第86話:裏切り者ー
「既に皇都には連絡を送りました、近隣の教会からは人員を送ってもらうよう手配しました」
先ほどの館から、表の顔の奴隷商の館に移動し、スネルの書斎らしき部屋に陣取った。
「そうですか、ありがとうございます」
「領主はどうしますか?」
広げられた地図に目を落とすと、司祭が聞いてきた。
「罪は重いですが、多くの人心に係る事案ではないので捕縛、調書の上、買戻と十分な手当てを保証させるくらいが落としどころでしょう」
「そうですね、領主館は人数不足でまだ突入できず現在監視だけしております」
「適切な指揮です。後ほど私も参ります、そのときに」
「畏まりました
繋がりある衛兵は如何致しますか?」
「逃げ出したものは捕縛を、それ以外は増員を待って…いえ、基本的には帝国の部署に任せましょう。
逃げるものだけ押さえてください」
「畏まりました」
テキパキと指示を出す俺を、サロメさん、エルウィン、メルメルクルティエが横で眺めている。
メルメルクルティエの酩酊状態は、俺の浄化魔法で覚醒させた。
司祭はいまの内容を、部下のシスターに伝えている。
「メルメルクルティエさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…」
俺が声をかけると、そういって俺の顔をじっと見る。
「私の顔に何か?」
「いや、なんでもない。
それより、ルルリザクルティエは?ルルはどうなった」
「今捜索させています」
無実の奴隷を作っていた奴隷商を押さえたからといって、奴隷全部を解放するわけには行かない。
本当の犯罪奴隷や、借金奴隷、自ら奴隷を希望したものなどもいるからだ。というかそっちが多いだろ普通。
真っ当な奴隷は、あの紳士的なドアマンのいた奴隷商に管理をお願いしたいな…
「エルフが発見されました!」
駆け込んできたシスターが報告する。
俺は、メルメルクルティエと目を合わせる。
「無事ですか?」
「はい、健康状態に問題はありません…が」
「が?」
シスターが困った顔をする。
「お連れしますか?」
「…いえ、案内してくださいますか?」
メルメルクルティエとサロメさん、エルウィン連れ立ってシスターに案内してもらう。場所は表の奴隷商館の3階だった。
鍵を開け扉を開けてもらう。
「ルルリザクルティエ!」
メルメルクルティエが明るい部屋の中の人影に声をかける。
「メル姉さん…」
振り向いた人影はそうメルメルクルティエを呼んだ。
部屋に静寂が落ちる、感動のシーン…
......…
……
…
「…ルルなんだその姿は…」
静寂を破ったのは、メルメルクルティエ。
無理もない。
そこにいた人物は、確かにメルメルクルティエに顔が瓜二つ、だが体型が横に2倍のドワーフだった。
いやエルフには違いないけど…
(えー!スネル。商品管理できてないじゃん。なんで来たときにいくら見せてといっても見せなかったのかと思ったら、こういうことか!)
サロメさんもエルウィンも驚いて声が出ない。
「なんで、メル姉さんがここに…」
「巫女たるお前を連れ戻しに来たに決まってるだろう」
「嫌よ、私はここで暮らすのよ。葉っぱや木の皮を食べるような生活はごめんよ!」
え?エルフの生態ってそうなの?
サロメさんを見るとしきりにメモをとっている。
「それだけじゃないだろ。木の実だって果物だって兎だって食べてるだろう。ただでさえにお前は巫女ということで私より良いものを与えられていたはずだ」
メルメルクルティエがチラチラこちらを窺いながらルルリザクルティエを説得する。
「メル姉さん」
「なんだ?」
「ここには、見たこともない美味しいものがいっぱいあるのよ」
「お前は…それには通貨というものが必要なんだ」
「ここにいればなんでも食べさせてくれるのよ!」
「それは…お前を商品として売るためだ」
「食べられるならそれもわるくないわ」
「いや、別にスネルも養豚する気はなかったと思いますよ」
エルフの扱いを間違えたんだろうな。
「養豚!豚さんも美味しいわ。今夜食べさせてもらいましょう」
そういえば、20件の無銭飲食っていってたっけ…
そっちは本当だったんだろうな。
「メルメルクルティエさん、後は姉妹で解決願えますか?」
「なに!お前私を見捨てるのか?」
いや、見捨てるって…ああた。
「領主を捕まえなければいけないので…」
もうルルリザクルティエは、俺の裁量でどうとでも出来るだろうから問題ないはずだ。無銭飲食代なら立替えても良い。
「いや。ねえ。助けて」
メルメルクルティエが俺にしがみつく。
いや、どうにも出来ないよエルフの問題だよ。
俺が助けてほしいよ。
「すみません、直ぐに戻りますので。
サロメさんエルウィンさん。行きますよ」
「ハイハイ」
「お供します」
「裏切り者ー」
メルメルクルティエの絶叫。
裏切ってないし。
***
領主館の前に陣取る、シスター軍団。
対するは、衛兵部隊。
数は圧倒的にシスター軍団が少ない。当たり前だ。街に詰めた教会の諜報部隊だけだからそんなにいるわけがない。
なので俺が出る。
援軍を待っていては時間がどんどん消費されてしまう、それは拙い。マリア案件的に…
「領主ブリザック子爵。私は今代の大聖女ステラフィール・ローゼマイヤーです!」
「大聖女?」
「フィール王国の?」
「歴代最強と名高い?」
「大聖女を害すれば子爵は爵位を失うぞ」
ざわめきが起こる。
「穏便に話し合いを持ちたく思います。
お通し頂けませんか!」
「直ぐに取り次いで参ります!」
隊長と思しき者が、俺に礼を取ると声を張り上げ館に向かった。
「流石です大聖女様…」
司祭が声を震わせる
程なく、衛兵の隊長が、衛兵に指示を出し俺のもとに駆け寄ると、膝を着いた。
「子爵がお会いいたします、ご足労頂けますでしょうか」
俺は頷くと、隊長に続いて歩き始める。
衛兵は左右に分かれ敬礼の姿勢のまま俺たちを見送る。
「他国の、しかも辺境の都市にまでこんなに威光が知れ渡っているなんて…」
「すごいです。ステラさん」
サロメさんとエルウィンが感嘆の声を漏らす。
領主との会談は俺の考えを、領主が受け入れるかたちで蹴りをつけた。
この落としどころでないと、血が流れかねないことは俺も領主も理解していたからだ。
領主の約束の履行は、教会が責任を以て監視する。
さて、メル、ルルの話はついただろうか?
お読みいただき有難う御座います。
評価・ブックマーク・感想・レビューなどアクション頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




