第63話:大聖女は来てくれるのか?
幽霊船が、怒った?
ウォーターボールを撃ったら、静観していた幽霊船が突っ込んでくる事態に…
船員が艦砲の狙いを定め、一斉に俺の顔を見る。
勇者たちも、俺の顔を見ている。
(え?俺が攻撃判断するの?)
俺は幽霊船に視線を向ける。
ボロボロながら、元は流麗な船だったろう気品がある。
艦首のフィギュアヘッドは一角獣、ユニコーンを模していた。
「こほん、
幽霊船に告げます!」
「え?」マリアが驚いた顔をする、というか俺を見ていた全員が同じ表情だ。
「それ以上接近しないでください!
聞き届けられなけれない場合、非常手段に訴えます!」
「幽霊船に勧告してるの?ステラ…」
幽霊船の速度は落ちない。
「いうことを聞いてはくれないみたいですね…」
「ステラ。あたり前でしょ!」
むー、致し方ないか…
俺は腕を広げ、広げた掌を目の前で固く結んだ。
《セイントウォール》
俺の奏でに合わせて…
波の音が消えた。
風が途絶えた。
俺の名を冠した船を護るように、光の壁が覆う。
(ぶつかると、消えちゃうだろうなー勿体ないけど)
幽霊船は速度を落とすことなく光の壁に突進してくる。
「うわー」
「ぶつかるぞ!手近なものに掴まり身体を固定しろ!海に投げ出されるなよ!」
「う、撃たなくていいんですか!」
「慌てなくても大丈夫です!攻撃も不要です!」
俺は慌てる船員に届くように声を張り上げた。
セイントウォールまで
10メートル
5メートル
3、2、1…
固唾を飲んで見守る俺たちの目の前で
幽霊船は霧に溶け込むように
ス――っと薄くなり。
――姿を消した。
まさに消失という言葉が似合う消え方だった。
「お、おおお、き、消えたぞ!」
「幽霊船がいなくなったぞ!」
「大聖女様の聖なる力の賜物か?」
乗組員の驚きの声が駆け巡る。
「じょ、浄化したの?ステラ」
「やったの?やったの?」
「さすがステラさん」
「ああああ、私の財宝がーー!」
マリアとアリスの問いかけと惺の賞賛とエテルナの嘆きが聞こえる。
だが、俺はここで初めて焦っていた。
(おかしい…)
消えたのはセイントウォールのせいではない…その前に消えた…
何処に行った?
セイントウォールの効果が消失し、俺は舷側に乗り出して確認する。
既に幽霊船による局地天候異常もなくなっている。まるで何もなかったように穏やかだ。
「どうしたのよステラ?」
「わ、私のセイントウォールで浄化したのではないわ。その前に姿を消したの…」
「なんですって!」
「えええええ!そんなー」
ドンッ!
「キャーー!」
俺は腰にぶつかるものがあり、バランスを崩して海に投げ出されそうになる。
ぶつかったものが、そのまま俺の腰に抱きつくような感覚。
「な、何ですか!」
見ると俺の胸のあたりくらいまでの少女が抱きついていた。
(え!?)
当然、驚いたのは俺だけではない。
勇者チーム全員の視線が俺と俺の腰に抱きついた少女に注がれている。
少女は顔を上げて俺に微笑みかける。
黒いボロボロのドレスを着た。膝まである濡羽色の髪と黄金の瞳をした美しい少女だった。
俺と目が合うと少女は叫んだ。
「探したぞ、俺の嫁よ!」
「「「「「「嫁ー!!」」」」」」
「何ィーーー!」
こら、マキシ剣を抜くな!
「ステラ。酷いわ私がいながら」
シャルさんや…
「ステラ。あなた…」
「マ、マリア。ち、違います!この少女はたぶん、さっきの幽霊船です」
「「「「「「幽霊船?」」」」」」
***
接舷した海賊船から、ノースランド王国のリンダ・ブラッドリーが、フリゲート艦ステラフィールのデッキに降り立つ。
「ようこそ、リンダ・ブラッドリー・ノースランド女王陛下。
ラフィール王国第37王女シャルロット・ド・ラフィールです」
シャルが、女王陛下を迎える。
だって、この船はフィール王国の軍船で、王族を迎えるならシャルしか適任いないよね。
マキシ?人前に出せるか?
「申し入れ受諾いただき感謝します、シャルロット王女」
「陛下、失礼とは承知しておりますが、先を急ぐ旅のため早速要件をお聞きしても?」
「勇者一行の遠征のことだと承知している」
女王はそこで一旦目を閉じた。
「実は本国ノースランドで、奇病が発生している。
救って頂けないだろうか…」
そう言って、女王は俺に視線を向けた。
(俺のこと知ってるのか?)
「陛下。そ、それは私の権限ではお答えできない外交に関わる問題と存じます。
本国へお問い合わせいただけないでしょうか」
「それでは遅いのだ、国交締結など手順を踏んでいるうちに国民が国が亡くなってしまう」
「お、お気持ちはわかります、ですが…」
「陛下、横から失礼いたします。レムニスケート連邦国第二王女マリア=リア・イグノラムスです」
「連邦?そうか勇者の…
王女殿お初にお目にかかる」
「救援要請とは国家の利害も絡みます、ここではその判断はつきません。また、ここでは救援隊の派遣もままなりません。外交ルートからの交渉が筋ではないでしょうか?」
「私は大聖女個人にお願いしたい。聖女は教会管轄で国家とは関係ないと心得ているが?」
(ありゃ)
私に視線が集まる。
「へ、陛下。ステラは、いえ、聖女は教会管轄ですが、所属は国家に帰属致します。
派遣などは教会で決定されますが、所属国の意向も加味されます。また教会圏外の国家、地域への派遣は基本されません」
シャルが目を回しながら説明をしてくれる。
「そ、そうなのか?」女王は驚きを隠せない。
魔族との戦時下である今、教会は神の教えを説き、人々を導き、施し、救済するだけの機関ではない。
それは寄進とか金銭的問題ではなく、聖女の資質検査を国家に義務付け、聖女を発掘、管理、運用することを主眼としているということだ。
従わない国家や教会圏外へは決して派遣されない。
「非情のように思われるかも知れませんが、人類は力を合わせなければ生き残れないのです」
俺はそう訴えた。
「ですが、国教にしろとか、改宗しろとかはありません、そのような事態はもう過ぎているのです。教会へ連盟されれば救済までは早いかも知れません」
マリアがフォローしてくれる。
「それで、大聖女は来てくれるのか?」
(俺に拘るの?)
「「いえ、それは教会で決める事なので…」」
シャルとマリアの声がハモる。
「大聖女が来てくれるなら、我が国は教会と連盟を結ぼう」
「そういうわけにはいかないのです陛下。特に大聖女は現在特務で動いております、現場ではどうすることもできないのです、ご理解ください」
シャルがもう泣きそうだ…
「こちらも30万の国民の命が掛かっている、何でもする助けて欲しいのだ」
そういって女王が頭を下げた。
ヤバイ…女王が頭を下げたので向こうの船員たちが殺気立ち始めた。
「陛下。何故、大聖女に拘るのですか?」
俺に拘る理由を聞いてみることにした。
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