第77話:凄い綺麗です
「明るくなってきました」
俺は前方を見てそういう。
前方の雲が明るく光に照らされているのがわかる。
エルウィンのガイドとホーリーブリトの反響音を使ったアクティブソナーで上へ上へと上昇を続けた。
羽ばたきがいつまでも上から聞こえたためだ。
キラキラと光る光の粒を押しのけて、エーナはついに雲海を抜け出た。
光輝く世界だった、下には汚れを知らないような真っ白な雲の絨毯が見える。
「凄い綺麗です」とエルウィンさん。
「雲の上に来られるとか信じられません。
ノースランドはそんなに高い山がないので…
雲は、山にかかった雲や霧で、水循環による水滴だろうなとは思っていましたが、何故水が浮くのとかはまだ解明されてもいないんです」とサロメさん。どちらも感動されている。
「ああ、それは飽和水蒸気量と断熱冷却かな…」
「なんですか、それは」
とサロメさんが可愛く聞いてくる。
「暖かい空気ほど水蒸気を多く蓄えられることと、気圧が下がると、温度が下がって水蒸気が水滴に変わるという熱力学的な…あと上昇気流とか?」
「えええ、大聖女様凄い!」
「え、あ、いや…きょ、教会の教えです」
ヤヴァい、こんな知識まだ無かったの?
「ええっ!
大陸の教会ではそこまでわかってるんですか?教会は全て神の御業にしてしまうのかと思ってました…
人を煽動するには、進んだ知識があって、その上で嘘で騙すんですね。
ふむふむ」
(あれ?結構辛辣な言葉が…)
「ステラさん。あそこ!」
エルウィンの指さす先。
雲スレスレを翼を大きく広げて巨鳥が優雅に滑空していた。
大きい。間近で見てわかった、全長が25メートル、車5台分。翼長は60メートルはある。シルエットは鷹に酷似している。
「どこに行くんでしょうか?」
あいつ、あのデカい身体を上昇させるのに、鷹や鷲のように雲の上昇気流を利用したのか?
海に面した崖にかかったぶ厚い雲は上昇気流の塊だ。
俺たちも楽な分掻き回せれて苦労した。
「不味いです、どこまで行くのかわからなくなりました」俺は声を上げる。
最初は、崖の何処かか、崖の上が目的地と思ったんだけど、上昇が目的なら話は変わってくる。
「大聖女様…」
「…はい、サロメさん」
「掴まれている方…生身ですけど大丈夫なんでしょうか…」
…全然大丈夫くない気がする。
高度は3000メートルを越えている。
大体気温は100メートル毎に約0.65度下がる。
約というのは湿度によって変わるからだ。
だけどさっきの雲は不透明高層雲だと思うんで丁度0.65度くらいだろう、うん。
地上温度が13度だとすると、マイナス6.5度、しかも速度がある、風速1メートル毎に体感で1度下がるから…怖!
しかも、空気の薄さは地上の70%…
生きてるかなあ…
「大型猛禽類や小鳥など足を羽毛に格納して飛ぶ鳥がいます。体温も鳥は高いのでそれなら温度はなんとかなるかもしれません」
ああ、水鳥とかだとぶらんと足を後ろに靡かせるけど、雀とか格納するな…
富士山をTシャツ短パンサンダルのノーガードで登る人もいるしなんとかなるか?
早く助けたいのはやまやまだが、如何せん大きすぎる。
下手に攻撃して、足を離されても助けられない。
だって…
「エーナ…」
『男は乗せんからな!ユニコーンの矜持じゃ察してくれなのじゃ』
だよねー
「降りるまで追いかけましょう…
エーナ。一回あの鳥の下。足元に近づいてみて」
『襲われたりしないかのう…いやじゃのう』
不承不承エーナは、高度を下げて鳥に近づく。
「《インビジブル》」
俺は不可視の魔法を唱える。
「あれ?大聖女さ…キャー!落ちる!落ちる!」
サロメさんが悲鳴を上げた。
「ご、ごめんなさい、不可視の魔法をかけました、足下に何も見えないかもしれないけど、エーナに乗ってますから安心して。しっかり私に掴まってて下さい」
「は、は、はい!」
「エルウィンさんは大丈夫ですか?」
「何かあれば別に飛べますから…」
(そうでしたね)
「これなら謎飛行で蹄の音のしないエーナなら気付かれないはずです」
『それでどうするつもりなんじゃ?』
鳥の下に近づいたエーナが問いかけてくる。
「《アスフィクシア》」
「それは何の魔法ですか?」とサロメさん。
やばい状況の人にしか効かない「仮死状態にする延命に近い魔法です。こうすれば必要な酸素の量も減らせるんです」これでなんとかなる、なる…かなあ。
「なるほど、流石です。仮死状態なら生命活動に必要最低限の酸素供給で良くなりますものね」
ほかに思いつかんし…サロメさんが喜んでくれたから良いや。
それから、小一時間ほど飛んだだろうか…
未だ雲海は続いていた。そしてその雲海に巨大な木が見えてきた。
モンキーポッド(この木何の木)に良く似ている。
最初は雲海に浮かぶ島かと思ったくらいだった。
「世界樹…」
「え?」
サロメさんの呟きに問いかける。
「たぶん…世界に八本あるといわれている、世界樹の一つです…」
「世界樹…目撃情報すらなく物語の中だけで語られている伝説だと思ってましたが…」
「私もです。ですが雲海に隠れ、その頂を見れる条件でないとわからないとしたら…誰にもわからない」
世界樹、教会でも伝説扱いで、天を支える木。神の住まう場所。冥界へ繋がっているなどと言われている。
天には聳えているけど支えてはいない。神も流石にいないだろう。
「鳥があの木に入ります」
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