第73話:躾けられたワンコみたいなものです
早朝
氷室の洞窟を出ると、万年雪を纏った山々に朝日が反射しキラキラと輝いていた。
俺は、洞窟を後にすると、エーナが迎えに来てくれるだろう村へと戻る。
朝日を浴びて明るい今、村をよく見ると、うず高い燃え残りもあり、エーナを持つ間、俺は家屋の燃え残りを調べることにした。
木の板や刺繍のようなもの、そういう細々したものは幾つか原型を留めているものもあった。
「何をお探しなんですか?」
俺の行動にエルウィンが問いかけてくる。
エルウィンの姿は本来、薄く青みがかっている肌をしているが、今は健康的な肌色をしていて、太陽の光を浴びてはしゃいでいる。
俺の魔法で、身体に空気の層を造りUV-AとUV-B、つまり280nmから400nmの波長を吸収する聖魔法の術式を組んで纏わせているためだ。
意図していなかった相乗効果もあって。紫に近い光を吸収するため、透過してくる光はわずかに黄色から薄橙色を帯びて、良い感じに肌色に見えるのだ。
耳の形以外では人間と変わらないエルウィンが出来上がった。エルウィンは花が咲き乱れるような笑顔をしていた…
くっ、俺の方が俺の方か…
「き、昨日、調べられなかったことを調べています。
ちょっと思いついたこともあるので」
「何かお手伝い出来ますか?」
「いえ、もう十分ですよ。
丁度、迎えも来たみたいです」
俺は太陽の昇る方向を見ると、太陽を背に近づく影が見えた、そうエーナだ。
『嫁―嫁は無事かーーーーッ』
俺は昨夜見送ったように手を振って応えた。
***
「大聖女殿、無事で良かった」
「心配しました」
王城に着くと、ミロクさんとサロメさんが迎えてくれた。
サロメさんが目に涙を溜めてくれているのがメッチャ嬉しい。
「お二人も無事でなによりです」
(奴らは飛べるから少し心配だったんだ。何事もなくて本当に良かった)
「ミロクさん会議を開いて頂けますか」
「昨日の報告じゃな」
「はい」
***
集められた昨日と同じメンバー。
ただ、エーナは俺が心配で昨夜は寝れなかったらしく俺の後ろの席で今は寝ている。
(幽霊のくせに…
…心配してくれてありがとう)
そして新たに俺の横に設けられた席にエルウィンが座る。
当然、視線はエルウィンに集まるが、流石は王妃候補。こういう場面では物怖じしない。
「昨日は単独行動をして申し訳ありませんでした」
先ずは謝りから入る。前世営業マンの処世術だ。
(絶対謝ってはいけない時もあるけどね)
「心配したぞ大聖女。そなたに何か有れば世界を敵に回すことになりかねない」女王の言葉。
おふう、そうね。
「先ずは一人残った経緯と状況を教えて欲しい」
女王の問いに俺は、会議の出席者を一回見渡してひとつ頷くと話し始めた。
「残った理由自体は、もうお聞きと思いますが、強大な気配を感じたためです」
「強大?どの程度だったんだ?」
「此方では魔族や吸血鬼がいないそうなので、例えるならブラックドラゴンくらいでしょうか」
エルウィンが口元に手を当ててビックリする。
(おい!)
「ばかな!」
「ブラックドラゴンだと、最も凶暴なドラゴンじゃないか」
「国が滅びかねない」
「本当なのかババ」女王がミロクに意見を求める。
「間違いなくそれくらいの気配でした。サロメ殿が恐慌を起こしたくらいです」
ミロクは淡々と真実を口にした。
会場が重苦しい空気に包まれる。
「脅威度の話で、実際にドラゴンが居たわけではありませんから…」
「すまん、続けてくれ大聖女」
「はい、リンダ女王。実際に居たのは吸血鬼6名、魔族1匹です」
「きゅ、吸血鬼6人に魔族だと!!」
「ド、ドラゴンの方がましじゃないか!」
「なんで、そんな奴らがこの国に」
「じょ、冗談じゃないです。何処か別の地に移住します」
(あれ?吸血鬼と魔族でも話が通じた?)
「そ、そ、それで、ど、ど、ど、どうなったんだ大聖女…」
女王威厳、威厳。気をしっかり持って。
「結果的に言うと、お帰り頂きました」
「魔族は、大聖女さんに倒されてましたけどね」
エルウィンが楽しそうに発言する。
(お、おい!)
「魔族を倒した?」
「魔族一人に一個中隊が必要になると聞いているぞ」
「どういうことだ」
「ダメだ理解がおよばない」
「ちなみにそのお嬢さんは誰なのじゃ?」
ミロクさんがエルウィンを指さす。
「吸血鬼の伯爵令嬢。エルウィンさんです」
ガタ
ガタ ガタ
ガターン
ガシャーン
俺とエルウィン以外の出席者が、席を立ち、椅子は倒れ、手にしていたグラスを落とすものもいた。
「きゅ、吸血鬼だと…」
「ばかな今は昼間だぞ」
「肌の色は青いと聞いてるぞ」
「でも、あの耳!」
「慌てないでください!大丈夫です!吠えたり噛んだりしませんから。躾けられたワンコみたいなものです!」
「ひ、酷いです!」
俺の言葉にエルウィンは両手で頬をはさんでプルプル首を振る。
「あああ、ごめんなさいエルウィン」
なんか、阿鼻叫喚になってしまった。
「みなさん!兎に角落ち着いてください!」
はぁはぁ
「まあ、みんな落ち着いて席に座るがよい。大聖女殿がああ言ってるんだ。信じて良いだろう」
ミロクさんがそういって、俺を援護してくれる。
みんな席に座ってくれたものの、会議場の長い机の端と端に固まった気がする、片側は俺とエルウィン、青い顔の女王。もう片側が他の出席者だ。ミロクさんが一番遠くに行ってしまったのはどうなんだろう。
「酷いです」
俺はエルウィンの肩を優しく叩いて慰める。
まあ、吸血鬼もそれだけ人族にしてみると脅威ということだ。
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