第43話:見えない敵
螺旋状の階段を下る。左壁の反対はまるで地獄にでも続くかのような底の見えない吹き抜けだ。
(誰が城にこんな階段設計したんだ!)
《ナイト・ビジョン》暗視の魔法だ。感度は第4世代暗視装置と同等の能力がある。極低光量でもクリアに見えるようになり、暗闇でも五万倍以上の視界が手に入る。
だた…松明の光でも直視しようものなら、視界全体が真っ白になって暗順応が利かなくなる。とっても要注意なんだ。
俺は暗闇の底を覗き込むと、両手を抱えるようにして足から吹き抜けに飛び込んだ。
自由落下。
トッ
と、俺は約2.5秒で底へと到着した。
底を覗いたら30メートルもあったんだけど、100万ジュールでも怪我しない俺が30メートル程度で怪我をするわけがない…
この前計算したら…たとえ高度1万メートルの成空圏から降ちても、空気抵抗によって終端速度が時速180〜220kmになってしまう、それは100万ジュールのわずか 20分の1 程度の衝撃しか受けないことに気付いたんだ。
つまり、何が言いたいかと言うと、俺はどんな高さから落ちても大丈夫そうなんだよ。勿論魔法で身体強化はしてるよ、でも自分で自分が怖くなったよ。
しかし、なんで30メートルもあるんだ?…ああ、そうかここ小山の上だっけ…
俺は階段の先に続く通路に目を向けると、表情を曇らせた…
死臭がする…
そして動くものの居ない気配…
胸が締め付けられる、一瞬むせそうになった。
俺は覚悟してゆっくりと通路へと歩みを進めた。
牢獄の通路に入ると両側に格子戸の牢屋が幾つも並んでいた…
臭いが鼻につく。
貴族、騎士、兵士、女官、侍女が詰め込まれ…息をしていなかった。
…逆に実感がわかない風景だ。
「!」
認識阻害の魔法が掛かっている俺に迫る気配。
剣が振られた気配!俺はステップで下がる。
(くっ)
俺に攻撃をしかけた奴も、認識阻害を発動している!
攻撃の気配、左からの袈裟懸け、からの返しの気配。
半身、バク転で躱す。
お互い認識疎外が掛かっている状況では気配で戦うしかない。
相手はショートソードのようだ、こいつ手練だ。かなりやる。
俺には獲物がない。徒手空拳で戦うしか無い?
いや、俺は口元を隠していたマフラーを引き抜くと、
《インデュレイト》口の中で唱える。
すると、マフラーがこより状に巻きあがり一本の硬い槍に形が固化される。
槍は狭い所では、不利な武器だが、ショートソードに対する牽制には使える。
キン キン!
鋼のぶつかる音が牢獄の通路に響き渡る。
暗闇に見えないショートソードと槍のかち合う火花が弾ける。
認識疎外は、闇属性の魔法だ。それを使っているということは魔族だろう…
受けてばかりでは埒が明かない。
俺は右手側方で
ヴゥウゥン…ヴゥウゥン…
と風を斬るを音をさせ槍を回転させると。
フゥゥゥ…
静かに息を吸い込み…
一気に地を蹴って踏み込む。腰、肩、肘、そして最後に手首の返しまでを槍に伝えた突きを繰り出す。
「!!」
相手の焦る気配が伝わる。
槍は相手を捉えられなかったが、その威力は通路の突き当りの壁を粉砕した。
ッッドォッッッ!!!ン
破壊の音が後から届いてきた。軽く音速は超えていたようだ…
巻き添えを喰らった押し出された空気が、元の位置に戻る暴風となり、さらに壁が崩れ落ちた。
残心はしていたが、相手の気配は感じなくなってしまった…
「ツゥゥ!」
唇を噛んだ。
(不味い…逃がした!)
石突を地面に突くと、槍のこよりが解けてマフラーに戻る。
俺は首へとまた巻きつけた…
相手を追うか悩んだが…それより、壁に開けた穴が気になった。
俺は跨ぐように、開いた穴へと身を潜ませる。
通路は既に山の中だ。
自然の洞窟のような作りになっていた。
城に良くある抜け穴なのだろうか?
暫く歩くと、赤黒い両開きの扉が通路先に現れた。
洞窟に不釣り合いな、鋼鉄製の扉。
(入らない選択は無いよな…)
既に先ほど不可視の敵に会ってるんだ。気付かれても今更だ…
俺は両手で扉を押し込んだ。
中は広い空間だった、神殿のようだが…これは、魔神の神殿だ。
黒く禍々しい塗装を施された壁や柱…
巨大な魔神の像が此方を睥睨している。
魔物や魔族は不在のようだ。
外からは気付かなかったが、人の気配がする?
俺は、気配のする奥へと走った。
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