第66話:お、俺には劣るけどな…
なんだろう、居心地がすこぶる悪い。
女王の後ろについて城の中を歩いてるんだけど、男どもの俺を見る目がメスを見る目になっている。
ある意味、12歳から大聖女で敬われる目ばかりで女としてこうもジロジロ見られるのは初めてかもしれない。
おっさんの転生である俺としては、背筋がゾクゾクする。いやまあ美貌で色々誂うことはあるけどさ、身の危険を感じるのは初めてだよ。
「嫁よ背筋がゾクゾクするのじゃ」
第二形態のエーナも同じ視線を受けているらしい。
エーナの姿とか俺より小さいのに。
「極寒の地、男どもは外海に出る船乗りだからな、丘でも海でも慢性的に女に飢えておる。いきなり襲いかかっては来ない…と思う。すまんな」
女王の言である。
(怖いよ!)
この世界に転生して初めて恐怖心を怯えるよ!
***
「三ヶ月前、ノースランド最高峰の山の麓にある村で発症者がでたのが始まりだった」
会議室らしいところに案内され、分厚い板のテーブルには10人ほどが座っていた。
取り敢えず…
俺は、奇病調査に関わった人たちから、説明を聞くことになった。
「最初は魔法による何らかの事件だと思ったのだろうな。村長からは犯人探しのための兵士と役人を送ってくれという単願が届いた」
俺は、ギリクさん。宮廷魔術師という毛むくじゃらバイキングのおっさんに頷いた。
うん、どこで会おうが魔術師とは絶対思わない。
「ワシの弟子を向かわせたが、その時には既に人は残っていなかったそうだ」
「どういう事ですか?」
「村の民は半数が凍りつき、半数が黒い炭になっておったそうだ」
俺は驚きに口を押さえる。
「…凍られた方と燃えられた方の違いはあるのですか?」
「手遅れで行ったため、聞き取りが出来ず、状況からでは何もわからなかったそうだ。家屋を調べると家族でも父親は燃え、母と子供は凍っていたりと一貫性は無いと報告にあった」
「元からある風土病という訳ではないのですね」
「こんな風土病があってたまるか、最初から住まんわ」
まあ、俺もそう思う。
「それが始まりとして今も続いているのですか?」
「半月後、調査結果を報告した弟子が凍り付いて発見された」
「病気で言えば、感染されたということですか?」
ギリクさんは、頷いて話を続けた。
「他の調査員もタイミングがバラバラだが燃えたり凍ったりするようになり。
また、調査に行った者たちが立ち寄った村や町でも発症が始まった
当然この王都でもな…」
「…何かわかったことは有りますか?」
「致死率は100%だ。凍るものはいくら温めても、燃えるものは水をかけても、例え水の中に入れても燃えてしまう」
確かに船員のノリスは、氷河流の水でも消すことが出来なかった。しかし水の中に入ってもというのはあり得るのか?酸素もないのに…
「他にはありますか?」
「経路を見ても伝染するということだろうな…感染経路は不明だがな。空気、接触、経口、粘膜何で伝染するんだか…」
「ギリクさんも、お弟子さんも魔法ではないと判断されたんですよね?」
「魔術的痕跡が無かったからな、魔法や魔術以外の何かと判断した」
「医師や薬師の方も診られたと聞き
ましたが」
「それは、私が。医師のマルクです」
うん、毛むくじゃらでギリクさんと見分けがつかない。
「奇病といってはいるが、実際は判断がついているわけではありません。魔術ではないから病気としているだけです。国民にはそう喧伝して、発症者や発症した地域には立ち寄らないように言っているんです。原因不明よりもうつらないように注意するには便利だからね」
燃えたり凍ったりする病気があるとは思わないよとマルクさんは続けた。
…まあね。
「呪いの類というのは?」
「神殿の巫女、ジゼルです。私の見立てでは怨念や悪霊憑きなどは感じられませんでした。大聖女を前に恐縮ですが…」
10台後半くらいのお姉さんが答えてくれた、男は毛むくじゃらだが女性は普通に綺麗だ、寒冷地なこともあり肌も白く肌もきめ細かい…青みがかった銀髪ストレートの髪と碧の瞳が印象的だ。
ジゼルを見るエーナの鼻息も荒い。馬だしな…
それは良いが…キョロキョロと俺と見比べるのはやめてくれエーナ。
「こちらでも、浄化を行いましたが効果がありませんでした」
俺は恐縮しているお姉さんにそう伝えると、ああやはりといって自信を持ったみたいだった。
「錬金術からの見立てはありますか?」
「錬金術師のサロメです、大聖女様」
20歳前後の女性が手を胸の前で上げた。
ダークブラウンの髪の両端をリボンで結んで前に流している、紫の瞳のお姉さんだ。
「初めまして」
俺は頭を微かに動かしてお辞儀する。
錬金術師とは、科学者のことだ。推論から実験により事象を証明する者たちを総じてそう呼んでいる。この世界では魔法が結構万能なので日陰者扱いなのが不憫だ。
「事象的には、燃焼に必要な酸素が無い状態で燃えたというのが信じられませんでした」
(おお…)
この極寒の地に優秀な…
「凍り付くは、亡くなった瞬間は表面を氷が覆ったそうですが、検死の段階では氷は無く、凍結死体でした。魔法で氷らせたにしては違和感が残り、私も魔法ではないと思いました」
「違和感?」
「マルク様の前でアレなのですが…死体が吸血鬼による被害者のように干からびていて、体液がほぼない状態でした」
「吸血鬼ですか?それなら太陽の下で発火もするし、吸血被害なら似たような死体が出る可能性もありますね」
「断定できるものではないですが…」
「リンダ女王、この島に吸血鬼はいたりしますか?」
「き、吸血鬼か?
この島では今まで報告を聞いたことが無いな。ババよ聞いたことは有るか?」
女王は突然話を振られて困惑すると、俺から最も離れた席に座っていた女性に声を掛けた。
「大聖女殿よく来て下さりました」
お、お幾つですか?
思わず聞きたくなる容姿で、俺は失礼にも、女王とババの間を何度か視線を移動させてしまった。
ババといわれた女性は、妙齢の女性だった。綺麗な銀髪を胸元で先端を一つに纏めている。透き通った銀の目が魅力的だった。
お、俺には劣るけどな…
「儂の視た占術では、大聖女様の知識が必要だと示されてな。遠いところご足労頂いた次第じゃ」
「知識ですか?」
「この世界の理ではわからぬことも、大聖女殿の理からならわかると示されてな」
そういてババは俺をニヤリと見た。
(やだな…)
俺の前世迄知ってそうなこの目つきは…
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