第78話:理解できんな
木漏れ日も眩しく、新緑の葉を透かし輝いていた。
そのため視界は悪くない。
世界樹に飛び込んだ鳥を追っている。
幹にほど近い場所に鳥は着地した。
巨大な筈の鳥が、この木の中だと小鳥のように見えるから不思議だ。
「巣です」
「巣ですね」
少し奥まりすぎている気もするが、あの鳥の生態もわからんしな…
「エーナ」
俺が名前を呼ぶとエーナは速度と高度を落とし巣に近づいていく。
「見つかったら餌になったりしませんよね?」
「……」
「大聖女様なんで黙るんですか!」
いや可能性が高すぎて…
「だだだだ大丈夫ですよ、私が守ります」
「信じます」
「……」
「大聖女様なんで黙るんですか!」
「いえ、なんでもないです。信じてくれてありがとうございます」
今の俺にとってサロメさんは幾つも年上だが、いい娘だと思ったのは内緒だ。
さて、追ってきた目的の男だが、着地した後直ぐに放り投げたらしく、巣に転がされていた。
そして鳥はそれを眺めている風情だった。
「どういう状況でしょうか?」
サロメさんが囁く。
「なんか様子を伺うというか、待ってる感じですね」
「待つ?」
エルウィンさんの言葉に首を傾げる。
「ステラさん、あの人エルフ(森人)です」
(エルフ?)
エルウィンさんが気づく。
なんとレアキャラじゃないか…
伝説とまではいかないが、吸血鬼並みにエンカウントが少ない。
吸血鬼の耳は上に向かって尖った感じで、エルフは横に広がる尖った耳をしている。
どちらも美形で有名な種族だ。
『じゃが男じゃぞ』
おれの心を読んだようにエーナが呟く。
そうだった…
「助けますか?」
「やまやまですが、鳥が見ているので…」
仮死状態なので、目を覚まさない。
誰かが起動しないと、このままだ。
…
『そこの隠れている人間よ!』
突然、頭に直接声が届く…
超常感のある声色。鳥がこちらを向く。
見えていないはずだが、完全に知覚されている。
「何時からですか?」
『雲の中から』
サロメさんもエルウィンも、エーナさえ声を発しない。射竦められている。
俺は一つ息を吐くと、不可視の魔法を解除した。
『ほう…人の娘が三人と、ユニコーンの怪異か』
「貴方は何者ですか?神か神に近い存在な気がしますが…」
「「神?」」サロメさんとエルウィンが驚く。
『神ではないな。
悠久の時を見てきた傍観者、遥か未来を見通す知恵者。鳥の王とは呼ばれているが…』
規格外の鳥だ、唯の鳥であるわけがないと思っていた。
いってることからすると、地球のイランの神話に出てくる霊長シームルグの親戚かな?
「治癒とかできて、世界樹の番人だったりもしますか?」
『羽には治癒の力がある。世界樹…番人などしとらんよ』
「ご存じなんですか?」
「いいえ…昔読んだ本に書かれた伝説の存在かと思いまして…」
「どんな存在なんですか?」
「巨大な鳥の姿で描かれる神獣で、その能力には数多くの神秘的な力があって。
曰くあらゆる知識を持つ
曰く未来を見通す
曰く人間の言葉を理解する
曰く病気や傷を癒やす
曰く羽を一枚燃やすと遠くから飛来して助けてくれる
曰く善なる者を導く
という存在だと記憶しています」
「善性の存在なんですか?」とサロメさん。
『長生きなだけの存在よの』
「お幾つなんですか?」
『人類の歴史を何度も見てきた程度かのう』
「何度も?」
『既にこの世界の人類など何度も滅んでおるからのう。今の人類などまだ数千年しか経っとらん』
「「「……」」」
(壮大すぎてわけわからん)
「その…その間、お一人で?」
『いや、コイツラがおった』
そういって嘴でエルフを突っつく。
「エルフが?」
『コイツラも寿命が長く、熱い寒いの気候になっても仮死状態でやり過ごす種族だからな…』
(え?そうなの?)
『コイツラがこの木を守っている番人だ』
「動くな!」
「何!」
「キャア」
サロメさんとエルウィンが制止の声に驚く。
声がした方を見ると巣のヘリに大勢のエルフが弓を引き絞るもの。魔法を詠唱しているものもいた。
「貴様ら何者だ!」
エルフの女が誰何してくる。
繊細な金色の髪に、均整のとれた顔立ち。長い髪。
華奢とも思える体躯。日本人が想像する美少女系のエルフだ。
くっ、俺のほうが綺麗なんだから…!
「私たちは、帝国に向かう途中、そこのエルフが巨鳥に連れられていくのを目撃し、救助のため追いかけてきました」
「人間が?見ず知らずの者を助ける?」
問うたエルフが訝しむ。
「そんなこと有り得ない!」
「嘘をつくな!」
「エルフを売るつもりだな!」
「ここを知られた以上生きて返れると思うな!」
他のエルフが口々に否定する。
「大聖女様…」
「嘘ではありません。私は聖職者です」
サロメさんが私の服を掴み、俺は手を重ねる。
「聖職者だと!一番信用できん!」
男のエルフが叫ぶ。
聖職者と何があったお前!
「私は、大聖女の称号を戴き。異界の魔王、魔族と戦っているものです」
「なんだと」
「魔族だと…」
「魔族?」
「何回目だ?」
「また、門を開けた奴がいたのか」
「何故人族は自分で閉められんものを開けるんだ」
「理解できんな」
(あれ?反応が斜め上?)
恐れでなく呆れの反応が返ってきた。
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