やっと着いたなって感慨に耽ってました」
「ああ、申し訳ありませんノースランドの件で遠回りをさせてしまって…」
「いいえ、問題が解決できて良かったですよ」
「ありがとうございます。
この後、どうされますか?ノースランドの大使館に行かれますか、城に直接行かれますか?」
「そうですね…教会に行くのが筋かもしれません」
「あああ、それでしたら一回大使館に寄らせてください」
「どうしたんですか?」
「リンダ女王より教会に親書を預かっているのですが、交渉は大使に引き継いでもらわないといけないので…」
「ノースランドの教会加盟の話ですね。わかりました。大使館に向かいましょう」
「ステラさん。私吸血鬼だけど教会大丈夫でしょうか?」
うっ。
宗教的に吸血鬼に影響するかという意味ではなく、教会が敵性判断しているよねという意味だ。
「そ、そうですね…
今なら見た目隠せてますが、バレるとまずいですね」
大聖女の俺的に。
「嫁よ…」
今度はエーナ?
「エーナ?どうしました?」
「儂は、幽霊みたいなものなんじゃが大丈夫かな?」
「「「…」」」
「あああああ、アウトです!」さすがに青ざめた。
「…ノースランドの大使館にご逗留ください…」
サロメさんの提案に乗るしかなかった。
「「「「はぁぁぁぁ」」」」
***
帝都のノースランドの大使館は結構大きかった。
3階建てで左右対称…なんというか東京駅に似ている。
「ご苦労さまです」
サロメさんが守衛に家紋の入ったインタリオのブローチを見せて敷地に入る。
守衛は俺たちに視線を向けるも、ノーチェックだった。
「サロメさん…もしかして貴族だったりしますか?」
「言ってませんでしたっけ?
一応、子爵家当主です」
(おおう、令嬢ではなくご当主様でしたか)
とは言え、貴族令嬢や王族だらけの聖女だ、ビビらんぞ。
ってか、俺の周りにパンピーいないから、麻痺してきた。
この世界の貴族はだいたい人口の1%しかいないのにね。
18世紀のポーランドとかは10%も貴族だったらしい、その結果国王の権力が弱まり国力が弱まりついに他国につけ入れられ120年くらい国がなくなったんだよな…
「どうされました?」
「いえ、連れ回してしまい悪かったかなと思いまして」
「いえとても貴重な経験です。世界は謎に満ちていてそれに触れられる。感謝しかありません」
ほんと良い子や、尻尾があったらブンブン振ってそう。
「あ、あの、頭撫でるのはやめてくださいますか…」
しまったつい…「ゴメンなさい」
「いえ…ここは人目がありますので…」
え、人目がなければ良いの?
「儂も撫でて欲しいのじゃ…」
「あの、私も…」
エーナとエルウィンが俺をじっと見る。後でねと約束しといた。
玄関に立つドアマンに扉を開けて貰い玄関ホールへと足を踏み入れる。
「サロメ・ド・ディアード子爵殿。長旅ご苦労さまです」
銀髪の髪を切り揃えた女性がお辞儀をして迎えてくれた。
「マチルダ嬢お世話になります。
女王より教会への親書を持って参りました。
説明をさせて下さい」
どうやら、サロメさんを知っている人らしい。
「失礼ですが、そちらの方々は?」
「初めまして、ステラフィール・ローゼマイヤーと申します。彼女はエルウィン・ド・ヨルドフ伯爵令嬢、そしてこれはエーナです」
俺は会釈を、エルウィンはカーテシーを、エーナは「これとは何じゃ嫁よ」と小声で文句を言う。
「ようこそいらっしゃいました。
公使のマチルダ・ド・エッセリングと申します。
……ステラフィール様?……
もしや、大聖女様ですか?」
マチルダ嬢は礼をとると、私の名前に喰い付いた。
「はい、今代の大聖女の位を賜っております」
今まで教会と関わりのないノースランドの人なのに驚いてくれてる。
「大聖女様には、ノースランドの奇病を解決していただいたのです。わが国は返し切れない恩を受けました」サロメさんがつと俺の説明をしてくれる。
「人が燃え、凍りつくあれですか」
「そうです。
その上、魔族や吸血鬼の脅威からも救って頂いたのです」
「本当ですか!」
俺は頷いて応えた。
「良かった…
あ、
申し訳ありません。
疑ったような言い方をしてしまいました」
「いえ、良いんですよ」
「本国と離れた地で働いているため
家族のいる本国で、もしもとか考えてしまうこともあって…」
「そうですね、ご心配されていたのですね。
もう大丈夫ですよ」
「はい。ありがとうございます」
「マチルダ嬢、その件でノースランドは教会に加盟することを決定いたしました。
教会への親書も持参しています。
大使にお会いできますか?」
挨拶が終わったのを見計らってサロメさんが要件を伝える。
「ノースランドが、教会にですか?」
「今回の件、魔族の件。一国では対処できなくなりました。
国際連盟にも加盟する方向で進んでいます」
「そうですか…
こちらで魔族の情報を得るたびに、ノースランドの今後を懸念していました。
ただ産業が、国としてアレなので諦めていたところだったので…
良かった」
マチルダさんはそう言って胸を撫で下ろした。
――ガヤガヤ
…ん何だ?
外から声が聞こえる。
「ここは大使館ですよ!」
「大使に伝えますのでお待ちください」
「軍隊を入れないで下さい!」
守衛の悲鳴のような声か?
んんん
みんな扉のほうを向いて様子を窺う。
「大使館は治外法権です、国際法に則って…」
「ノースランドは国際法も何も国際連盟に加盟して無いだろう!」
「そうですが、国同士の約束が!」
「人類の最重要案件だ直ぐに大使に会う必要がある!」
「しかしぃぃぃぃぃぃ!」
バタン
ドカドカドカドカドカ
勢いよく扉が開くと数十人の兵士が入ってきた。
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