第38話:いやらしい
ハイライト王国は半島で、付け根がラフィール王国に接している。
港街を内包している王都は、国境から百キロも離れていない。
地形柄、魔の勢力の影響もなく、魔素溜まりさえ注意してさえいれば比較的安全な国として知られ、貴族やお金持ちのリゾート地として有名であった。
「さぞや税収が良いのでは?」
「そ、そんなことないですよ」
エテルナに詰め寄られリアナが辟易している…
現在、ハイライト王国側のリヴァーサイドブリッジの街を出たところだ。
「なんとか、無事に抜けられたわね」
マリアが緊張を解いた。
女性陣は全て通常聖女服を着用して巡礼として入国に成功した。
全員ということは、アサシンアリスも俺もそしてピンク聖女も、同じ聖女服ということだ。
「デザインには違いはないから許して!」
とシャルが泣き叫んだが、ピンクはどう考えてもデザイン以上に問題だ。もしもだ、全員がピンク聖女になったら、それはもはや聖女でも巡礼でもないと思う。却下だ却下。
***
馬は目立たないように常歩なので、時速六キロ程度で進んでいる。
街道は一見何事もないように見える。
「こんなにユックリ行かなければならないのですか?…」
リアナがそう嘆く。
「すみません。王都の前に街や村にも寄って、動向を探りたいのです」
気持ちはわかるが、許してほしい。
太陽が中天から傾いた頃に、少し大きめの町に辿り着いた。早いが今日はここに泊まる予定だ。
巡礼を装うので教会に宿泊を願い出る。
「ずいぶん人数が多いですね」
司祭が、聖女の人数を見て驚いている。
「すみません、帝国の方まで巡礼予定ですので、人数が多いほうが安全だと司教様が…」
「そうですか…
申し訳ありません。
王都への旅人が今は多く…巡礼者宿舎や会堂、食堂、回廊も使われる予定でして、聖女様に失礼なのですが…厩舎ぐらいしかご案内できません。宜しいですか?」
(聖女の大半が貴族子女であるし、国家を跨いで貴重な存在である。それが解って場所とれない?)
「王都への旅人が多いのですか?」
「はい、王命で男性が集められています」
俺はマリアと顔を見合わせる。
「これから王都に向かうのですが、何か情報はありますか?」
「13歳以上の男性が、国中から集められているとの噂です」
「何かあるのですか?」
「誰からも何も聞かされていません。
旅人の話になりますが、朝起きると王名で家に名前が書かれた張り紙が貼られていて、来なければ一家を罪人として処罰すると書かれているそうです」
「何ですかそれは!」
リアナが叫ぶ。
「わ、私も手紙で王都の教会に手紙を出し確認しているところですが返事がなく…」
「何日くらい前からですか?」
「4日前くらいだそうです」
そう言うと司祭が俺とマリアに近づき耳打ちする。
「どうも、王国の目や耳が至る所に放たれているようです」
「「!」」
直ぐに、元の位置に戻った神父は心配そうな顔をして…
「王都への巡礼は、人の多い今は避けた方が良いかもしれませんよ」
「そうですね、ありがとうございます。避ける方向で相談してみます」
俺は、言われた厩舎へ入ると、《イーヴズドゥロピング・プリベンション》を唱える。
盗聴防止の魔法だ、これで馬の嘶きは聞こえるが俺たちの声は聞こえない。
「リアナ」
俺はリアナに話を促す。
「父は、王はこのような命令をする人ではありません」
リアナは悲しさと怒りが混じったような表情で押さえた叫びを上げた。
「お会いしたことはありませんが、お噂から私もそう思います」
俺も同意する。
「男を集めている件は?」
シャルが藁に腰かけて聞いてくる。
「どう考えても戦争ですよね…フフフ」
アリスが何故がワクワクしている。
「ハイライト王国が戦争って…仕掛けられる国ってラフィール王国しかないよね」
煌の洞察は正しいそれしかない。
「だからって、ラフィール王国に勝てないですよ。
しかも爆速で戦争準備するにも一月は必要ですし、しかもそれだと教練も何もない状態になりますよ」
エテルナは頬に指をあて考えながら言う。
「勝つことを考えない戦争、自滅するための戦争なら直ぐに始められます」
俺の言葉にみんなが、“へ?”大聖女は何を言っているんだという顔になる。
余り俺の口からは言いたくないが致し方ない。
「つまり、ある程度集まった者から武器を持たせて、ラフィール王国に進軍し、開戦する」
「ステラどういうこと?」
マリアには理解できないだろうな…
「それを集まった物から逐次投入する」
「戦力の逐次投入なんて戦略上愚策よ!」
(ごもっともで…)
「そんなことをすれば、ハイライト王国の国民は勝っても負けても居なくなってしまう」
「それが目的だとしたら?」
リアナの心配に、残酷だが俺は言葉を続けた。
「ステラ。目的って言ったわよね?」
「これ、とってもいやらしい作戦だと思う。人類全体に影響するわ」
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