第20話:聖女
俺は、廊下の窓から外に出る。
廊下の先から、騎士の一団が来たからだ。
ギャザリンもついて出て来てくれた。狙いが完全に俺になったようだ。
嬉しくはないが、被害が出なくなるのは有難い。できるだけ人のいない方へと俺は走った。
ギャザリンの、魔力弾を躱しながら、全力で走る俺の前に蒼い火柱が壁をなした。
俺は進行方向に踏ん張りつつ横に転がって止まる。
『なんで、逃げるのよ』
(いや、普通逃げるだろ)
泥だらけ、傷だらけになりつつ立ち上がる。正面にはギャザリンが不服そうに立っていた。
ここは園遊会の行われた庭園の反対側。色とりどりのバラが咲く北のバラ園だった。
園の中心には八本の柱と屋根のガゼボが見える。
「何故、魔族がこんな姑息なことをしてるの!」
俺は《ホーリーブリト》を唱える。
空間から、聖なる弾がギャザリン目がけて弾幕を張る。
『業腹だけど、人間に召喚されちゃったのよ』
ギャザリンが放つ魔法弾に、《ホーリーブリト》が衝突し、俺とギャザリンの間が煙で遮られる。
(召喚?魔族を?)
「あぅ!」
俺はガゼボに走り込んだところで。ギャザリンに首を掴まれてしまった。
顔に巻いたショールが外れ下に落ちてしまう。
『貴方、さっきのちっちゃな女官じゃない』向きを変えられ顔を見られてしまった。
「先ほどは、助け起こしてくれて有難うございまし…た!!」
俺は、強化の魔法を掛けると、ギャザリンの鳩尾に渾身の蹴りを見舞った。
ギャザリンがくの字となり、手が緩むのを見計らって手を捻って手から逃れる。
ショールにも強化の魔法を掛けると、ギャザリンをぐるぐるに巻きつける。
『何をするの!』
俺は、ガゼボから逃げ出すと、《クロックロック》を唱えた。
ガゼボが次元の異なる空間の牢獄と化し鍵が掛かる。
いい加減この身体では、体力も魔力も限界であった。
だが、最後に俺は紡ぐ。
《サクリティ》
触れてはならない、犯してはならない絶対性。「神聖不可侵」の魔法だ。ガゼボの中を光の洪水が渦巻き、浄化の嵐が吹き抜ける。
その力はガゼボに掛けた《クロックロック》すら弾き飛ばし上空へと抜けていった。
静寂が訪れる。屋根のないガゼボを前に俺は力尽きていた。
風がバラを揺らす音を聞きながら俺は意識を手放した…
「…ギャザリン…逃がしちゃったか…」
***
陽光に照らされた部屋。
開け放たれた窓からはそよ風が舞い込み肌を撫でる。
俺は静かにベッドで目を開けた。
場所は俺の女官部屋のようだ。
「ステラ!目覚めた?」
「シャル…ロット様…」
「あなた、北のバラ園で倒れていたのよ。覚えてる?」
(ああそうか、俺、意識を失ったのか…)
「いえ…シャルロット様は何故ここに?」
「心配したんだからね」
頬を膨らませながら心配を訴える、可愛いものだ。
「申し訳ありません」
「お父様が呼んでいるわよ、何したの?」
「陛下が?」
(なんだろうか)
***
「ステラフィールよ面を上げよ」
侍従が声を張り上げる。
俺は王の前に出頭していた。
「はい」
「ステラフィールよ、今日を以って女官見習いの任を解く」
(え、クビ?良いけどなんで?バラ園で倒れてたこと?園遊会で居なくなったこと?)
なんだろう考えると理由がいっぱい見つかる…
王を見るとニコニコと笑っている…うえ、死罪とか言わないよな…
「今日より、教会での生活を命じる」
(えー出家ですか!?)
「は、はい」
俺は眉根を寄せて王を見ると、王が口を開いた。
「お前は今日から聖女だ」
「聖女…ですか?」
「10歳で聖女は異例のことです」侍従が俺を見て話す。
「ステラフィールよ、私と王妃の命を救ってくれたこと感謝する」
(えええ、何でバレてるの?)
王が侍従に何かを渡し、それを俺に持ってきた。
指輪だった。
自分の指とベルトを探すが無い。
この指輪だ…
「私を助けてくれたものの持ち物だ」
(あちゃー)
「今度は無くすなよ」
王様の後ろに、この指輪と同じ紋章の旗が飾られていた。
***
俺はそういう経緯で、この王に聖女にされてしまった…
「ステラよ何で私を睨む」
「いえ、なんでも」
「今夜は連邦の勇者たちを迎えての宴だ宜しく頼むぞ」
「え?」
(何を?)
************
後日談
大聖女になった時に、俺には様々な権限がもたらされた。
その中に、この園遊会の事件に関する報告書も閲覧できる権限があった。
【報告書1:魔族が模していた騎士ジャックと聖女メリージェーンについて】
騎士ジャックと聖女メリージェーンの死体が発見された。
魔族に襲われ命を落とし、討ち捨てられた状態だった…という報告書だ。
聖女メリージェーン様はもっとも大聖女に近いと言われた優しい人だったとのことだ。
俺も聖女になるなら生前に会ってみたかった…
そして、俺が足跡から判断した最後の一人。女性の足跡の持ち主らしい報告書だ。
【報告書2:魔族召喚者について】
園遊会の夜。魔族によると思われるメイドの惨殺死体が発見される。部屋には召喚に関する書籍が数多く見つかったと報告書にあった。
そのメイドはラストン子爵と同様、没落した貴族の娘で、聖女の資質検査前に没落したため魔術の才を見出されることなく。その才能を恨みを晴らすための行動に使ったらしいと締められていた…
これを見たときに、俺は言葉が出なかった…
************
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうか★をお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。




