第75話:僕にもそうなれる力がある筈なのだから
「大聖女。そなたはこの国の英雄だ、永劫その功績を称えよう」
「ありがとうございます」
邪神の紋章廃棄令から今日で3日目、どうあっても紋章を捨てなかった者を除き事件は終息を見せていた。
そして立ち去るのに当たり俺は市民の前に英雄、救世主として姿を現すことになった。
王城の庭には市民も騎士も集められ。城のバルコニーで俺は女王より感謝の言葉を頂く。
こんなことに付き合っているのは、魔族と吸血鬼族の脅威からノースランドを守るためだ。
今後ノースランドは社会構造、産業構造を変え、教会や国家連盟に加入するという大転換が必要になる。
俺に救われたという事実を喧伝し道筋を立てる必要があるといわれれば付き合わざるを得ない。
「大聖女!」 「大聖女!」
「大聖女!」 「大聖女!」
「大聖女!」 「ステラ!」
悲しいかなそれが政治なのよね。
まあ、まあいい。
なんとなく勝手にこんなことして後で怒られそうな気もしてるけど。
***
「それでは女王。これで失礼致します」
「ああ、いつでも寄ってくれ。そして我らの力が欲しい時はいってくれ必ず馳せ参じよう」
「私も同じです。危機のときはお呼びください」
そういって固く握手を交わした。
宮廷魔術師ギリクさん、医師マルクさん。見分けがつかない二人には軽く挨拶を交わし。
神殿の巫女ジゼルさんは、俺の横にエルウィンがいるため近寄らなかった。
取り敢えず手を振ったら振り返してくれたからまあいいや…
宮廷占術師ミロクさん。
「ミロクさん。また会いましょう」
「また逢えると占術にも出ているよ」
「はい、そのときは色々話したいと思います」
「うん、うん待っておるよ。気をつけてな」
ミロクさんにはいつか全てを話すだろう。そんな気がしている。
そして、
錬金術師サロメさん。
お持ち帰りすることにしました。
いや気に入ってるのもあるけど、実際は帝国迄の道案内をお願いしました。
だってこのまま、エーナと飛び立つと迷子になるの見えてるじゃん。
「サロメさんこれから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ああ、なんかこの反応は癒される。
もう一人お持ち帰りはエルウィンさん。ここに一人残すわけにいかないじゃん。
エルウィンさんは現在デイウォーカーだ。
今回の紋章事件でUVカット効果のある魔方陣を描いたペンダントとか造れないかと思って、サロメさんにも手伝って貰って完成させた。
そのペンダントはエルウィンさんの胸元で燦然と輝いている。
「どうですか?そのペンダント」
「はいとても綺麗で気に入りました。その…ペンダントは吸血鬼族では婚約の…」
「さあ、エーナ行こうか」
トランスフォームしたエーナに腰かけ、俺は見送ってくれるみんなに手を振って別れを告げた。
5日遅れでマリアたちを追いかけることになる。
急ごう。
『嫁が増えた気がして嬉しいのじゃ』
(別に増えてないからね)
***
ステラさんと別れた後の航海は、魔族も魔物も現れることがなく、天候にも恵まれて順風満帆で予定よりも早く帝国の西南端の港街に着くことが出来た。
本当であれば、僕はステラさんに付いて行きたかった。
だが、彼女を守る力がまだないことも知っている。
そういう意味ではマキシミリアンさんだって同じ気持ちであっただろう。いや…たぶんここに揃った人は全員そう思っていたはずだ。
「惺、どうしたの?」
波止場で遠ざかるステラフィール号を眺めながら物思いに耽っていると、紫ちゃんが声を掛けてきた。
「いや、今頃ステラさんはどうしているかと思って」
「今頃はもう解決しているかもしれないね
ステラさん力を隠してるつもりっぽいけどダダ洩れだものね」
「それいうとたぶん傷つくから内緒だよ」
「惺さん、紫さん。馬車を調達出来ました。出立しますよ!」
マリアさんが、馬車の御車席から立ち上がって叫んでいる。
「「はーい!」」
「マリアさんも、王女様なのに凄いよね何でもこなして」
紫ちゃんが、マリアさんを見てつと漏らした。
「本当だね、シャルさんも、グレースさんも11歳から聖女で戦っているんだものね。いくら住んでいた世界が違うといっても…なんか切なく感じるときがあるよ」
心が騒ぐ、色々やるせない気持ちが膨らんでいる。
今の力のない自分がもどかしい。
「早く異界の扉を締めて終わらせてあげないとね」
「ああ。頑張ろう」
僕は紫ちゃんの手を取ってみんなの待つ馬車に向かって歩き出した。
強くならなければ、ステラさんに想いを伝えることもできない。
出来ればいつも隣で守ってあげられる男になりたい。
俺はもう一度振り返りステラさんの向かった海を眺めた。
僕にもそうなれる力がある筈なのだから…
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