第87話:なんで断定でいうんですかー!
ここで話を戻させてもらう。
巫女とは世界樹にとってどういう存在なのか。
聞いていなかったことだ。
どうしようもなく非人道的なことなら…
どうしよう…ということになる。俺的にね。
「お教え頂けますね?」
メルメルクルティエは、大きく息を吐いた。
「世界樹の役割は話したな」
「使用した魔素は有害な不活性魔素となり、世界樹はそれを活性魔素に変えるという話でしたね」
メルメルクルティエは頷いた。
奴隷商の一室。商談室に俺とサロメさん、エルウィン、メルメルクルティエ、ルルリザクルティエだけが集まっている。
そろそろエーナも呼んであげたい頃合いだ。きっと拗ねていることだろう。
「不活性魔素は、地域により一定ではないんだ。一定箇所に滞留しやすい特性を持っている」
ほう。
「世界樹は植物であるため能動的な処理ができない。巫女はその不活性魔素を感じることと、近隣の木の精に働きかけることができるんだ」
木の精に働きかける?
エルフが森の人、精霊といわれる所以なのかもしれない。
「それにより世界樹へのゲートが開き世界樹の特性をもった木に一時的になるんだ」
「能力が複製されるんですか?」
サロメさんが喰いついた。メモを取る手に力が入る。
「端的にいうとそうなるな」
…巫女の重要性はわかった…だけど。
「巫女はどの様な状態で、それを続けることになるんですか?」
「………」
「半仮死状態で眠りにつき、次の巫女が見つかるまで続きます」
メルメルクルティエが言葉に詰まると、ルルリザクルティエがこたえた。肉串を頬張りながら。
仮死状態…は、エルフの特性とはいえ、終わりの見えない眠りは辛かろう…
ブクブクな姿を見るとそんな憐憫も薄れるが…
「お役目に入るにあたり、今の世の中を見ておきたかった。だって、私の役目がどんな人達のためになるのかを知らなければ、何のためにという思いが残ってしまうから…」
まじめな答えが返ってくるとは思っていなかった…
「ルルリザクルティエさん…」
「私も辛い役目だとは思っている、代われるなら代わりたいとも。それはエルフ全体の思いだ」
メルメルクルティエがルルリザクルティエの肩に手を置く、表情は辛さそうだった。
「なんとかならないんですか?」
俺の問いにメルメルクルティエは首を振った。
「だが…お前も同じだろう」
メルメルクルティエが俺をじっと見る。
「同じ?私が?」
俺はメルメルクルティエのいうことがわからず聞き返す。
「聖女という役割の話だ。魔族との戦いに幼くして参加し、いつ終わるとも知れない戦いに命をかけているのだろう?」
「あ…」
そうか、そうだな…巫女の境遇と聖女の境遇、向き合う相手は違うが賭しているものに大きな違いはないのかも知れない。
誰かのために尽くす行為…尊いが、尊いのだが…
「我らは生きる以上、誰かのためにという気持ちがあって初めて己の存在を確認できる生き物なんだ。
母が子を、愛する人を慈しみ無償で守るように、自分の命より大事な存在を思えばこそ出来ることもある。
お前たちもそうなのではないのか?」
メルメルクルティエはそういった。
俺は…
俺もそうなのか?
「私は別にそんな人いないしー」
ぶった切るルルリザクルティエ。
ルルリザクルティエを除くその場の全員が頭を抱えた。
「…よし。メルメルクルティエさん。ルルリザクルティエさんを早く巫女の役目につかせましょう」
「ああそうだな」
雉も鳴かずば撃たれまいに…
豚だけど…
***
俺たちはエーナに平謝りすると、世界樹に向かって飛んでもらう。
エーナの「重いのじゃあ」聞きながら。
「大聖女様。私たちこのまま行って良いんですか?」
暫くするとおずおずとサロメさんが耳元で囁いた。
………
あ!忘れてた!
俺たち、殺されるんだっけ?
「エ、エ、エーナストップ。ストップ!」
「何事だ?」
メルメルクルティエが驚く。
「いえ、あはははは」
どうするどうする?
今更エルフを壊滅させたら、今までの努力が無駄だし…
「ステラさん。鳥の王です!」
エルウィンが声を上げる。
前方から小鳥のような黒い影が、あっという間にその威容を露わにして頭上を通り過ぎて行く。
わかり辛いかもしれないがノースロップ・グラマン B-2スピリットというアメリカの爆撃機。アメリカのイランへの攻撃で使われた黒い三角形の凧のような機体を、一廻り大きくした……ごめん例えが悪いね。
50メートルプールを一廻り大きくしたサイズの鳥の王はそのまま地上の平原に向かった。
着陸するようだったので俺達も追う。
『見事連れ帰ることに成功したみたいだな大聖女よ』
「はい、苦労いたしました」
『ルルリザクルティエよ、……随分美味しそうになったな…』
「ひっ」
ルルリザクルティエが頭を抱えて蹲る。
「喰わん喰わん、この歳だと脂身は身体に毒だからな」
あ、健康に気を使ってるんだ…
「鳥の王よどうしてこちらに?」
メルメルクルティエが鳥の王に聞く。
「そろそろ、大聖女を返さんとならないからな。お前たち二人を迎えに来た」
メルメルクルティエが俺の方を見る。
「大聖女ステラフィールよ、今回の件感謝する」
あれ?初めて名前で呼ばれた?
