第76話:なんかとってもヤバい状況?
「もう直ぐ、帝国の北端が見えてくるはずです」
サロメさんの声が耳元を擽る。
年齢順、身長順に並んで座っているからだけど。
エルウィンさんって幾つだろう?
勝手に年上だと思ってるけど、年下とか倍以上とかありえるから聞くのが怖い。
『陸地になったら少し休みたいのじゃ。身体もベトベトして気持ち悪いのじゃ』
エーナがそう切り出した。
ふむ
まあ、海の上を飛んできたし当然か。
「そうですね、帝国に入ったら川か湖で休みましょう」
「賛成です」
「私も休みたかったところです」
全員賛成。あたりまえだね。
かく言う俺も同じ気持ちだった。
お尻も痛いし、空で三人乗りだと姿勢も変えられないから結構キツイ。
程なくして大陸の影が見えてきた。
俺たちの侵入を阻むかのように切り立った黒い壁のような険しい崖が立ち塞がっていた。
(ってか、何この高さ!)
頂点が見えない、雲の先で隠れてる感じだ。1000メートルどころか2000メートル近くないか?
「よ、夜飛んでたらぶつかってませんか…これ?」
エルウィンさんも驚く。
『ああああ、危ないところだったのじゃ』
「船のときは、もっと南のなだらかな港に向かいます…
船からは何時も霞がかかっていて…このようになっているとは。
新しい発見です!」
何故喜ぶ!ああ研究者の性か…
『で、ど、どうするんじゃ!これ超えるのかえ?』
「サロメさん。これ越えない場合には、時間に変化ありますか?」
「そうですね…1日位でしょうか」
うーん、うーん。
「エーナどう?いける?」
『行けるとは思うが上がどうなっているかわからんのじゃ。途中から無視界飛行になるぞえ』
「よし!迂回しましょう!」
まあ、冒険譚的にどうなのっていう決断だけど、そこはそれ。冒険譚じゃないし俺一人でもないからね命大事に行きましょう。
「エーナ迂回にするわ、右に向かっ…」
アァーーーッ
「ステラさん、右から大きな鳥さんが来るわ」
「そうですね…」
指さすエルウィンさんに、応える。
「なんか掴んでませんか?」
「そうですね…」
手庇するサロメさんに、応える。
『人のようじゃな』
「男性のようです…」
エーナに、応える。
目に入って直ぐに気づいたよ。
急いでる時に限って色々起こるんだよね。
『無視するのかの?』
流石に大聖女を名乗っていて、それは出来ない…
「助けましょう…」
『不本意そうじゃのう』
「そ、そんなことないもん」
「雲海に入っていきますよ!」
サロメさんが叫ぶ。
「エーナ!」
『わかった。無視界になるからな覚悟すのじゃぞ』
雲の中に突入する。
ボッボッボボボボボボボボボボボボボボォ
(んな)
雲に入った途端に…雨粒の中を通るような感じになった。
当たり前だけど失念してた。
「わぁわぁ凄い凄い」
サロメさんが喜び始めた。可愛い。
『嫁よ!重い重いのじゃぁ速度がでん!」
魔法で空気の層を作っているために抵抗が増えている?
「あの鳥は大丈夫なの?」
「鳥は飛ぶのに特化した生き物ですからね、羽も超撥水ですし」
サロメさんが呆れたようにいう。
「謎に飛んでるけど、馬だものね…」
『ユニコーンじゃ!』
「このままでは不味くありませんか?」
エルウィンさんが至極真っ当なことをいう。
『嫁よ、ヤバイのじゃ』
「エーナどうしたの?」
『右も左も上も下もわからなくなってきたのじゃ。目が回るのじゃ』
「空間失調!エ、エ、エーナ。ストップ!一回止まりましょう」
「大聖女様。今止まって、変な角度だったら落ちたりしませんか?」
「え、今って変な角度なの?」
「走ってるときは遠心力や、なんとなく慣性で大丈夫でも、止まるとどうなるか…」
「サロメさん…なんかとってもヤバい状況?」
「あの…」
申し訳なさそうにエルウィンさんが手を上げている。
「エルウィンさん?」
「私なんとなくですけど、地上と北がわかります」
「「『え?』」」
「下があっちで北があっちです」
(……)
「なんで?わかるの」
「血が教えてくれるような気がします」
……
鳥は微弱な磁場をとらえているという。
エルウィンさんは吸血鬼だ。超高エネルギー生命体で、血液や筋肉が特殊な組成。金属イオンなどを大量に含んだ、極めて電気伝導率が高い存在なのかもしれない。
…たぶん
地磁気や重力子の流れを、まるで超伝導センサーのように拾い上げてくれるなら…
「エルウィンさんエーナに指示して上げてください」
「は、はい。えーと。現在は仰角20度、方位角110度ですが大きく右に旋回中です。傾斜角…80度?」
「ほぼ横になってるの?速度と高度は?」
「速度と高度まではわかりません」
まあそうだろう。
「エーナ。取り敢えず、速度角度をゼロにしましょう。ゆっくりね」
『お、おうなのじゃ』
「まだです」
「行き過ぎです」
「下がってます」
「水平です…」
視界のない中、エルウィンさんに従う。
四苦八苦しつつ誰も落ちずに、なんとか制止に漕ぎ着けた。
「鳥はどうなったでしょうね」とサロメさん。
高度は約1000メートル…
これは俺のエンジェルイヤーの活用だ。ホーリーブリトを撃って、衝突音を聞き取ってみた。
ザックリだけどね。
「わ、私たちは力の限り頑張りました」サロメさんが気落ちしたそうな俺を慰めてくれる。
優しい…
「大丈夫です。見失っていません。」
そう、羽ばたきが聞こえている。雨音に邪魔されてはいるが捉えている。
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