第71話:エルウィンは、大聖女に倒された
「貴様!な、何をした!魔族を魔族をどうした!」
驚きから立ち直ったトランファが俺へと吠える。
「退場いただきました」
「ななななななななな何だと、どう報告すればいいんだ…奴は魔族の監察官だぞ。国に何といってくるか…」
トランファは頭を抱えてしまう。
「そちらで何とかしてください」俺には責任持てない話だ。
「そうだ、魔族はお前を知っていた、お前の死体を突き出せば問題ないはずだ」
(ああ、そこに行きつく?)
「トランファ。止めておけ」
「王子。しかし、このままでは!」
「敵の力を見誤るな!
魔族の力は我らを薄皮一枚上回る、その魔族があれほど怯えていた相手だぞ」
「う…ですが、人族の小娘ですよ」
「上位者の能力に容姿や種族は関係ない。お前は神が人の姿を模していたら侮るのか」
「こんな、こんな。我ら吸血鬼族が、人に…人ごときに」
トランファは憤怒の形相で俺を見る。正確にはエドヴァン以外の他の3人も同じ目をしているけど。
「王子。申し訳ないこのままでは帰れません!」
トランファはそういうと俺に向かって襲い掛かる。
早い!
侮りを止めたのか、腰の剣を抜いた。
移動速度を変調し攪乱するように、死角へと回り込みつつこちらを伺う。
手から魔力弾を俺に連射する。
《ホーリーブリト》
俺は聖なる弾丸でそれを迎撃する。
どうする…
エドヴァンを見ると腕を組んでこちらを凝視している。
止めるでなく、どうやら見定める腹積もりのようだ。
(あいつ!)
トランファが目の前から消えた!
「くっ」
《インデュレイト》
俺は首に掛けたストラを引き抜くと、片端を握り幅広の剣へと形状を変化固定させる。
それで、背後から斬りかかってきたトランファの剣を弧を描かせ横から弾く。
鍔が無いため変な受け方は出来ない。
(げ!)
トランファは直ぐに剣を引くと、連続で突きを放ってくる。
「と、と、と、と…」
バックステップ、バックステップ。
流石、吸血鬼だな。
侮りのない剣筋は流麗で鮮烈、あの近衛騎士ジャンロックさんと同じかそれ以上。それに吸血鬼の速度と力で押されると辛い。
エドヴァンもこのままでは帰れないのだろう。
トランファ。申し訳ない。
俺は跳躍すると上空で伸身で一回転すると後方に距離を取って着地する。
ストラの剣を腰だめに
ひとつ深呼吸
「許せ」
(星霜流、一陣突風!)
俺を目で追っていた者
超常の吸血鬼たち
しかし、俺の姿は捉えられなかっただろう
気付いた時には俺は20メートル先に現れていた筈だ。
残らぬ軌跡の途中で、トランファの腕が消え…剣と腕が宙を舞っていた。
誰も何が起こったかわからない筈だ。
トサッ
土の地面に腕が落ちる。
剣は更に離れた地面に刺さった。
「おい、トランファ…」
エドヴァンが一番に気づき。トランファに声を投げかけ。
「う、うぐぁぁぁぁぁぁああぁあ!」
腕を失ったトランファが最後に気付いた。
「切り口は凍っているはずです。急いで適切な処置をすればくっつくはずです」
俺はそういった。治してやるつもりまではない。
「お前たちトランファを運べ、撤退する!」
魔族を倒された以上、エドヴァンは被害もなく帰れないのだ。
「しかし、エルウィン嬢のことは!」
エドヴァンは部下の言葉に、エルウィンを見る、そしてエルウィンの横に戻った俺を…
ふむ。
「エルウィンさん。失礼!」
俺はそういって、エルウィンの足を払う。
「キャン」
エルウィンはその場で尻もちをついて倒れる。
「エルウィンは、大聖女に倒された。目的は達せられた。撤退する」
即座にエドヴァンはそう言い放った。
呆気にとらわれる、俺とエドヴァン以外。
「え、え?」
「し、しかし…」
「えーーー」
「撤退する!」
部下に文句をいわせず命令を被せるエドヴァン。
トランファを連れ飛び立っていく部下たち。
エドヴァンは俺とエルウィンを最後にみると、無言でお辞儀をして飛び立っていった。
(うーん)
あいつはあいつだった…
だが、吸血鬼が魔族と手を組むというイレギュラー…
今度会った時どういう関係になっているか…
俺は、空に消えていくエドヴァンから視線を外すと、後ろでアヒル座りをしているエルウィン嬢に手を差し伸べる。
「酷いです…でも、助けてくれたのですね」
「エドヴァンの温情みたいなものですよ」
「そうなのでしょうか…でも、ありがとうございました」
「色々お話聞かせて頂けますか?」
「勿論です」
そういって、俺には劣るが美少女のエルウィン嬢は俺に笑顔を見せた。
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