「感謝を受け取ります…
私たちを殺すのですか?」
黙って殺されるわけにはいかないんだが…
メルメルクルティエが首を振る。
「掟なのでは?」
「ん?なんだ殺されたいのか?」
俺たちは思いっきり首を横に振った。
「大聖女はこの世界に必要な存在なのだろう?巫女であるルルのように」
俺は頷く。
「今お前がこの世界からいなくなるのは、掟より上位の案件であると認識した」
そういってサロメさんとエルウィンを見る。
ああ、俺が教会の中にいるときに話をしてくれたのか…
俺は二人にお辞儀した。
「なのでお前が死ぬ寸前にでも来てくれ、掟を履行するために」
何それ延期しただけ?
まあ、いいか。
「それと、世界樹の場所だけは誰にもいうな。魔界の門を何度も開く人類だ。わかるな」
「わかりました、お約束します」
俺は、サロメさんを見る。
ビックリしたサロメさんは、俺を見つつ涙を溜めて、ことある毎に取っていたメモを取り出して俺に渡した。
俺はそれをメルメルクルティエに渡す。
「巫女はたまには目覚めるのですか?」
「ああ、任意に目覚めることができる。仮死による眠りといっても、不活性魔素探知や木の精との接触など活動状態だ、普通の仮死と違い定期的に栄養補給しないと干からびるからな」
「そうですか…遊びに行っても?」
「推奨できんが…」
「ルルリザクルティエさん」
「はい」
「たまに、人類の美味しいものを差し入れに行きます。頑張って下さい。このシステムについて何か良い方法がないかも考えますので」
「本当ですか!お待ちしています!」
俺の寿命だと何回行けるかわからないけど、希望を持ってくれれば嬉しい。巫女システムも色々考えてみたいと思う。
『大聖女よ、この羽根をやろう』
といって鳥の王は1枚の羽を嘴で取り俺に渡してくれる…
(うわぁあ!)
デカすぎるよ何メートルあるんだよ!優に3メートルあるぞ!
『お前が絶体絶命の危機に陥ったとき、この羽根を燃やしなさい。そうすれば、地の果てからでもお前を救いに駆けつけよう』
ありがたい、ありがたいが…こんなでかいもの持ち歩けない。
「すいません、小さい葛篭でお願いできませんか?」
俺の発言に鳥の王がとても悲しそうな目をする…
「あああ、ごめんなさい。でも、私の旅ではとてもではありませんが持ち運べません」
まあ、誰もがそう思うわけで、俺以外の冷ややかな視線が鳥の王に集中する。
『くっ時代か…』
いや、時代関係ないと思う。
『ならば、削り出して持って行け、残りは今ここで燃やしてくれ』
「申し訳ありません」
俺は頭を下げると、ナイフサイズに切り出し、残りは燃やした。
燻る煙が空高く登っていく。
それを見上げつつ、鳥の王に願う。
「いつか滅んだ人類の話を聞かせていただけませんか?」
『面白い話ではないぞ…それでもいいならきかせてやろう』
「ありがとうございます」
メルメルクルティエが俺の前に立つ。
睨んでいるような、そうでないような複雑な表情を浮かべている。
「今回の件には、本当に感謝している。私個人としてもエルフとしてもだ。何かあれば力にもなりたいと思う」
あのメルメルクルティエからの再度の感謝の言葉。
「メルメルクルティエさん。そのお気持ちは先ほど十分受け取りました。ありがとうございます。 エルフに危機があれば呼んでください。私も駆けつけます」
見つめ合い握手を交わす。
俺たちはこのままエーナに乗り帝都に向かうことになる。
メルメルクルティエとルルリザクルティエは、鳥の王に掴まれ世界樹に戻る。
『お前はこの時代において特別な存在だ。良きも悪きも全てお前に集まるようになっている』
鳥の王が思い出したように呟く。
(え?)
『普通の生を全う出来んかもしれんが、助ける者も多い頑張れよ』
(ええええ?)
「なんで断定でいうんですかー!」
お読みいただき有難う御座います。
評価・ブックマーク・感想・レビューなどアクション頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




