第57話:大聖女っぽかったです
今にも雨の降り出しそうな曇天であった。
朝から教会の鐘が鳴らされ、リゾート地であるハイライト王国王都でも厳かな空気に満ちていた。
俺は望むと望まないに関わらず、12歳で大聖女の称号を頂いた。
(マジに望んでなかったが、必然だったんだろうな…)
この称号の意味は大きく、教皇、枢機卿に次ぐ大司教の上と定義されている。
(俺を大聖女にしたせいでハラハラしていることだろう。いや地は隠してちゃんとやってるつもりだけどね)
そのため、俺がハイライト王国の第一王妃アヴリル・ハイライトの葬儀を執り行うことになった。
(昨日の夜になって決まるなよ、覚えること多くて徹夜じゃねえか)
この国の大司教は実務を補佐してくれることになっている。
(それには頭が上がりません)
俺は静謐な大聖堂の祭壇奥で待機している。
今日の衣装は…
精緻な金縁が施された黒の法衣。光を受けるたびに淡く輝き輪郭を浮かび上がらせる。
金糸の刺繍は、聖女の紋章が胸元に描かれている。
肩から背にかけてマントが流れ、俺の黄金の髪がその上で波打つ。
腰には細い金の帯、マントを留めるのに昨日惺から貰った銀のブローチを使っている。
既に軍関係者、貴族、外国使節は入場を終えて通路となる中央の両脇に着席している。
このご時世、外国使節は国葬とは言え、王族が旅して来られるものではない。ラフィール王国はマキシミリアン王子、シャルロット王女、連邦はマリア王女が席についている。
他国は領事や大使。王女が聖女とか、王子が近くに従軍遠征していれば参列する場合がある。
数か国そういったところが見て取れた。
――帝国からも聖女王女が来ている。
あと勇者たちも参列してるよ、完全別枠、貴族席にいる。エテルナ、アリスも一緒だ。
俺は左後ろに控える、この国の大司教に目で合図する。時間だ。
音楽が流れ、聖歌が合唱され石造りの空間を震わせる。
それに合わせ大聖堂の巨大な扉が開いくと
白手袋の近衛八名が、王妃の棺を肩に担いで現れた。
前後には護衛が一人ずつ、歩調を合わせて進む。
その後ろには王族が続いて姿を現わす。王様の姿はそこにはなかった…
第二王妃カサンドラ、第三王妃テレジア、第四王妃ディアナ、エイルマー第一王子、ブレイヴリー第二王子…グロリアーナ王女…アテナ王女…
続いて教会枠で枢機卿が入場する。
棺が中央通路を進むたび、
ステンドグラスの光が銀の装飾に反射し、
まるで淡い光が棺を包んでいるように見える。
入場者は棺がカタファルク(棺台)の前で停止すると、左右の席に移動する。
やがて棺はカタファルクにそっと降ろされた。
俺は棺に向かって両手を胸の前で手を組んだ。
「――安らかな眠りが、どうかこの魂にありますように」
(残酷な殺され方、放置された方だ…心からそう祈る)
俺の声は、静寂の堂内に溶け込みながら、全ての者の胸へ届いていった。
声を発する者はいない。
静寂の中、王族の中から小さな嗚咽が聞こえる。
俺は小さく息を吸うと一つ頷くように祈祷文を奏で始める。
「天の神々よ。
この国を照らし、すべての命を見守り給う神よ。
いま、ここに眠る尊き魂を、あなたの御許へとお返しいたします」
堂内に響く俺の声。
曇天が晴天になったのかステンドグラスの光が俺と棺を鮮やかに彩る。
「この方は、王妃として国を支え、母として家族を慈しみ、
ひとりの人として、幾多の苦難を静かに受け止めてこられました
……
…」
俺と棺から小さな光の粒が天へと舞い上がる。
(俺は何もしていないよ、見たことのない神の気まぐれだろう)
一瞬のざわめきが堂内に湧き上がるが、俺は首を振ってそれを制する。
「どうか、この魂が迷うことなく、安らぎの地へと至りますように。
この国に、揺るぎなき平和を。
そして、ここに集うすべての者に、あなたの祝福が降り注ぎますように。
……
天の御名において、祈りを捧げます」
俺は祈祷文を奏で、祈りを捧げた。
その時、強い光が場内を満たした、暖かな優しい気持ちになれる光だ。
その光に包まれただけで涙を流すもの大勢いた。
王妃の魂を見た人もいるかもしれない…
(神さま…過剰な演出ですよ。何を想いこんなことを?)
光が消え堂内は静寂に包まれた。
俺の目からは参列者の目に幸福感が見て取れた。
棺と王族が退場していく。俺はそれを見送っている。
グロリアーナ王女とアテナ王女とは目で挨拶をさせて貰った。
俺の役目は終わった。
(葬儀のね)
棺は王城のカタコンベに安置されるらしい。
***
「お疲れ様ステラ」
教会の控室で重い法衣から着替えたところで、マリアたちが入って来た。
「お疲れ様、マリア、みなさん」
「凄い大聖女っぽかったです」
惺が熱くいってくる。
(まあ、大聖女だからね)
「ありがとうございます」
「ステラちゃん、綺麗だったよ」
「煌さん。嬉しいですがお葬式ですよ」
まあ、これでハイライト王国ですることは全て終わった。
面倒だが帝国への旅が始まる。
(しかし数日休むと動くのがおっくうになるな)
そんなことを思っていると…
コンコン
ドアノッカーの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼する」
扉を開け入って来たのは、銀髪ツインテの帝国の聖女王女だった。
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