第56話:僕はまだまだ弱い…
俺はテラスの手摺に掴まり身を乗り出す。
超長距離、ロングレンジ攻撃だ。
「惺さん見えますか?」
「すみません、僕には…」
攻撃された瞬間に唱えていた《エンジェルアイ》は、20キロ先の空に浮かぶ魔族の姿を捉えていた。
「20キロ先に魔族が六人居ます、一人の目は異様に大きいです」
20キロだと、2000倍率で10メートル先に見える感じだ。
普通なら20km分の空気に含まれる塵、湿気、温度差によってゆらぎが発生し、像をドロドロに溶かしてしまうが。俺の目は鮮明に捉えることが出来ている。
「20キロ?東京駅から横浜くらいまでありますよ」
(惺の言う意味が分かるので「そうですね」と答えそうになるが堪える)
「どどどどどうするんですか?」
ギン
ギギン ギン
今も間断なく、20キロ先から狙撃されている。
二人で一組で、魔力弾を増幅して放っているようだ。
「カウンターアタックです」
「そんな距離だと、届かないし、届いても威力が減衰して意味ないですよ」
「何も律儀にここから飛ばす必要ありません」
「でも、空じゃあ…僕ら飛べませんよ」
「対処をお教えします」
俺は、惺の前に立つと、爪先立ちになるが届かない…
惺は頬を赤らめるだけだ。
「すみません、しゃがんでください」
「は、はい」
俺は別に惺にキスしようとしたわけではない。
惺の横で頭と頭をくっつける。
惺がビクッとしたのを感じる。
「良いですか。先ほどの映画の話ではないですが、私の見えているものを、惺さんの網膜に送ります」
「え?うわ!」
「見えますか?」
「はい、見えます!」
俺は頷く。頭をつけたまま。
「すいません、突然動かれると酔いそうです」
「し、失礼」
(下手に動くと、感覚のズレから酔ってしまうようだ…)
「そこから500メートルくらい先を意識してください」
「へ」
「意識だけね。こんなもんかなくらいで良いです」
「は、はあ…ステラさん!」
「はい」
「魔族六人で手を組んで大きな魔力弾造ってませんか」
「そのようですね…」
「やばくありません?」
「この一角が消えそうですね」
「ステラさん落ち着いてますね」
「そうでもないですよ。ただこちらが先制出来れば良いだけです」
「……500メートル先意識しました」
惺は、俺の言葉に黙ると聞き返さず、言ったことに従ってくれた。
「意識した位置で、《ピアースレーザー》を生成します」
「煌さんの?」
「そうです、煌さんが放つのを一回見ているはずですよね。イメージしやすいはずです」
「僕にでき……教えて下さい」
俺は惺の言い留まったのを見て微笑んだ。
「復唱してください」
「了解です」
顔を見なくてもわかる、きっといい顔をしているだろう。
「輝き照らす」
「かがやきてらす」
「「万物の光」」
「「その輝きは全てを貫く力なり」」
「「全ての敵を貫き滅ぼせ」」
《ピアースレーザー》
呪文が紡がれると、超長距離20.5キロ先に、太陽のような巨大な光球が生み出された。
光の檻に閉じ込められた粒子たちが、摩擦の悲鳴を上げながら加速する。莫大な静電気を纏い、高熱を発している。
魔族は自分たちの後ろの熱を感じたのか、自分たちが生成している魔力弾の事も忘れ驚愕の表情を浮かべている。
太陽に見まがう光球は、青白い光をキラキラ輝かせ、電圧が臨界点に達する。
それを一瞬にして放出する、大奔流の静電加速粒子レーザーが魔族へ向かう。
驚愕の表情を浮かべたまま、逃げようとした者も間に合わず、理解も把握もできず――
魔族は光に包まれた。
悲鳴も音もここ迄は届かなかった。
一瞬の光が、王都では観測され。その方向を指さして不思議がる人が出たくらいだった。
***
その後は、マルシェで買い物をした。
「これステラさんにどうですか?」
惺が示したのは、銀細工で精緻ながらシンプルなブローチだった。
聖女や神に仕える者は、髪飾りやネックレスなど装飾品は基本的に虚飾としてアウトだ。
だけど、ブローチはスカーフなどを留める実用品としてセーフだ。
(よく調べたな惺)
「綺麗ですね」
「今日の記念です」
そう言って俺に渡すと、店主にお金を払ってしまった。
「え、え、今日は私が労う日ですよ」
「僕の気持ちなんで貰ってください」
「…ありがとうございます」
(貰ってしまった)
***
空が茜に染まるころ、丘の上の王城に続く道を、二人並んで進む。
街は茜に染まり、ビーチで泳ぐ人ももうまばらだ。
渡る風が潮の匂いを届け、俺の髪をなびかせる。
「ステラさん」
「はい」
拳を握りしめながら、惺は言った。
「僕はまだまだ弱い…」
立ち止まって俺と見つめ合う。
「強くなったときに…ステラさんを守れるくらい強くなった時に僕の話を聞いてください」
「……」
「ダメですか?」
「わかりました」
街に明かりが点き、地上に星が降りたかのような景色が目に入った。
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