第48話:マリア戦線
洞窟内に、耐えきれない静寂が訪れていた、数キロ先の水滴が落ちる音がピチョンと、か細く聞こえる…
「ごめん、言い直す。時間をちょうだい…」
俺は真っ赤になって、女に掌を向けて、謝った。
「覆面女官…?大聖女!?」
(ん?)
小声だが俺には聞こえた…
なんでこの女は覆面女官=大聖女に思い至るんだ?
「…あなたは?」
「ハイライト王国、第一王妃アヴリル…」
(ああ、第一王妃はもう…)
◇◇◇
「エイルマー第一王子、カサンドラ王妃、テレジア王妃…どうされたのですか、こんなところに」
ハインケル将軍は眼前に現れた、王族の面々に驚きを隠せなかった。
通常、第二王妃以降は、側妃扱いであり、人目に触れること自体が少ないし、城から出ることも稀である。
「ハインケル将軍。ご無沙汰しています、ご健勝そうで何よりです」
カサンドラ王妃が将軍に丁寧に言葉を掛ける。
「なぜ、此方に?」
「今のハイライト王国の状況を思えば、将軍ならお察しいただけると思います」
「将軍この方々は?王太子は存じていますが…」
将校が将軍に疑問をぶつける、一般の将校や市民は第二王妃以降はを知ることは稀のため当然かもしれない。
「陛下とアヴリル王妃以外の、王族の方々だよ」
将校は驚きに目を見開いた。
「将軍。立ちはだかるものは排除せよと命令が出ている。排除せよ」
今度は、随伴している近衛兵が、将軍に命令してきた。
「お前たち近衛が守るべき方々だぞ、何を言っているんだ!」
近衛兵の機械的な物言いに将軍は憤慨する。
「これは、陛下の命令だ。何事にも優先される」
「貴様…」
「将軍。一時的に指揮権を剥奪する」
近衛は将軍を一瞥すると、目を細めそう言い放った。
「な!何をする気だ!」
今の将軍には、死線を共にした参謀や配下はいない、ただ一人のお飾りである。
出来ること、特に味方に対して無力だった。
味方の定義すら、将軍はわからなくなくなっていた。
近衛は緩慢に後ろの集団を見ると抑揚のない声で言い放つ。
「映えあるハイライトの兵よ、眼前の敵を排除せよ!」
行進の止まっていた、軍隊に動揺が走る。
「ど、どういうことですか?」
「何が起こってんだ」
「女子供ばかりじゃないですか。で、できませんよ」
民に武器を持たせただけ、軍隊でも何でもない数だけの集団には、統率もなければ命令を遵守する気構えもない。
「あたりまえだ」と将軍は思った。
そんな集団を見て近衛は剣を鞘から抜くと、自分に最も近い若者に剣を振り下ろした。
「アガァァッァアァ!」
男は何が起こったのかもわからず蹲った。
「う、うぁぁぁ…」
「こ、殺されたぁぁぁ!」
「静かにしろ!」
集団が言葉を失い一瞬で萎縮する。
「何ということを!」それを見たマリアが叫ぶ。
「次は貴様が斬られたいか?それともお前の家族が斬られるのが良いか?
命令に従え」
「こ、近衛。貴様」
将軍が憤怒の形相で、口からは血が伝っている。唇を噛んで切ったようだ。
「う、うあぁぁぁぁぁっぁ!」
一人、また一人と大の大人が涙を溜めつつ、マリアの方へと突撃を開始し始めた。
集団の後ろでは何が起こったかも分からないが、動き出した集団は、理由や原因の如何に関わらず止まれなくなるものだ。
迫る集団に、マリアは胸を痛めていた。
「マリアさん。私が…」
紫が一歩前にでる。
「…我の前の敵を吹きとばせ」
《ストーム》
ステラに教えられた風の魔法を前方の集団に解き放つ。
15メートルのゴーレムを吹き飛ばした魔法だ、集団を押し返し、地から足を浮き上がらせ何メートルも吹き飛ばし、近寄れなくする。
「あの時の威力には、まだ、至ってないけど」
それが、人を傷つけず丁度いいと紫は思った。
「正面は諦め、回り込め、回り込むんだ」
近衛の抑揚のない声が集団に飛ぶ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
既に集団は悲鳴を上げながら、近衛の命令に従っていた」
「俺にやらせろ!」
《ファイアウォール》
マリアを下がらせ迅が唱える。
左側方に銀座のビル群のような炎の壁が立ち上がる。
「うわーーー!」
「熱い熱い!」
右側方では
《ロックウォール》
エテルナが魔法を解き放つ。
自称ラフィール王国最強魔術師の放った魔法は
地形を隆起させ、集団の足を止めることに成功する。
一部後方へ回り込んだ、者たちには女騎士九人が押しとどめてくれる。
家族もいない、男たちはそれを見て逃げ出し始めるが、まだ一部だ。
「ステラ、維持するのがやっとよ、早くなんとかして」
マリアは城の方へ視線を向けた。
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