第19話:魔族
園遊会の会場は、魔族と王を守る騎士。逃げ惑う招待客の御婦人と、商人、教会関係者でごった返していた。
騎士の剣は、魔族の身体を捉えるが、皮膚に刃が通らない。
(魔法剣か魔法付与、若しくは達人でないと厳しいんだよ!)
俺は心の中で叫ぶ。
(教会関係者、逃げてないで付与してやれよ!)
『邪魔だ!』
魔族はその膂力で騎士を右へ左へと吹き飛ばしていく。
それだけで騎士は立てなくなってしまうダメージだ。
俺は目を瞑ると、一呼吸入れる。
「致し方ない」
***
『ぐぅ』
魔人は呻くと自分の横腹を見る。
『な、フォークだと!?』
そう、剣も通らない魔族に、ナイフとフォークが刺さっていた。
俺が騎士と、騎士の隙間を狙い、聖属性の魔法付与したフォークとナイフを投擲したのだ。
サービスステーションに置かれたフォークとナイフを持てるだけ持った俺は、人影から人影に移動しつつ、ポイポイ魔族に投げつけている。
致命傷にはならないが、魔族にどんどんフォークとナイフが刺さっていく。
魔族は、それを嫌がり。大きく後ろに跳躍する。
『何が起こっている、この国には勇者も大聖女もいないはず……グガァ!』
魔族に斬り掛かった騎士の剣が若干通った。呻く魔族。
「と、通った!」
剣を振った騎士も驚いている。
「おお!」
「今が好機!」
「行くぞみんな!」
聖属性は魔族を弱体させるので、フォークとナイフが刺さった魔族は、防御力も下がっている。
騎士の斬りつけも…そうだな、百回も斬れば一回分くらいには…なるだろう。たぶん。
後は、騎士のゴリ押しで頑張ってくれ。
それより、俺は数人の騎士と聖女が王と王妃を連れて逃げるのを視界に捉えていた。
俺は、長い金髪をひっつめにし、落ちていた誰ぞの赤いショールで目だけ出るように顔に巻く。
おっと、ベルトに挟んでいた昨日貰った指輪が落ちそうになったので指に嵌める。ブカブカだ。
こんなもんかな?
…顔さえ解らなきゃOKだろう…
俺は一つ頷くと駆け出した。
***
俺は、王城の廊下の先に倒れた王と、王妃。
聖女と対峙する三人の騎士を見つけた。
王と王妃は喉に手を当てて苦しんでおり、騎士の一人が王に声を掛けている。
(アチャー間に合わなかったか)
「聖女メリージェーン。陛下に、陛下に何をした!」
騎士が叫ぶ。
「うーん。上手くいかないものね」
「何を言っている」
「最も大聖女に近いといわれた貴方が何故こんなことをするんだ」
「ほんとはもっと、スマートに人による仕業にしたかったんだけど…」
聖女の指が刃のように長くなっている。
(普通に考えて、聖女どころか、人間じゃあない)
「魔神様にお送りするはずだった、王女もなんだか生きてるみたいだし…何を間違えたのかしら」
「ま、魔神だと!」
「お前は魔族か!」
騎士の一人が気付いたように叫ぶ。
「聖女メリージェーン様は!俺の俺の、いや騎士団の憧れだったんだぞ!この気持ちどうしてくれるんだ!」
別の騎士は涙を流して、聖女に詰め寄る。
「え、え、な、何、この騎士の迫力は…」
聖女は詰め寄られ動揺している。
騎士は血の涙を流していた。
「し、知らないわよ、ち、近寄らないで」
「へグッ」
騎士は殴り飛ばされ、昏倒してしまう。
「よくも、ヨハンを!」
騎士二人が同時に動く。
俺はその隙にコッソリと王の下に近づく。
首筋に手を当て脈の状態を確認する。傷口らしい箇所の服を破く。指一本分の穴が穿たれ周囲が紫に変色していた。
「毒かー」
「お、お前は何者だ…?」
王は口の端に泡を吹き、虚ろな目で俺を見ていた。
「陛下、しばし辛抱ください」
俺は王妃の方も診ると、同じ状態であることを確認した。
(ならば…)
《キュアリフレシュ》
傷口が塞がり、変色も消えていく。
魔族の毒だろうが消し去る、ついでに不健康物質まで消す魔法だ。
「ばかな、魔族の毒だぞ…」
「はいはーい。陛下、治ったんで少し眠っててくださいね」
そう言っておれは王の目に手をあてた。
「ちょっと待…」王は俺の手を握るが、その手から手を抜く。
「貴方、私の毒消しちゃったの?」
聖女の顔をした女魔族が、俺の横にしゃがみこんで王を眺めていた。
「ええ、完治しました。
お待たせしましたか?」
倒された騎士を見て、女魔族に尋ねる。
「貴方何者?」
俺が立ち上がると、女魔族は跳んで距離を取った。
「勇者でも聖女でもなさそうだけど…」
「そうですね…」
…頬に手をやって考えるが…
「覆面女官です…」
咄嗟に良い案が浮かばなかった。アドリブに弱いんです。
『覆面女官殿。我が名は第二位階魔官ギャザリン、貴様の力に礼をもって相手をさせてもらうわ』
聖女あらため女魔族ギャザリンが声を張り上げると、肌の色と目の色が魔族のものへと変化する。
俺は一歩二歩と下がる。廊下に鋭い傷跡が刻まれる。ギャザリンの腕が不可視となって襲ってくるのだ。
ヤバイ、魔族と本気の戦いはヤバイ!
この身体がまだ耐えられない。
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