第55話:もうお嫁にいけない
ハイライト王国での休暇三日目の朝。
朝食にマキシの姿が見られなかった。
しかも、シャルはなんかむくれている気がする。
何かあったんだろうか…
(なんだろう怖くて聞けない)
「ステラさん」
食事が終わりスプーンを置くと、惺が俺に話しかけてきた。
俺は貴族令嬢、かつ大聖女という品位のある食べ方をしなければいけない。
そこそこ時間をかけて食べるので、結構待ったことだろう。
牛丼屋や立ち食い蕎麦屋での搔っ込みの食事が懐かしい。
まあ、従軍中はさほどお上品でもないけど…大聖女が丼ぶりに箸突っ込んでガツガツ喰ってたら周りがきっとやだろうからな。夢を壊さないように気を使っている。
「はい、惺さん。今日は惺さんとデートですね。宜しくお願いします」
「はい、どうかよろしくお願いします」
惺は満面の笑顔でそう言った。
***
「ステラさん、行きたいところはありますか?」
「いえ、これと言って…」
(何があるのかも、知らないからな)
「では、今日はエスコートさせて下さい」
(おお、凄いな惺。俺とは思えん発言だ)
「はい、宜しく頼みます」
昨日、今回のハイライト王国事件の功労者は、東走西奔してくれたマキシと、俺の願いを聞いて病人けが人を看てくれた惺に決まった。
…
惺と俺は、同一人物みたいなものだ、過去の俺のはずだからな。
惺のステラに対する好意も、自分だから良く分かることで、その気持はステラになった今ですらあるくらいだ。当然俺の想うステラは俺ではないステラだけどね。
そんなこともあって、どうにも接し方がわからない。俺はナルシストではないし、自分を客観的に見せられるのは、不思議を通り越して嫌悪感や整理のつかない感情も生まれる。
思春期の娘が、父親を避けるようになるのは、近親相姦を防ぐためというのを聞いたことがあるが、俺の今の気持ちを言い表すなら、それと同じなのだろうか?
「なに、難しい顔をされているのですか?」
「いえ、どこに連れってって頂けるのかなと」
「僕のいた世界では、華やかなお店や、映画館、遊園地、水族館という娯楽施設があるのですが」
(そうだな、本当に色々あったな、この世界には無いものばかりだ)
「どのような施設なのですか?」
「映画館は、演劇の夢を見たとします。その夢をみんなで見れるように壁に映し出して見ることが出来る施設です」
惺は手振りを交えて俺に説明してくれる。
(映像の無い世界で、映画を説明するのは難しいけど良い説明だぞ惺)
「行ったことのある所を人に見せたり、人の見たものを見ることが出来るようになるという事ですね」
「そうです、そうです」
惺は嬉しそうに何度も頷く。
「遊園地は、いろんな娯楽施設が集まった場所で、高さや速さを使って爽快感や恐怖を楽しむものが多いです」
「恐怖感ですか?わざわざ怖がらせるのですか?」
「そうですね。ただし危険はなくて、安全が担保された状況での一時的な恐怖を楽しむ感じです。
もちろん、ゆっくり景色を楽しむものや、ただ見て楽しむものもあります」
「この世界では、恐怖は死と直結した感情になりますから、わざわざ恐怖を得ようとは思わないかもしれませんね」
俺の言葉に惺はビックリしたようで、少し考え込んでしまった。
(別に困らせるつもりではなかったんだけど…)
「惺さん。私も見てみたいですし、行ってみたい気にはなりましたよ」
「そ、そうですか。それは良かった。ステラさんをこの世界から僕の居た世界に連れて行けるなら、どんなところにだって連れて行ってあげたい」
「そうですね、それは素敵ですね」
(そうだな、もう一度あっちに戻れたら…)
「昨日、とてもすてきなカフェを見つけたので、先ずはそこに行こうかと思っています」
「それは、楽しみです」
***
惺の案内してくれたカフェは、ビーチと王城がよく見える、テラス席になっていた。
店内は店内でとてもシックで広さと落ち着きのあるお店だった。
(ちゃんと予約してあるとか、本当に俺か?)
席につくと、給仕がミルクピッチャーと、レモンのスライスが添えられたティーを運んでくれた。
中央には三段のケーキスタンド。
「ステラさんは、ショコラなど甘いものより、紅茶のほうが好まれると聞いたので」
「あ、ありがとうございます」
(なんだ、この惺の気配りは…俺を知るだけに怖くなってきたぞ)
「こ、こちらの世界に呼び出して、申し訳なかったと思っていました」
(心からそれは思う、たぶん必然であったのだろうけど…)
こちらの世界に生まれるか、あちらの世界に生まれるのかと同じ運命の一つとして、途中で呼ばれることが必然として、何者かに組み込まれていたと考えるのがしっくりくる。
(ん?それじゃあ俺がステラに転生したのも?)
まてまて、それじゃあ世界が閉じてしまう…
「いえ、必要とされたなら、必要とされていない世界にいるより、意義があるのではと思います」
惺は頭を掻きながらそう呟くように言った。
「呼び出された時は、感情がグチャグチャでなんで僕がこんな目にという気持が強かったですけどね」
「当然だと思います」
(俺のときもそういう心の変遷があった。安心できる答えだ)
「でも、今の考えに至ったのは、ステラさんが大きいですよ。呼び出したのがステラさんでなければ今でも恨みしか持てなかったと思う」
(そうだな、本当にそうだ。ステラの存在は偉大だった)
「ありがとうございます」
「呼び出された日に、ゴーレムが現れましたよね」
「はい、惺さんが倒して下さった」
惺は首を横に振る。
「ステラさんと一緒に詠唱したとき、ステラさんの手から流れ込む何かに身体も心もゾクゾクしました」
(ん、魔力だな。結構流し込んだし)
「紫ちゃんも言ってました。もうお嫁にいけないって」
(ん、んん?)
ナニソレ、俺の時はそこまで感じなかったぞ!
「僕も運命を感じました。もうこの人しか居ないって…」
惺の目がトロンとして俺を見つめる。
(え、え、え?)
ちょっと待って、ちょっと待ってなにその告白みたいなのは…
「ちょ、ちょっと惺さん?」
立ち上がった惺は俺のもとに来て、両手を取った。
(待て待て、俺の記憶にないから、こんな時期には無いから)
(ん!)その時
《セイントウォール》俺は瞬時に光の壁、防御魔法を展開する。
ギギン ギン
ギギン
光の壁に当たり上空へと弾かれる魔力弾。
「惺さん!」
「…はい!」
(敵襲だ)
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