第74話:嫌です!
「えーと、どこまで話しましたでしょうか?」
「吸血鬼と魔族が居たところまでじゃ」
ミロクさんが遠い…
「そうでしたね。ここで人類存亡に関わる大きな問題が発生しました、エルウィンさん」
「はい、まず自己紹介を、吸血鬼族のエルウィンと申します。元王子の婚約者です」
「元とは?」女王が眉根を寄せる。
「国の方針に異を唱え反抗したためです」
「反抗?」
「吸血鬼族は魔族と手を組みました。それを由としなかったからです」
「なんだと!」
「そ、そんな。神よ」
「人類はどこにいようともうダメなんじゃないか」
「吸血鬼は魔族と違って寒さに影響を受けません。もし吸血鬼が参戦すれば、この島も安全ではありません」
俺はこの国のこれからの現状を憂いた。
「どうすればいい?」
女王が苦しそうに問う。
「私がここに呼ばれるときにでた話ですが、教会や他国との協調を急いで進めてください。
そして防御のための軍備を」
「教会は了解した…約束だからな。
だが、他国とはどうなるか、それに産業の問題も」
「産業は海運と造船で良くないですか?」
「海運?造船?」
「そうです、大陸では魔族との戦争で物資輸送兵員輸送が不足しています。また、上空から見たノースランドの船は大きく造船技術があると思いました。近代的な装備や仕様を取り入れれば売れるはずです。勿論大陸の既存造船業を潰さない程度でお願いしますが…」
「そんなことが可能なのか?」
「それと過去の清算は、魔族との戦いの今、先延ばしにして貰いましょう。その間に貢献すればチャラ…コホン、無くして頂けるかもしれません。それで良ければ私も一筆入れさせて頂きます」
「そこまでしてくれるのか?」
「戦時ですので」
「す、直ぐに緊急会議を開く、侍従急げ」
「は、はは」
他の出席者も席を立つ。
「ちょ、ちょ、ちょと待ってください!」
急すぎる動きに舌を巻くが、待ったをかける。
「なんだ、どうした大聖女?」
「私がそもそも、ここに来た理由の方です」
「お、お、おおおおお」
(忘れてたな)
「何かわかったのか?」
「サロメさんが調査してくださった水質、土壌には問題が見つかりませんでした」
「そうか」
予想通りなのだろう。声は落ちたがショックを受けてはいないようだ。
「ミロクさんには、発生元を占術で視て貰ったのですが…」
「何もわからんかったよ」
ミロクさんがそう続けてくれた。
「それで、大聖女は何かわかったのか?」
女王が訪ねてくる。
「ジゼルさんちょっと来て頂けますか?」
俺は神殿巫女のジゼルさんを呼ぶ。
「え、やだ」
「「「「……」」」」
会場が静まり返った。
「見て貰いたい物があるんですが…」
「だ、だって…」
どうやらエルウィンを怖がっているらしい。
「え、なに?」
そんなジゼルさんが羽交い締めにされる。
「え、え、サロメ?
ちょ、ちょっとやめて」
ジゼルさんはそのまま、ズルズルとサロメさんに引きずられ俺の元まで運ばれてきた。
「サロメ!何してくれてるのよ!」
サロメは去り際、俺に親指を立てていった。
(GJ)
「ジゼルさんこれを見てください」
諦めたのか、髪を掻き上げ俺が机に広げたものを見てくれた。
「これが何か?」
ジゼルさんは小首を傾げる。知っているようだ。
俺が広げたのは、焼け跡で見つけた、木の板と、服の切れ端だった。それには氷室の神像に描かれた文様が描かれていた。
「これは、この島の古い邪神系の文様です」
「この文様を描くと何かご利益とか効能とかあるんですか?」
「んー、寒さを凌ぐ効能がある文様で、良く用いられています。寒い国ですので」
「実際効能もあるんですか?」
「そうですね、衣類や入れ墨にこの文様があると寒さを感じなくなると聞いています」
「昔からですか?」
「はい、昔から伝わっています。ですが邪神系なので流行り廃りはあります」
「マルクさん。死亡した方にこの文様はありませんでしたか?衣類や入れ墨、何でも良いです」
「んー焼死は確認できなかったが、凍死の検死では見かけた気もするね。全員かまではわからないけど」
「その文様がどうかしたのか大聖女殿」
ミロクさんが遠くから聞いてきた。
「ミロクさんとサロメさんを連れてエーナに乗ったとき、寒さと風を避けるために空気の層を造る魔法を掛けたのを覚えていますか?」
「ああ、寒さを感じなかったな」
「この文様、たぶん同じ効能があります」
「神の奇跡ですか?」
「そうですね神聖式の魔法陣に近いです。神の力を顕現するので、魔法ではないのですが…」
「その分、魔力の感知ができんのか?」
宮廷魔術師のギリクさんが発言する。
「はい」
「でも、空気の層で暖を取るだけなのだろう?」
「そうですね、空気っていうのは。サロメさんお願いします」
「え、はい。
だいたい窒素8割、酸素2割他に微量のアルゴン、二酸化炭素、ヘリウムなどで構成されているのが空気です」
「そのうち、空気の層の中の酸素が多くなりすぎると?」
「ちょっとした静電気でも燃えてしまいます…
しかも、空気の層がある限り水の中でも燃え続ける…」
サロメさんの声がどんどん小さくなる。
ザワ
会場がざわめく。
「酸素が満たされた中で、もしそれが勢い良く抜けると、人間の身体は血液が沸騰して干からび瞬間的に熱が奪われ凍結します」
俺は後を続ける。
「なんだと」
「そんなバカな」
「病気じゃないのか?」
「たぶん最初の村で、文様が流行ったのでしょう。そこから広がっていき王都まで。
だから、調査団の通ったルートは流行り始めた順番に被害者が多いのだと思います」
「それじゃあ…」
「直ぐにこの文様を破棄するように全土にご命令ください、入れ墨は消してください」
「わかった、侍従!急げ!この中にも持ってる者がいれば直ぐに破棄しろ!」
***
「魔法でも病気でも呪いでも毒でもなく、まさか、神の介在とはな…」
俺が、城のバルコニーで一息入れているとミロクが話しかけてきた。
「神様も色々いますし、文様の線一本でも間違えればこうなります」
「もう行くのか?」
「流石に二、三日は残って様子を見なければいけないとは思っています。それと連盟に入るならその助言も」
「大聖女殿は大変じゃのう」
「私ももっと楽をしたいと思っているのですが…」
「神がな、いうとった」
「なんと?」
「任せたと」
「はぁ!?」
(なんだよそれ!)
「ジゼルさんじゃないけど、嫌です!」
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