第32話:フルプレートVsバックショット
満天の星。
地球で見るより大きな月。
(ああ、今日は満月だったのか)
夜なのに明るいわけだ。
みんなは、馬車で既に休んでいる。
このコーチは、フットレストを起こすとフルフラットに出来る。特別仕様だ、キャンピングカーとは行かないが。最低限寝ることに関してはロイヤル仕様だった。
俺は、夜勤番で一人焚き火の前で空を眺めていた。
(涙が流れ落ちないようにしてるわけじゃないんだからね…しかし)
「上手く行かない…」
結局、剣術の訓練も、魔法の訓練も出来なかった…
「何を泣いているんだ?」
「マキシミリアン王子!」
「マキシでいい」
俺は声のした方をみると、俺に気付かれること無く、横に王子が座っていた。
「な、泣いていません」
「そうか?これを使え」
そう言って、ハンカチーフを寄越す。
(あれ?マジで泣いてた?)
「婚約者宣言早かったか?」
「婚約した憶えがないんですけど…」
「男が戦う理由は何だと思う?」
「え?
愛するものを、守るため…
生きるためですよね…」
「それもあるが、女性に強いところを見せて振り向いて貰うためだ」
(言い切ってる?)
確かに、生存本能的に肯定できる話だし、転生前は男だったから理解できるけど。(ここで異性の俺に言うか?)
「俺は、元々は人に話しかけられるのを嫌って剣術を始めたが…」
(そうでしたね)
「いつの間にか、メリージェーンの気を引くために頑張った」
(?)
「剣聖になった原動力はメリージェーンに他ならない」
(この話は…いい話なのか?)
「だが、メリージェーンは大聖女になるために必死で、どんなに良いところを見せても振り向いてくれなかった…」
王子は目頭を押さえて何かに耐えてるようだ。
「それは、切ないですね」
「剣聖になって、周りも煩くなったし。メリージェーンも振り向いてくれない。俺は戦う意味を見失ってしまった。もうフィギュアさえあれば良いやって…」
「え?はあ?」
「そんなとき、君が現れ、親身になって俺のことを見てくれた」
(そうだっけ?)
「フィギュアの代わりに…君が今の俺の全てだ!」
「私はフィギュアの代わりですか!」
憤慨し立ち上がった俺の耳に…
きゃーーーーーーー
という、遠くの悲鳴が聞こえた。
「マキシさん、今悲鳴が…」
「わかっている」
俺はロイヤル・レディース・コーチの扉を開ける。
エテルナ嬢がビクンと目を覚ます。
「悲鳴が聞こえました!
行ってきますので、何事にも対応できるようにしていて下さい」
エテルナ嬢は、外に立つ王子と俺を見て…
「どうぞごゆっくり」
とか言いやがった!
「もう!とにかくみんなを起こしておいて下さい!」
「マキシさん、向かいましょう!」
***
三キロ走ると、悲鳴や慟哭、剣の音が聞こえてきた…
「なんでしょう?」
「戦っているようだな」
魔物などの気配はしない。
「人間同士!?」
まったく、この魔の者との戦いが続くこの世界で。
「見えるぞ!」
街道沿い、左右に林がある少しだけ開けた場所で。馬車が横倒しになっているのが見える。
似たような鎧が戦っている。
「ハイライト王国の騎士!」
「のようだな、どっちにつく?」
「誰が襲われているのかわからないと…」
「では、聞いてみよう!」
(へ?)
「双方!ここはラフィール王国の領土だ!
いかなる理由で我が国内で争う!悪いのはどっちだ!」
(ホントに聞いてるよこの人)
俺達に気付いた、金属剥き出しの銀鎧を着た騎士が襲いかかってきた。
「うむ、悪いのはコイツラだ!」
「そうみたいですね…」
(なら、白く塗られた鎧側に味方するのみ)
王子が、襲いかかる銀鎧に飛び込んでいった。
あちらは任せていいだろう。
俺は、先程聞いた悲鳴の方へ向かうことにする。
街道には白鎧が何人も殺されていた。
(なんまんだーなんまんだー)
そして、最後と思われる白鎧一人の周りに、四人の銀鎧が迫っていた。
致し方ない。
「必殺プチ100万ジュールキック!」
プチを付けようが100万ジュールと言っている以上、数値は変わらない。
但しこれは銀鎧の足下に向かって放ったキックである。
着地と同時に地面がプラズマ化して、クレーターのように陥没。大地が粉砕されて破片が散弾それもバックショット(大粒の散弾)のように飛び散った。鎧は銃器による攻撃に弱い。
結果は推して知るべしである。
前回の失敗から、直接の殺傷を避けようとした結果だが…
余計に被害が大きくなった気がする。
考えてみると、100万ジュールとか、2トンの車をビルの15階相当から落とすのと変わらないんじゃね?
(あぁ、またやっちゃった?)
「と、取り敢えず《エクストラヒール》!」
あとは天に任せよう。
俺は周りを見渡す。
だ、誰も見てないよね…?
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